武さんが引越したばかりの友人の家に初めて招待された時のこと。
友人に家までの道を聞くと、「『サファリパーク』の所を右に曲がってすぐ」だと言う。
駅から近いからすぐわかる、と。
武さんは面白い名前の店があるものだな、と思った。

日曜の午後、最寄り駅に着いた武さんは指定された改札口を出て、教えられた方向へ歩き出した。
道の右側に『サファリパーク』はある筈だ。
注意深く探しながら歩いたが、十分程経ってもなかなか見つからない。
ひょっとしたら通り過ぎたのかも知れない。
そう思った武さんは一旦駅の方に引き返そうと考え、友人に電話をしようとポケットの携帯に手を伸ばした。
その時、いきなり目の前を物凄い砂埃が舞い上がった。
思わず手で口元を押さえる。

──ドドドドドドドドドドドォォォォ…

激しい地響きを立てて、沢山の動物達の気配と足音だけが通り過ぎて行く。

音の出所であろう方向に目をやると、そこには『アフリカ屋』という古びた看板のサンダル屋があるだけだった。





原典: 超-1/2009 「サファリパーク」