英二のハロウィンクッキー (前編) | BANANAFISH DREAM

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もしバナナフィッシュがハッピーエンドで終わるなら~365日あなたを幸せにする小説■BANANAFISH DREAM


 その日、外出していたアッシュがアパートのドアを開けると、家の中からバターの香りがした。



(何かを焼いているのか? )



 キッチンにいる英二がオーブンで何かを焼いて調理しているようだ。



(料理にしては少し甘い香りがするな……)



 五感の鋭いアッシュは鼻をくんくんと嗅ぎながらキッチンへ向かう。



 いつもなら英二は「アッシュ、お帰り!」と玄関まで笑顔で迎えてくれるのだが、彼は調理に夢中になって気付かなかったようだ。アッシュも家中に漂う香りが気になって、そのことを忘れていた。




「英二――ただいま。 何か作っているのか? 」



 エプロンをつけて夢中でオーブンを覗き込んでいた英二の背中に向かってアッシュは声をかけた。英二は驚いて振りかえった。



「アッシュ! お帰り! いつの間に帰っていたの? 全く気が付かなかったよ」



 知らぬ間にアッシュが背後に立っていたことに、英二は驚きと共に、アッシュを出迎えられなくて少しバツが悪そうな表情をする。もちろんアッシュも、英二の心境はお見通しだ。



 英二の優しさにいつも癒されているアッシュは、彼の分かりやすい性格とその誠実さに思わず微笑む。アッシュと行動を共にする子分たちが絶対に拝めない美しく優しい笑顔だ。



「――あぁ、いまさっきだ……」



「ごめんね。つい調理に夢中になって……」



「そんなこと気にすんなよ」



 二人で暮らし始めていつの間にか当たり前の習慣になっていた事に気が付いた。別に出迎える必要なんてないのに、謝る英二が可愛く思える。



「ところでお前、エプロンなんか付けて真剣に何を作っているん……」



 アッシュは言いかけた言葉を途中で飲み込んだ。先ほどの優しい笑顔はどこへ行ったのだろうか。子分たちが絶対に見たくない恐ろしく冷たい目で睨み付けた。



 アッシュは振り向いた英二のエプロンを凝視している。



「な……何だよ、そのエプロンは! 」



 英二は黒色のエプロンを身に着けていたのだが、胸元にはハロウィンのカボチャお化けが大きくプリントされていた。



 カボチャ嫌いのアッシュはたとえイラストであろうと、それを受け入れることは出来なかった。後ずさりしながら英二から離れていく。



 カボチャのエプロンを見て震えながら拒絶反応を示すアッシュの姿を見て、英二は腹をかかえて笑い出した。



「……ぷっ……! アッシュ~、何て顔しているんだよ! たかがカボチャのエプロンじゃないか! 」



(嫌がるだろうとは思ったけど……まさかここまで拒絶するだなんて……)



 滅多にないアッシュのうろたえる姿に英二は調子づく。わざと英二はプリントのカボチャを見せつけるようにアッシュに近づいてきた。


「ほらほら――。ただのイラストだよ。大丈夫だからこっちへおいでよ」


 にっこりと優しく微笑むがそれはもちろんわざとである。



 アッシュは薄目でカボチャのエプロンを見たが、


「だ、駄目だ! やっぱり俺には無理だ!」


 そう言って頭を振った。 


(面白いな――。アッシュって本当に子供みたいなところがあるよ)



 英二は更にアッシュの元に近づいた。



「や、やめろ! 英二、こっちへ来るな! 今すぐそのエプロンを脱げよ! 」




「そんな冷たい事を言うなよ。良く見ると可愛いだろう? 」




「それ以上近づくと、たとえお前でも許さないぞ! 無理やり脱がしてやるぞ! 」




 アッシュは顔を真っ赤にして、両腕をあげて怒りだした。




「あははは! 君、本当にカボチャが苦手なんだね! 」



 英二は再び大爆笑する。

 



「エプロンなんて色々あるだろう? どうしてカボチャのエプロンを着るんだよ?」



 アッシュの顔からは冷や汗が流れ出した。



(これは嫌がらせなのか――? 昨日、英二をからかって怒らせたから仕返しのつもりなのか?)



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ハロウィンが近づいてきましたので、今回はその準備をする英二のお話ですラブラブ
英二の天然さ(わざと?)を楽しんで下さいケアベア パープル。そして英二に振り回されるアッシュを可愛く思って頂ければ嬉しいです(笑)

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