人生をひらく読書の用法上の留意点 - 書評 - 読書こそが人生をひらく | 知磨き倶楽部 ~ビジネス書で「知」のトレーニングを!~

人生をひらく読書の用法上の留意点 - 書評 - 読書こそが人生をひらく


「少にして学ばば、則ち壮にして為すあり。壮にして学ばば、則ち老いて衰えず。老いて学ばば、則ち死して朽ちず」
―――佐藤一斎『言志晩録』

先日、渡部昇一さんの『知的余生の方法』を紹介しましたが、その中でも渡部さんは壮にして学ぶことの大切さを説かれていました。
同書は「知的余生」に重きを置かれた本でしたので、「余生」にまで持ち越せる、自分の興味のあることを勉強して蓄積する、という教えでした。
例えば、僕なんぞ仕事の必要性から金融関係の法律を一生懸命勉強したりしていますが、決して興味があるわけではありませんので、どれだけ本を読んだとしても「壮にして学ぶ」ということとは別物だというわけです。

このブログは「知磨き倶楽部」というタイトルをつけ、読書で――特にビジネス書を読むことで――「知」を磨いていきましょう、という考え方をもっています。
そんな僕にとって、本書の「読書こそが人生をひらく」というタイトルは耳に心地がよいものです。
「知を磨く」どころか「人生をひらく」ことができてしまうわけですよ。
冒頭の佐藤一斎さんの言葉にあるとおり、人は常に学び続けることで、その先の人生をひらき死してなお何物かを残し得ると思うと、読書にも一層の熱が入るというものです。

しかし、「読書」と言ってもそれは人によって大きく捉え方の違う行為でしょう。
広義に捉えれば「読み手に伝えることを目的として書かれた文章を読む」という行為のすべてが読書に入ります。
昨今の電子書籍の台頭により、日本語で示される「書を読む」という文字通りの行為では「読書」は捉えきれなくなっています(電子「書」籍なので一応はいいのかな…)。
また、対象になる「書」の方も、小説やエッセイから、ルポタージュ、ビジネス書、専門書など幅広い対象があり、それぞれの「読書」は同じようには捉えにくいところがあります。

そこで、ここでは「人生をひらく読書における用法上の注意点」をまとめてみることで、今後の「読書」を考えてみたいと思います。

1. インターネットと使い分けなければいけません
中山 辞書に限らず、デジタル化やインターネットの利用というのは、非常に大きな動きだと思います。(p.23)
渡部 いわゆる食事とサプリメントの違いは、本とインターネットの違いではないかと思うようになったのです。(p.24)
読書を食事に喩えるのは小飼弾さんもそうでした(『空気を読むな、本を読め。 小飼弾の頭が強くなる読書法』)。
「知の巨人」と喩えられるような人にとっては何か共通するような感覚があるのかもしれません。

現代では情報、知識を効率的に得るという点においては書籍よりもインターネットの方が遥かに勝っていますし、辞書などもその便利さは使ってみると手放せません。
ただ、サプリメントが今よりも飛躍的に発展して、生存に必要な栄養素をすべて摂取することが可能になったとしても、やはり食事を摂りたいなあと思う感情は理解できます。
ただ、そうだとすると、知識を効率的に得ることを目的に読むような本や一時的な娯楽として読むような本は電子書籍・インターネットへと進み、高価な嗜好品として紙の書籍は残っていくというのが未来の形なのかもしれませんね……。

2. やみくもに読んでもいけません
中山 ただやみくもに読書をすればよいというのではなく、モンテーニュのような選びに選んだ読書の仕方もすばらしいと思います。(p.36)
中山 今日のように情報が溢れている時代であるからこそ、余分な情報はそぎ落とし、ほんとうに滋養のあるものだけを摂取するようにしないと、情報のメタボリック・シンドロームになってしまう危険性があるのではないでしょうか。(p.37)
最近、個人的にはやや多読傾向にありますが、ある程度のところで精読に戻らないといけません。
多読を可能にしているのは、いわゆる「差分読書」(『空気を読むな、本を読め。 小飼弾の頭が強くなる読書法』)ですから、一冊から得られる滋養は少なくなってきているとも言えますし。
一応、本棚にはじっくり時間をかけて読みたい本たちも控えていますので、そろそろ取り掛かってみましょうか。

3. 継続しなければいけません
中山 学びというのはマラソンみたいなもので、ずっと走り続けなければならない。一度休憩すると、また走り出すには倍の努力がいる。だから知的習慣というのは非常に重要だということですね。(p.45)
中山 肉体を鍛えるには運動が必要なように、脳を鍛えるには読書などのエクササイズが必要だと。そういえば、アイルランド生まれのジャーナリストで劇作家でもあるリチャード・スティールも、「精神にとっての読書は肉体にとっての運動である」(Reading is to the mind what exercise is to the body.)と言っていますね。(p.260)
僕は書評ブログを書いているということもあり、継続性については今のところ心配はないです。
ただ、以前そうだったことがありますが、読書自体は好きでも、仕事などの忙しさに追われて離れていってしまうことってあると思います。
就寝前などに数ページでもいいから読むような習慣をもつといいでしょう(枕元にあるだけでもずいぶん違います)。
僕は読みながら寝てしまうということもしばしばです(笑)

4. 子供たちへの影響も考えなければいけません
中山 真の教育には教師と子供との人格的交わりが不可欠ですね。教師が読書を楽しむ人だったら、子供たちもその影響を受けて読書にいそしむようになるでしょう。(p.263)
僕自身は、「読書を楽しむ」タイプの教師には出会った記憶はありませんが(生徒に見せなかっただけで実際はいらっしゃったとは思いますけど)、大人が子供たちの為にしてあげられる数少ないことの一つでしょうね。
教師というよりも親という立場で考えますと、「この本を読むといいよ」と直接的に薦めるという方法もあるでしょうが、子供が自然と読書にいそしむような環境を作り上げるように努めたいと思います。
そのためには、まず自分が「人生をひらく読書」をしなければなりませんが。

5. 「書」は手元で愛さなければいけません
渡部 書物は武士の刀みたいなものです。文科系の人間は本については贅沢をしてよいと、私は考えるわけです。(p.77)
渡部 小さなプライベート・ライブラリーをつくるのを楽しみにしたりするのもいいと思います。(中略)今はレファレンス(資料検索)のほうはインターネットでできるから、ほんとうに自分の愛読書、もう一度読みたくなるような本を持つことです。それが増えていって晩年に至るというのは、いいことだと思いますよ。(p.263)
渡部さんは古書・書籍収集家でもありますから、初版本などに数千万円という常人では信じ難いほどの大金を投じられる方です。
そういうレベルでの「贅沢」が誰にでも許されるとは思いませんが、身の丈にあった範囲で「贅沢」を許すことは必要ですよね。
僕らであれば、ちょっと高いかな…と思うような本も積極的に買ってみるということになるでしょう。
※ 参考: 「鹿田尚樹」になるための3つのポイント - 書評 - 10分間リーディング (2010年11月1日)

成毛眞さんも『実践! 多読術 本は「組み合わせ」で読みこなせ』で「格好のいい蔵書棚を作るのが私のライフワーク」だと書かれていましたが、そうした積み上げの結果にできあがったライブラリーは、まさに自分自身を形作った核を写し出す鏡のようなものですよね。
考えただけでもワクワクする光景ですが、それは「知的余生」の楽しみにしておきたいと思います。


本書では、渡部さんと中山さんが、その豊富な「読書」体験によって培われた知性と教養によって、非常にさまざまな話題で対談を展開されています。
中山さんは現代の寿命でいえば、まだまだ「壮」なのでしょうが、渡部さんは80歳を迎えられているにも関わらず、まさに「老いて衰えず」です。
読書によって人生をひらき、充実させている姿を目の当たりにすることができ、自分の人生もかくありたいものだと思わせてくれます。
ぜひ、用法上の注意をよく守って「読書」にいそしむことにしましょう。

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■ 基礎データ

著者: 渡部昇一、中山理
出版社: モラロジー研究所 2010年8月
ページ数: 269頁
紹介文:
「本」という「器」を愛せよ! 師弟対談。知の巨人・渡部昇一氏と麗澤大学学長・中山理氏が語る読書の喜びと充実した人生の築き方。

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モラロジー研究所
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■ 本文中で紹介した書籍に関する書評記事

35歳から始める知的な余生を送るための7つの習慣 - 書評 - 知的余生の方法 (2010年11月22日)
【書評】空気を読むな、本を読め。 (2009年10月28日)
■書評■ 実践! 多読術 本は「組み合わせ」で読みこなせ (2010年8月11日)

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