■書評■ 膨張思念 幸せを招く寝言、戯れ言46 | 知磨き倶楽部 ~ビジネス書で「知」のトレーニングを!~

■書評■ 膨張思念 幸せを招く寝言、戯れ言46


読んだ人の人間的成長を促すような本を自己啓発書というのだとすれば、本書は紛れもなく自己啓発書に位置づけられる。
しかし、僕らが自己啓発書を読むときって、その著者がどんな人かという情報が多分に重要であって、その著者の経験なりに裏打ちされた教えだったり、その著者の教えを実践して成功している人が沢山いるという実績があるからこそ導かれてみようと思うもの。
特に僕のように「権威に弱い」ところがあるようなタイプなら尚更であるが、そういうタイプの人間にとっては本書はなかなかに厄介な存在だ。

本書は空想の産物だ!: この本の「膨張思念」というタイトルは私の身近で起こったちっちゃいことや、思いついてしまった何ということもない空想をゴロゴロ×2雪ダルマみたいに転がしまくってでき上がった"答え"です。(p.3)

著者の西口千草さんは"元"芸人とのことであるが、今どういう方なのかという情報を本書からは拾えず、そういう意味で実績が見えない。
さらに、本書の内容はもちろん西口さんの過去の体験などがあるからこそ、ではあるものの、基本的に"空想"だと言い切られてしまった(笑)

となると、この手の自己啓発書は純粋にネタで勝負する類のものになるわけだが、この手の本は当たれば(嵌れば)大きいし、そうでなければ得るところなく終わるというものになりやすい。
著者自身を全く消しているのでタイプは少し違うが、マネー・ヘッタ・チャンの『ヘッテルとフエーテル 本当に残酷なマネー版グリム童話』が大当たりタイプの自己啓発寓話だろう。
※参考: 【書評】ヘッテルとフエーテル

さて、本書はどうだったかというと……気がつけば読みながら付箋を貼りまくっている自分がいたわけで。
西口さんによる"空想"の産物は、全部が全部ではないけれど、的確に僕の心を掴んでいった。
たとえば、一つあげてみよう。

分岐点まで戻れ: 時々、選ばなかった道を選んでいる自分を想像する……「今でもお笑いを続けている自分」「演劇をやり続けていた自分」「東京に来ることなく地元で就職した自分」……誰と比べてみても今の自分が一番好き、そんなふうに思えることが嬉しい。(p.194)

"空想"で僕らに伝えようとしていることは直接はこのことじゃないけれど、西口さんの"実績"が垣間見える箇所。

誰にも「あのとき、あっちの道を選んでいたら……」という分岐点があったと思う。
いちおう僕にも、月並みだけれど「転職せずに前の会社に残っていたら…」とか、「(結婚前に)妻から別れようと言われたときに分かったなんて言ってしまっていたら…」とか、「最初の会社に入らずに国家公務員試験受けていたら…」とか、人生結構変わっただろうなあと思う分岐点はあった。
そんな自分に可能性のあったいろいろな姿を想像してみたときに、それでも今の自分でよかったと言い切れるかどうか。
あ……僕は性格的に言えそうな気がするけど(笑)、Yesと言い切れるなら幸せな人生だ。
Noだったら……ちょっと心をデッカくするために、本書でもって頭に幸せの種を蒔くところから始めてみてもいいかもしれない。

本書の使い方: この本を書き上げてまず夫に見せたのだが「俺はそうは思わない」という部分もいくつかあるらしい。そりゃそうだ。一人一人辿ってきた歴史も違うし、考え方も違う、指紋と同じだ。だからこれらの寝言、戯れ言のうち、たったひとつでもいいから賛同できるものがあったら読み込んで実践してほしい。(p.221)

確かに、本書は賛同できるところをうんうん頷いて取り入れていくという、お気楽なスタイルでの読書が向いている。
批判的に読んで「そりゃ違うだろう~」と言ってもいいけれど、それでは幸せは生み出されないと思う。
ここで、僕が付箋を貼りまくった中から3つだけ、実践のためにお持ち帰りさせていただいたことを紹介しておきたい。

全員に負けろ!: 「この人に何なら私は負けているだろうか?」この視点を持っていない人間は自分の100倍凄い人でも下に見る。
(中略)
 自分が勝っていると思っていては負けていると思ってる人からは何も学べない。逆に、負けていると思ってる人は勝っている人から学ぶことができる。本当は一人一人全員に負けて、全員に勝っている。それに気づけば自分も他人も大切にできるんだと思う。(p.34)

強みを探せ、活かせと言われて自己啓発に励み続ける中で、こうした視点は大切だと思わされる。
ただ、これは「自らの強みなんて探さなくていいよ!」ってことじゃないので、そこは勘違いしないように(笑)

とっても謙虚な無礼者: 自己卑下のつもりでよく使用する「私○○だからダメ」という言い回しを公の場で使うと、その○○である人、もしくは○○以下の立場にあると思い込んでいる人(実際はそう考える人がいるというだけなんだけど)も嫌な気分になる可能性があるということだ。
(中略)
 その場にいなければいいじゃないかってことでもない。同じ境遇でも思い通りの人生を歩んでいる人もいるだろうに、それを人前で言うことによって言った人の中にそのマイナスが固定されやすくなると思うのだ。(p.56)

ああ、これ自分で気がつくときもあるけれど、気がつかずに言っちゃってる可能性あるなあ。
その場の雰囲気という面もあるとはいえ、自らのことを「○○だからダメ」と口に出して言ってしまうことが自分にとって本当の意味でプラスになることはないだろうな。
「デブだからダメ(食べない)」という意思表示も、もっともっと太っている人は実際にいるわけだし、そんなことを言ってちゃいけないよね(曲解してるよ…笑)。

人がデッカくなる仕組み: 「他人に認められることの嬉しさ」
 「他人の期待に応えることができた時の誇らしさ」
 「他人との協力で得られた達成感」
 こういうものを味わうチャンスを一つも逃がさず自分のものにできた人間が「どえらい奴」になるんじゃないだろうか。(p.206)

どうかな……取りこぼしてきているような気もするけど(笑)
ただ、ここを読んだときに頭をよぎったのは、自分のことよりやっぱり子どものことなんだよね。
もちろん、親がすべてを与えてあげられるものじゃなくて、これから大きくなっていく過程で、集団の中で経験をしていくことなんだけど、今、親子という小規模集団での行動が圧倒的に多い年齢だから、親としてそういったものを味わう機会を沢山与えてあげなきゃなと。

元芸人、西口さんの空想は"デッカイ"。
きっとあなたの心を成長させてくれるものが一つくらいはあると思う。
コーヒーブレイクのつもりでさらりとどうぞ。

※ 本書は著者の西口千草さんより献本いただいたものである。この場を借りて御礼申し上げたい。


■ 関連リンク

著者HP: 西口夫妻のつぶれいぬ工房
著者ブログ: 今日より明日元気になるために読むブログ(旧・膨張思念)

■ 基礎データ

著者: 西口千草
出版社: 文芸社 2010年6月
ページ数: 223頁
紹介文:
心がデッカくなれば目線が高くなって全体を見渡せるし、ちっこい悩みは見下ろせるようになるだろうし、皮膚が分厚くなれば心ない人のヒボーチューショーが突き刺さったって、神経にまでは届かない。「どん底だぁ~!」って叫びたくなるような人生の落とし穴にハマっても巨大化すればヒョイッて一歩踏み出してそこから抜け出すことができる。

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