英二とホットドッグ店員の恋 【後編】 | BANANAFISH DREAM

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もしバナナフィッシュがハッピーエンドで終わるなら~365日あなたを幸せにする小説■BANANAFISH DREAM-ホットドッグ

  マリーは朝からずっと緊張していた。次に彼と会ったら、言おうと強く決心していた。



(今度こそ、エイジをデートに誘おう)



 このままでは、ただのお客と店員の関係のまま――もう一歩先を進みたい――そんな想いを胸に秘めながら、英二がやってくるのを待っていた。



 マリーの願いが叶ったのか、英二が店にやってきた。しかも今日は英二ひとりだ。



(チャンスだわ!)



 マリーは意を決して英二に言った。



「ねぇエイジ。もしよければ今度、私と一緒に映画でも行かない?新作映画のチケットを店長からもらったのだけど……一緒に行ってくれる人がいなくて」


 自分で買ってきたチケットを英二に見せた。マリーは顔がひきつっていたが、出来るだけ自然な口調で言った。



「そうなんだ。ありがとう、僕を誘ってくれて」
 一瞬英二は目を丸くして驚いたようだが、すぐにっこりと笑った。



(エイジ、もしかしてOKなのかしら? )



 マリーは英二の笑顔に期待した。



「マリー、僕の家には大きな猫がいるんだ……」



「猫? 飼い猫? 」


 OKの返事を期待していたのに、突然出た猫の話にマリーは拍子抜けした。



「うーん、むしろ反対かなぁ……まぁいいかそれは。とにかくすごく世話の焼ける猫なんだ」



 愛猫の様子を思い出したのか、英二は目を細めて笑った。


「大変ね、それは」



「その猫はちょっと不安定な状態が続いているんだ。心無い人間にいじめられたトラウマがあって、ひどく傷ついているんだ――心もからだもね」



「まぁ! 可愛そうだわ! 」



「僕がいないと何もできない困った猫さ。ご飯も食べないし、放っておくと拗ねるし……僕はその猫がすごく心配で、そばにいてあげたいんだ。だから悪いけど、今は一緒に行けないよ」



「……」


 英二の言葉にマリーは肩を落とした。猫が理由だなんてそんなバカな。きっと優しいエイジはデートを断りづらいのだろうとマリーは思った。



「わかったわ……でもそんな猫といて、エイジは苦しくならないの? 」



 失望の色を隠せないままマリーは聞いた。



「そうかな? 僕はそう思ったことないよ。確かに猫は気まぐれだけど……甘えてくる時は可愛いと思うし、僕も猫に癒されたり元気をもらったりしているよ。……僕たちはすごく良いパートナーだな」



 英二は嬉しそうに笑った。マリーはこの素敵な笑顔を向けてもらう猫が心底羨ましかった。



(完全にフラれたわ……)




       ***




 数日後。街に出ていたアッシュは、マリーが他の男性と腕をくんで一緒にショッピングをしている姿を目撃した。



(どうみてもデートだよな。英二のことはもういいのか?)



 アパートメントにアッシュが帰ると、英二がドアを開けてくれた。



「アッシュ、おかえり! 」


「ただいま、英二」

 

 部屋からはチキンとハーブの香りが漂っていた。料理の途中だった英二はキッチンに戻った。アッシュも英二の後を追い、わざとニヤニヤしながら聞いた。



「英二、お前……ホットドック店のマリーとはどうなったんだよ?」



「どうもこうも……マリーは彼氏ができたみたいだよ」


「やっぱりそうか、さっき街で彼女を見かけたぜ。お前、残念だな。とうとう彼女ができるかと思ったのに」



(……?)



 マリーが自分の彼女になって欲しいと考えたことなど無い英二は不思議そうにアッシュの顔を見上げた。

 だが、英二はアッシュがニヤニヤしている事が気になった。



「君、何を笑っているの? 」



「別に」


「だってニヤニヤ笑っているから……何か可笑しいの? 」



「お前が俺よりモテるのが、気に食わなかっただけだよ」



 アッシュは心にもない事を言った。だが少しホッとしている自分がいることに気づき、慌てて心の中で否定するのであった。



<完> ←拍手ボタン



マリーからデートのお誘いを英二は受けましたが、

アッシュの名前を出さずに、愛猫をたとえにして断りました。


今は猫のそばについていてあげたいようです。

二人は良いパートナーですから……。

アッシュはホッと一安心……(笑)


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