ホームレスが立ち直れる国 | 世界一小さい新聞

ホームレスが立ち直れる国

日に日に寒くなる朝、
体が温かくなるように勢い付けて
大学行きのバス停まで歩く癖がついている。


いつものように、本通りから脇の抜け道に入ると、
ホームレスの雑誌「ビッグ・イッシュー」を売る男の子が
フリースのジッパーを首まであげ、ボンボン付numberを被って、
これもまたいつものように、寒さを紛らわすように
足でリズムを取りながら声をかけてくる。


   「ビッグ・イッシュー、プリーズ。サー」


僕は、通りすがりにちらっと表紙を見て
数メートル行き、引き返した。


   「最新号はジョージ・マイケルの特集なんだって?」
   「そうさ。だから買わない奴はバカなのさ」
   「じゃあ、僕らはバカじゃない、だって妻は、マイケルのフリークだから。買うよ」


と言いながら2ポンドを渡す。



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マイケルの記事はダイレクトなインタビューではなかったものの、
2年前にハンガリーで彼のコンサートに出かけたことを
思い出しながら、通勤バスの中で面白く彼の記事を読んだ。


そういえば、ハンガリーの時、
コンサート終了時にすでに地下鉄の終電が去った後だった。
帰宅する観客であふれたため、何台もバスを見送り、
何台めかのすし詰めバスに乗るさいに思わず妻に、


   「絶対に乗れ、後ろを振り向くな! 僕を気にするな!」


と、まるで難民バスみたいに、必死にさせられた。


雑誌「ビッグ・イッシュー」は、
ホームレスの人達が自分で売った分を立ち直り資金にして
人生を再出発する、わかりやすくいうと「ホームレス応援雑誌」だ。


記事を書くライターの多くは元ホームレスで、
通りでの生活実体験から来るのだろう、
なんとも表現のできないほど滋味あるものに仕上げてくれている。


彼によると、英国のホームレスがもっともきつく感じるのが、寒さの厳しくなる
クリスマスの時期だそうだ。


ライターのジョセフ・アンソニーも、また元ホームレスで、
彼はこんな風に記述している。


   通りに座ったり寝たりしていた頃、
   僕は過去のよい時のことを考えたり、
   家族のことを考えながら、
   一緒に暮らしたいなあと思ったもんだ。


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このきつい時期、彼を助けてくれたのが、
「クライシス」というシェルター団体。
そこでは、温かい食事やベッド、医療まで提供してくれた。


そのありがたみが今も忘れられない。
だから、彼は、今年、この団体にボランティア志願した。


人々と働くのが好きだし、路上生活者とは波長があうそうだから、
きっと、うまく助けることができるだろう、と彼は思っている。


   今年は、僕が何かをお返しする番だ。
   メリー・クリスマス!


路地で私が買ったビッグ・イッシューの男の子(ヴェンダー)に
仕事はどうか? などとちょっと話をした。


   「今年は、俺たちの仲間の数がうなぎのぼり。
   でも、ここ6ヶ月は2割ほど売り上げが落ちているんだ」


当然、仲間が増えると、生存競争が激しくなるし、
今年は、金融危機で道行く人々の財布も固い。
彼らの販売成績は、フリーの客より、
いかになじみ読者を獲得するかにかかっているようだ。