贅沢なトマト | 天川 彩の こころ日和

天川 彩の こころ日和

作家・自然派プロデューサーである

天川 彩(Tenkawa Aya)が

日々の中で感じたこと、出会ったこと、
見えたものなどを綴る日記です。

サンマルツァーノという種類のトマト、ご存知ですか?料理用トマトの世界最高種といわれているものですが、我が家に、三宅島から今年2度目となるサンマルツァーノが届きました。





イタリアの伝統的料理用(加熱)トマト。とにかく、味が濃くて、昨年初めて食した時には、その美味しさに悶絶してしまいました。収穫量が限られているため、春に注文し夏に届くのを待つのですが、今年は2回に分けて配送してもらえるようにお願いして注文。


7月の初めに第一便で届いたものも食べ終わり、第ニ便が届くことを首を長くして楽しみにしていたので、もう嬉しくて♪


このトマトのことを知ったのは、ドリアン助川さんのFacebook投稿から。ドリアン助川さんは作家、詩人、歌手、そして大学教授という様々な顔をお持ちの方ですが、実は三宅島でこのトマト栽培が始まるきっかけを作った人物でもあるのです。


余談になりますが、かつてマガジンハウス社が1981年に創刊し1997年まで続いた『ダ・カーポ』という雑誌がありました。



私はこの雑誌の古くからの愛読者で2週間に一度発行されるこの雑誌を、ほぼ毎号購入していました。「現代が3時間でわかる」というフレーズ。B5サイズの雑誌で、鞄の中に入れやすく、若かりし頃のワタシは、社会の流れや日本のこと、世界のこと、色々なことをこの雑誌から学んでいました。


特にこの雑誌の中で楽しみにしていたのはドリアンさんのページでした。一人暮らしで孤独だった時、仕事がうまくいかなかった時、子育てで社会から孤立しているように感じていた時…。心に寄り添い語りかけてくれるようなドリアンさんの文章にいつも勇気づけられていました。


残念ながらダ・カーポは廃刊となり、ドリアンさんのお名前も見かけなくなっていましたが、それから何年も経って、樹木希林さん主演の元ハンセン病患者と若者の物語、映画『あん』で原作者としてドリアンさんのお名前を見つけました。その時には、驚くやら嬉しいやら。

映画『あん』は、その後世界各地で上映され、

小説『あん』は確か13ヵ国語に翻訳され…。



やはりヒトの心に寄り添う作品は、世界中に広がるのですね。そして、ありがたいことにFacebookでドリアンさんと繋がることが出来ました。


そこで、なんとドリアンさんとワタシ、同じ小学校(芦屋市立岩園小学校)の同窓生だったことがわかり、超ビックリ!

それも私の方が一年学年上でした(笑)


なんだか急に親近感を持った頃、ドリアンさんが『三宅サンマルツァーノ』のトマトに関する話をFacebookに載せていました。


サンマルツァーノという種類のトマトは、私たちが食べ慣れている、いわゆる生食のトマトではなく、火を通して調理して食するものです。アメリカでもメキシコでも人気No.1のトマトだそうで、もちろん、本場イタリア料理にも欠かせないこのトマト。


21世紀が始まってすぐの頃、人生の分岐点にいたドリアンさん。しばらくニューヨークで暮らしていたそうですが、その時、レストランでのお気に入り定番メニューが、サンマルツァーノトマトのローストしたものだったのだとか。


原産地はイタリア・ベスビオス火山やエトナ山近郊。太陽の光をたっぷり浴びる温暖な気候と火山灰土が、旨みたっぷりのこのトマトを育てるのだと知った頃…。ニューヨークで三宅島の噴火で避難していた島民が島に戻りはじめたというニュースを見たドリアンさん。


三宅島なら温厚な気候と火山灰がある。新たな名産物として、サンマルツァーノトマトを栽培したら島の復興にも役立つのでは?と思いついたのだそうです。


でも、それが現実になるまでにはかなりの時間を要したようですが…


ドリアンさんのその想いの背中を押してくれたのが、樹木希林さんでした。


ドリアンさんと樹木希林さんは、日本はもとより世界中を一緒に講演で巡るようになり、


(*このお二人のツーショット写真は「婦人画報」のものです)


三宅島でもトークショーが企画され向かった飛行機の中で、以前から思っていたことを希林さんに話したそうです。内緒の話として(笑)。ところがトークショーで、突然、その話を振ってきたのだとか。


なんとも樹木希林さんらしいですよね。


ドリアンさんは、このことから本気でこのトマト栽培を実現しようと三宅島に居も構え…。ホント凄い実行力です。


そんなドリアンさんの熱き思いに応えて栽培に手を挙げられたのが菊地農園さんです。


菊地さんの「三宅サンマルツァーノ」は今や予約ですぐにいっぱいになり、なかなか入手困難になっているようで、三宅島の他の農家さんでも最近、サンマルツァーノを作り出したのだとか。


ドリアンさん、このトマトの収益は一円も貰っていないそうですが、思い描いていたビジョンがカタチになり、三宅島の復興と特産品として、本格的に定着していること。何より人や大地との縁が結ばれたことが嬉しいそうです。


なんだか、その感覚とてもよくわかります!


そんな物語がいっぱい詰まった「三宅サンマルツァーノ」を今日もいただける幸せ。


オリーブオイルで炒めて、塩胡椒だけで充分に美味しいのですが、様々なアレンジをしながら夏の間楽しんでいます。


ちなみに…

私の夫の父親は三宅島出身。夫にとっても三宅島は故郷のような場所です。結婚する前、三宅島の話をよく聞いていたので、夫に頼み島に連れて行ってもらえるよう計画を立てました。ところが噴火してしまい…。そのうち夫のお爺さんも亡くなり、親族も島を離れてしまい、次第に行くタイミングを見失ってしまいました。


でも、このトマトと出合い、三宅島への道が再び繋がったような気がします。夫の祖先のお墓は、溶岩の下だと聞きます。

いつか三宅島へ行けた折には、お墓参りと共に菊地農園さんも是非訪ねてみたいと思っています。