タカは「見える」人である。
それ故にちょいちょい妙な事に巻き込まれる。
先日取り壊された廃ホテルは、ちょっとした心霊スポットとして騒がれた場所なのだが、そこにタカは仲間達と肝試しに行った。
壊される前に見ておこうという事だったらしい。
何か見えたら知らせるようにと、所謂レーダー代わりである。

廃ホテルから自宅に帰ったタカが自分の部屋に入ると、変な気配があった。
開け放した押入れの上段に、見知らぬ女が膝を抱えて座っている。
ざんばらの頭で黒いボロボロの服。
どうやら拾ってきてしまったようだ。
女はそのままタカの部屋に居着いてしまったらしく、タカは仲間達と顔を合わせる度に「あの女が出て行ってくれない」と訴えた。
目に見えてやつれてくるタカを仲間達は心配したが、彼らには病院やお祓いに行くのを勧めるくらいしか出来る事はなかった。

それから暫く経った頃。
タカの親戚に不幸があり、タカも親と一緒に葬儀に出席した。
その葬儀で、住職の読経が始まって間もなくの事だった。

お経を聞いているうちにタカは異常な眠気を催した。
最初のうちこそ我慢していたものの、すぐに抗う事も出来なくなった。
ぐらりと頭が揺れたかと思うと、正座をした状態で真横に倒れ、そのまま鼾を掻き始めたのだ。
周りにいた親や親戚が慌てて体を揺すって起こそうとする。
タカの体は硬直して重く、まるで石のようにゴロンと転がった。
それでもまだ目を覚まさない。
異変に気付き、ちらりとそちらに目をやった住職は読経を続けながら、<いいからいいから>と親戚達を制するような手振りをして頷いてみせる。
親戚達は顔を見合わし、溜息を吐きながらそのまま端の方にタカを移動して寝かせた。

読経が終わると住職はタカの傍らに立ち、何事か唱えながら手にした警策を徐に振り上げ、タカの頭や肩・背中に順に打ち下ろしていく。

──パンパンッ
──パンパンッ
──パンパンッ

次の瞬間、揺すろうが叩こうが起きなかったタカがパチッと目覚めた。
その後周囲に色々言われたが、タカ自身は自分の身に一体何が起きたのか全く覚えていなかった。
それを境に嘘のように体調が戻り、顔色も良くなった。

親戚の葬式で、自分に取り憑いてた女もついでに成仏したらしい。
「ラッキー♪」と、タカはあっけらかんと笑う。

タカは憎めない奴なのである。




原典: 超-1/2009 「ついでに」