立ち止まって考えるジュゴンのこと | ーとんとん機音日記ー

ーとんとん機音日記ー

山間部の限界集落に移り住んで、
“養蚕・糸とり・機織り”

手織りの草木染め紬を織っている・・・。
染織作家の"機織り工房"の日記


 秋も深まりゆく、わたしの住む処から、真っ直ぐに南を望めば、母方の祖母が生まれた紀伊長島に至る。高い石垣で囲われた中に頸をすくめて建つような佇まいの熊野の民家や、漁労文化や、植生や、頭上運搬の習俗や、文化の諸相の相似を追って、黒潮の流れを辿れば、沖縄にたどり着く。

深まる秋



 いままでも、開発と環境保全についての問題で、いつもつきまとうのは、工事が進行してしまっている中で争われる、工事中止の仮処分申請の事や、その是非をめぐる裁判であって、結局、それでは、工事がどんどん進行し、場合によっては完成してしまう頃に最高裁で審議中と云うようなことになって、『その時点で、訴える利益があるのか。?』というような事になってしまっている。
 もし、ここで仮に、『非を唱えて訴えた側が勝訴』というような事になっても、失われた生態系を復元するというようなことは至難の業だし、施工したものを撤去して復元するにも、また再び、莫大な税金が投入されることになる。

・・・だから、事実上の現状追認のようなことになってしまう。

 群馬県の八ツ場ダムでの例のように、完成間近の時に政治介入して工事中止を発表後に再検証と云うことになったけれども、混乱を深めるだけで、あの風情があった川原湯温泉の湯治場の雰囲気は戻らない。

 このような幾多の例から考えれば、辺野古のことも、沖縄の未来の為には、一旦立ち止まって考えることが必要だ。
 もちろん、辺野古のことは、単なる開発問題ではなくて、基地問題と関連付けれれてしまったから、だから辺野古の事は複雑だ。
 日米安保条約上、担うべき抑止力の問題。日本の自衛権と関連する問題。・・・それらの妥当な規模とは何かと再考することも必要であるが、普天間飛行場の移設に係る代替地に、なぜ辺野古案が浮上してきたのかという経緯を、再確認しておくべきであろう。


 例えば、沖縄県が公表している
『北部振興事業これまでの経緯』という文書を見れば、いわゆる辺野古移設と云うことと、沖縄県の北部振興事業との密接な関係を窺うことができる。
 辺野古問題や、沖縄知事選で争点になっている多くの要素が、沖縄だけでなく、日本全体の問題に深く関係しているというのは、沖縄の基地負担と云うことだけに留まらず、『都市部(人口が密集した地域)に設置することを避けたい施設』を、『過疎地域に地域振興と抱き合わせで押し付ける』というような都市のゴミ処理場問題などでよく見られる、行政側が採る問題解決法が、あからさまに行われている点だ。

 その意味では、これは沖縄の問題にとどまらず、これは日本各地で數限りなく行われている、『疎地に都市部で要らない物を地域振興と抱き合わせで押し付ける。・・・という問題解決の手法の妥当性が問われているところであるし、そこに吸い付いてより多くのモノや補償金を得ようとすることが当たり前となってしまった今日的な風潮についての是非を地域有力者や地域全体の良識に対して問いかけている。』


平成18年8月29日に、『第1回普天間飛行場の移設に係る措置に関する協議会』がもたれた後の、平成十九年九月の第168回国会(臨時会)で、喜納昌吉さんは、其のところについて、下に示したような質問を行っている。

 喜納氏が『沖縄の魂の問題。』と云う、ところも、そこにある。
今の時代に於いて、地域振興にかかる財源について苦悩する自治体の状況も理解できないではないが、「開発による振興か現状維持か。/お金か良心か。」というような追い詰めた選択肢を住民に突きつけるべきではないだろう。
 行政側が、積極的にそのような手法を執ることが、ひとつの問題の温床となっている。
例えば、統計等のデータに由れば、沖縄県北部地域は、過疎化が進むと共に、低所得傾向のある地域だということになっている。
 けれども、一過性の土木工事バブルによって地域が潤うことは持続しない。観光の基盤整備の名の元に、さまざまな工事を重ねれば、その資源である、生態系や景観は損なわれ、魅力があった旧のそれらとは、全く異質なテーマパーク化したものになり勝ちである。

 土木工事や施設建設、行政と助成金で癒着した各種の民間活動・・・そういうものに頼らない、地域振興の新たな形はないものなのだろうか。?

 いくら、理想を述べても、人間は弱いもので、それは貧困と犯罪発生率の結びつきや、所得低下とモラルの低下の関連などを指摘する向きも多いことから知れるところである。
 つまり、「等しく、人間が、その善性や良心を発揮できる環境を担保できるような、何らかの社会システム上の工夫が必要なのではないだろうか。?」
 喜納昌吉さんは、そのような立場から、ベーシックインカム(basic income)の導入を提言しているのではないだろうか。?
 もちろん、それが怠惰や不合理な主張や利己的な利益を図るために使われることを避けなければならないけれども・・・・・・。

「“魂の棲む場所”としての地域や、善性や良心が色濃いコミュニティーが実現できたなら、それは未来的で、とても素敵なことだ。」

 八ツ場ダムでの出来事のように、救いようの無いことにならないように、「一旦、ここで立ち止まって考えよう。」
これは、辺野古のことだけでなく、日本中、どこでも、そうした方がいい。



第168回国会(臨時会)
質問主意書
質問第九号
環境省によるジュゴンの「絶滅危惧ⅠA類」指定に関する質問主意書
右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年九月二十一日
喜 納 昌 吉   


       参議院議長 江 田 五 月 殿

   環境省によるジュゴンの「絶滅危惧ⅠA類」指定に関する質問主意書

 環境省は二〇〇七年八月三日、海洋哺乳類ジュゴンを「絶滅危惧ⅠA類」に指定した。これは日本領海内でジュゴンが主として生息している沖縄本島近海での生息環境の悪化を物語るものである。
 そこで、以下質問する。

一 ジュゴンの生息環境の悪化が何年も前から伝えられていたにもかかわらず、環境省が今年八月の時点でようやく「絶滅危惧ⅠA類」の指定をした理由を明らかにされたい。

二 名護市は、辺野古崎一帯での米海兵隊大型新基地建設問題との関連で、建設地を辺野古崎の沖合を広く埋め立てて造成することなどを主張している。これは、日米合意案と異なるものだが、政府は名護市の主張を牽制するため、ジュゴンに関する「絶滅危惧ⅠA類」の指定をしたのではないか。これについて政府の見解を明らかにされたい。

三 辺野古崎沖合を相当に埋め立てる名護市案ほどではないが、日米合意案にも埋め立て計画が含まれており、やはりジュゴンの生息環境を一層危うくさせる点で変わりない。ジュゴンについて「絶滅危惧ⅠA類」の指定をしたからには、一層のこと辺野古崎一帯での米軍基地建設計画を破棄すべきではないか。これについて政府の見解を示されたい。

  右質問する。


第168回国会(臨時会)
答弁書

答弁書第九号

内閣参質一六八第九号
  平成十九年十月二日
内閣総理大臣 福 田 康 夫   


       参議院議長 江 田 五 月 殿

参議院議員喜納昌吉君提出環境省によるジュゴンの「絶滅危惧ⅠA類」指定に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員喜納昌吉君提出環境省によるジュゴンの「絶滅危惧ⅠA類」指定に関する質問に対する答弁書

一及び二について

 平成十九年八月に公表されたレッドリストにおいては、主に浅海域に依存する海棲哺乳類についても新たに評価対象種に含めることとしたため、ジュゴンを評価対象種としたものである。
 また、平成十五年に環境省に設置された「絶滅のおそれのある種の選定委員会哺乳類分科会」において、専門家の科学的知見に基づきジュゴンの絶滅のおそれの度合いを評価した結果、ジュゴンの成熟個体数が五十未満であると推定されたことから、レッドリストの評価基準に基づき「絶滅危惧ⅠA類」と判断したものであり、この判断は、御指摘の名護市の主張と関連を有するものではない。

三について

 普天間飛行場の移設・返還については、平成十八年五月一日の日米安全保障協議委員会の際に発表された「再編実施のための日米のロードマップ」に従って実施していくこととしている。
 なお、普天間飛行場代替施設の建設に当たっては、環境影響評価法(平成九年法律第八十一号)等の規定に基づく環境影響評価を実施し、ジュゴンの生息環境を始めとする自然環境の保全に十分配慮して進めることとしている。

質問主意書pdf
答弁書pdf
《・・・以上 House of Councillors, The National Diet of Japan より全部引用》