ウェイバーは夢を見ていた、それはサーヴァントであるライダーことイスカンダルが目指す場所が、はるか彼方のオケアノスである事を告げる内容だった。目覚めた時には高いびきを彼を本当は、連れ出したくない街へと連れ出そうと考えた。「ただの気分転換だよ。お前だって盛り場を歩きたいって言っていただろ。」訝しがるライダーに対し、彼の事をもっと知りたい欲求を素直に表現せず、ウェイバーは本心を隠しながらも、イスカンダルとして征服をし続けた過去と今の彼の結び付きを理解しようと思っていたのだ。(ウェイバーは素直じゃないから、イスカンダルの事を知りたいとは言えないのですね。しかし、夢にまで出て来るイスカンダルの存在は、どんどん大きくなっている。自分とは全く正反対の大きな野望を抱いていた生き様は、ウェイバーの中で何かを変えるきっかけになっているかもしれません。)



 同じ頃、工房に戻って来た龍之介とキャスターは、ライダーによって徹底的に破壊された光景を目の当たりにした。「ひでええあんまりだ!精魂込めて仕上げて来た俺達のアートが、これが人間のやる事かよ。」膝を付き涙を流しながら、自分達のやって来た事を台無しにされた事を嘆く龍之介。「龍之介、本当の美と調和を理解出来る人間は一握り。大概の俗物は、美とは破壊の対象になりえないのです。」俗物だから破壊されたのだと慰めるキャスターだが、龍之介は自分達の行為が、神の怒りを買ったのだと思ったのだが、神という言葉にキャスターが環状をむき出しにして怒りを顕にした。



 「これだけは言っておきますよ龍之介、神は人間を罰しない!ただ玩弄(遊び道具として弄ぶ事)するだけです。かつて私は、地上で具現しうる限りの悪逆と篤信を積み重ねた。殺せども殺せどもこの身に神罰は無く、気が付けば邪悪の探求は8年に渡り、放任され感化された。結局、私を滅ぼしたのは、私と同じ人間の欲得でした。教会と国王が私を処刑したのは、我が手中にあった富と領土を簒奪したいが為だった。我が背徳を止めたのは、ただの略奪だったのですよ。」自分は悪事の限りを尽くした。しかし、神が自らの罪を咎める事はなかった。自分を殺したのは、同じ人間の欲だった。だから、神など存在しないと強い口調で主張したかったのだ。それでも龍之介は、神の存在を信じていた。(神なんて、宗教の偶像でしかない。ジル・ド・レイは、ジャンヌを失ったから神の存在をより信じる事が出来なかった。だから、神の存在なんて無いと思って悪事の数々を重ねたのかもしれません。信仰って人それぞれだけど、ジルにとってのジャンヌは本当にかけがえの無い存在だったのでしょうね。逆に龍之介は、神の存在っているって信じているみたい。)



 キャスターは、信仰も無く奇跡も体験した事が無い龍之介が、神の存在を語る事に疑問を抱いていたが、神を信じる理由は意外なものだった。「この世は退屈だらけのようでいて、探せば探すほど面白おかしい事が多すぎる。昔から思っていたよ、こんなに面白おかしい事が仕込まれているのって、出来すぎているって。きっと登場人物50億人の大河小説を書いている円ターテナーがいるんだ。そんな奴を語るのなら、神様と呼ぶしかねえ。そりゃ人間をゾッコンに愛しているさ。この世界のシナリオをずっと書いているのなら、愛してなきゃやってられないって。きっとノリノリで書いているさ。」世の中には面白おかしい事が沢山ある。神様は人間散華や殺し合いなど、人間の喜怒哀楽を描く事が大好きだから、こんなに面白いんだと主張するのだ。そんな考え方を持つ龍之介に対し、キャスターは俗物ばかりの現代には珍しい稀有な存在だと思い「心服しました龍之介。我がマスターよ!」一礼して最大限の賛辞を送った。



 しかも、自分が抱き続けていた神を否定する篤信が、龍之介から見たら崇拝だと思われていたら開き直って笑うしかない。「なるほど、その悪辣な趣向も頷ける。よろしいならば一際鮮やかな絶望と慟哭で、神の庭を染め上げてやろうではないですか。娯楽の何かを心得ているのは、神だけではないと天上の演出家に知らしめてやらねば。」キャスターは演出する神も道化と同じなら、自分が描く悪辣な趣向を具現化して、絶望と慟哭を撒き散らそうと思った。新たな展開に龍之介は興奮し、2人の仕掛ける新たな悪逆非道の行いが始まろうとしていた。(神なんて居ないと思っていたキャスターと神が世の中を創り動かしていると思っている龍之介。神の存在に関しては、2人とも考えが違うみたいですけど、キャスターは何かとんでもない事をやりそう。神が自分達と同じような存在なら、自分達で新たなストーリーを作ろうって感じですかね。)




 書店に到着したウェイバーは、1冊の本を発見した。「ALEXANDER THE GREAT」アレキサンダー大王の名で、歴史の教科書に記載されているライダーの伝記である。そこには戦争で勝利し得た支配や利権も全て地元の豪族に放り投げ、東へ去っていった様子が記載されていた。「夢で見た通りだ!オケアヌスへ辿り着きたいが為に遠征を続けたのか。」伝記を読みライダーの目的と夢が合致した事を理解したウェイバーの元にライダーが戻って来た。「何とアドミラブル大戦略は本日発売であったぞ!余のラックはやっぱり伊達ではないわ。ゲーム機も抜かりはないぞ。早速対戦プレーだ!」お気に入りの戦略シミュレーションゲームを買って、ご満悦のライダーに対し、俗なゲームには興味がないと口走るウェイバー。「どうして、貴様は自分の世界を狭めるかなあ?ちっとは楽しい事を探そうとは思わんのか?そんな貴様が興味を持ったのが、この本か。これは余の伝記ではないか。」了見を狭めていると思っていたマスターが、興味を持ったのが自分の伝記だったとは、流石ライダーもビックリして「直接本人に聞いてみればいいではないか?」改めて自分に聞けば良いと言い始めた。(歴史上の人物が目の前にいるなんてありえない事が起こっている。しかも、主従関係を保つには直接本人聞く事は、おそらくウェイバーにとっては受け入れ難い事でしょう。だから、本を見て知ろうと思った。本当に興味が無ければ、本だって手に取らないでしょうけど、ライダーにはそれが変だと思ったのでしょうね。)




 早速、伝記にはイスカンダルは背が低かったと記載があるのに、どうして現界している本人は馬鹿でかいのかと尋ねられたら、「余がワイク(チビ)とな?やはりどこの誰だか判らん奴が書きとめた本などアテにならんもんだわい。あはははははは。まあ別に気にする事ではないがな。それでも史実に名を刻むというのは、不死性であるがな。まあ本の中で2000年も名が長らえてもしょうがないわい。せめて、100分の1でも空蝉の寿命が欲しかったわい。」伝記なんてアテにならない。長く残る事は不死性があるが、それよりも実際に生きる時間が欲しかった。30数年の人生ではなく、もっと大地を駆け回りたかったという、聖杯に求める願いの根底にある気持ちをライダーは、豪快に笑いながら語った。



 夕刻、キャスターと龍之介は川の側にいた。「最高にクールをお見せしますよ龍之介。」ドキドキわくわくする龍之介に最高のショーを見せると豪語するキャスターは、 螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)を開き始めた。川は渦を巻き始め、何か強大な海魔が呼び出される予感がひしひしと漂い始めていた。そんな危険な状況になりつつある中、本屋から下宿先に戻ろうとするウェイバーは元気がなかった。「お前みたいな勝手当たり前なサーヴァントがいても、僕には何の自慢にもならない。いっそアサシンと契約していた方がよかったんだ。」偉大な征服王イスカンダルがサーヴァントなら勝って当たり前、自分の考えや作戦がなくても結果は変わる事がない。そんなマスターとしてのプライドが、ウェイバーを苦しめていた。(なるほど、ウェイバー君はそんな事を思っていたのか。しかし、それってある意味偶然が重なってマスターになったわけだから仕方ないのかもしれないですね。自分の力を証明したいという小さい願いが、逆にプライドとなっているのは皮肉なのですけど。)




 「そりゃ無茶だったじゃないかの。多分死んでいたぞ!しかし、死んでも本能だって言われてもな、貴様の願いが余を魅了する大望なら従うのもやぶさかではなかったが、いかんせん背丈を伸ばしたいっていうだけではなあ。何も聖杯戦争が、貴様の人生最大の見せ場って訳ではなかろう。いずれ貴様が、真に尊いって思える生き様を見出したなら、その時には嫌がおうにも自分の戦いをしなければならん。己の戦場はその時に求めれば遅くはない。」人生の戦いの場は、自分で決めた道の先に在る。聖杯戦争はその戦いの場ではないから、別に気にする事はないはずだとライダーは主張するが、逆にウェイバーは自分でなく他のマスターだったら、問題なく勝てたはずだと卑屈になっていた。






 「この世界の絵の隣に余と貴様を描いてみよ。描けないであろう。世界から見たら、貴様も余も同じ極小の点でしかない。そんな2人の背を比べてどうする。貴様は自分の小ささを理解している。それなのに高みを目指そうとしている。貴様は筋金入りのバカだ。だがな、余も2000年経過していても同じ夢を抱いている。そんな余も大馬鹿者だ。だから、バカな坊主との契約が真に心地よいぞ。」自分達は世界から見たら小さな存在だ。しかも、同じバカだからシンクロするところがある。ウェイバーとの関係は、自分にとっては大きなプラスだと励ますようにライダーは答えた。(互いに似ている所がある。ライダーは卑屈なウェイバーに理解を求めようとしている。そういう人間関係をきちんと描いているのが、この作品の良い所ですね。大学生と歴史に名を残す征服王が、聖杯を求めて戦うなんておとぎ話も良い所なのですけど、互いに人間らしい感情がぶつかっていて、そういう所が見ていて親近感を覚えるのです。)




日が暮れて夜になり、異変を感じたセイバーとアイリスフィールは、車を飛ばしてキャスターが儀式を行っている川に到着した。「証拠にもなく外道め、今夜は何を仕掛けるつもりだ?」外道だと断罪するキャスターに怒りを顕にするセイバー。「申し訳ないがジャンヌ、今宵の主賓はあなたではない。ですが、列席していただけるのなら、私としても至上の喜びである。ジル・ド・レイがもようす、死と退廃の競演をどうか心行くまで満喫されますよう。今再び、我らは再び救世の旗を掲げよう。」キャスターの合図で、巨大な海魔が召喚された。キャスター自身を吸収し、その姿はまさに神に答えを問い掛けるようなメッセージが込められている。たった1人では太刀打ち出来ない。指物セイバーであっても腕を封じられている以上協力が必要な状況だったが、そこに現れたのはライダーだった。「騎士王よ!今宵は休戦だ。ランサーに話をしたら承諾した。」ライダーの合図で休戦が申し込まれ、ランサーも巨大海魔打倒に名乗りを上げていた。


 「了解した、こちらも共闘しよう。しばしの命だが、共に忠を誓おう。」まずはキャスター打倒が専決とばかりにセイバーも共闘を承諾した。「アインツベルン、あんた達に策は?一度キャスターと戦っているのだろ?」具体的な作戦について、ウェイバーが尋ねた。「とにかく速攻で倒すしかないわ。今はキャスターからの魔力供給で現界を保っているのだけれど、あれが独自に糧を得て、自給自足を始めたら手が付けられないわ。」魔力を与えられている間に倒すしかない。速攻勝負が、アイリスフィールの作戦だった。ただし、キャスターは海魔の中にいる。どうやって倒す事が出来るのか?「引きずり出す!それしかあるまい。奴の宝具さえむき出しに出来れば、俺のゲイジャルグは、一撃で術式を破壊出来る。物さえ見えれば造作もない。」キャスターを引きずり出して、宝具を無効化する事。それが唯一の勝利の道だと、駆け付けたランサーが全員に説明した。



 「ならば、先鋒は私とライダーが務める。この身は、湖の乙女より加護を授かっている。水によってわが身を遮る事はない。」セイバーは水の上を歩行可能なのだ。だから、海魔の奥に潜むキャスターを引きずり出す役を買って出たのだ。そして、一番先にライダーが出陣し、続いて決着をつけようとセイバーが、強大な海魔に向かって剣を向けるのだった。(普通って、キャスターを倒して終わりじゃないのですか?それが、戦いの前で終わりってなんという生殺しなんですか?それは結構辛いけど、今回は前半戦のラストとしては、まあここまででしょうがないかなって感じですかね昨日全くログインできなかったので、ようやく書きとめておいた記事をアップする事が出来ました。期待していた方には、本当に申し訳なく思っております。)