■書評■ チェンジメーカー | 知磨き倶楽部 ~ビジネス書で「知」のトレーニングを!~

■書評■ チェンジメーカー

当ブログの読者であれば好き嫌いという感情は兎も角として、その名を知らぬ人はいないであろう、勝間和代さんの新刊。
(最近、刊行のペースが恐ろしく速いので最新刊という言葉をおいそれと使えない。)
本書は、もともと週刊モーニングという雑誌で連載されていたコラムに加筆されたものであり、週刊モーニングで連載されている人気漫画『エンゼルバンク』のオフィシャル参考本という位置づけらしい。

僕は週刊モーニングを読んでいないので元ネタがあっても全然構わないのだが、『エンゼルバンク』のオフィシャル参考本ということで、実は本書を読むのにちょっと躊躇いがあった。
以前に当ブログで触れたことがあるけれど、あの漫画が世相を表していてサラリーマンに受けるのは分かる。
しかし、あくまでも娯楽として読むものであって、内容について勉強になると賞賛するサラリーマンが多いというのは…というのが、個人的な感想だった。

ただ、またもマインドマップ的読書感想文のsmoothさんがお勧めしている記事を読んでしまい、ついつい手を出すことに(笑)
※ 【若手必読】「チェンジメーカー」勝間和代


内容は、ネットで話題となった「35歳独身限界説」や「勝間流転職必勝法」を含んだ、勝間さんによる現代社会に対する問題提起と提案であり、大きな主題は、個々人が「チェンジメーカー」になって、より良い方向に向かって変わっていこうというもの。

政治でも経済でも明るい話題に乏しい中で、とかくサラリーマンの多くは批判に終始しがち。
やれ政府が悪い、政治家が悪い、大企業が悪い… こんなことではいつまで経っても生産的な発想は生まれてこない。
例えば、熱狂的に支持したはずの小泉・竹中改革に対しても格差を生んだだけだという批判も多いし、勝間さんも言うとおり不十分な面は確かにあったかもしれないけれど、批判しているだけでは何も変わらない。

行動しよう!:実際に行動した人たちのあら探しをし、非難しているだけでは、世の中は少しも良くなりません。批判や非難を受けつつも、自分の志を信じて突き進む力が必要なのです。(p.12)

本書における勝間さんの主張は、この点をベースに発せられている、若手サラリーマンに対する行動奮起を促すメッセージであるとともに、今の日本の支配層である「老人男性」に対する若手層からの意見にもなっている。


ただ僕は、本書で勝間さんが主張されている内容の一つひとつについて、賛成だとか反対だとかいうことで本書を評価するのは違うと思っている。

今までの著書でもそうだったのに僕が気づけなかっただけなのかもしれないけれど、本書は、提示されている処方箋そのものよりも、処方箋の提示の仕方、既存のフレームワークの使い方という点が強く印象に残る点を評価すべき。
結論に至るフレームワークを提示してくれていることによって、建設的な議論が可能となっているのであって、単なる結論だけを捉えてああだこうだ言っても仕方ないと思うのだ。

個別に突っ込んでいけば、同じフレームワークを使ってもどうも結論が腑に落ちないという内容は僕にもある。
しかし、勝間さんがフレームワークを提示して議論を始められている以上、僕も(同じかどうかは問題ではないが)フレームワークを使って自分の主張を組み立てなければ、そもそも反論にすらならない。
名著と言っていい『本を読む本』でも、次のように書かれている。

反論の心得:著者の関連知識が不足しているか、誤っているか、論理性に欠けるか、のどれかが立証できない限り、読者には反論する資格はない。「あなたの前提には何も誤りはない。推論にも誤りはない。だが、私としては結論に賛成できない」ということは許されない。それは、結論が「気に入らない」と言っているだけで、反論とは言えない。著者に説得されたのなら、そのことを率直に認めるべきである。(『本を読む本』 p.169)


僕も含む若手サラリーマンは、本書で述べられている処方箋云々というよりも、提示された問題提起について、真剣に考えて行動しなければならない。
その第一歩として、まずは本書を読んでみることはよい選択。
反論するならきちんと反論すればいい。
しかし、そんな行動からでも「チェンジメーカー」への道は踏み出せるはずだと、僕は感じたし、一人でも多くの人が「チェンジメーカー」になるのならば、それは世の中にとってきっといいことだ。


追伸:
内容云々で評価しないとは言ったけれど、それでもちょっと内容について触れておきたい点を2つほど(本文に比べて追伸とは言えないボリュームになっている点はご勘弁を)。

一つ目としては、まず心に留めておきたいフレーズを紹介させていただく(これは『本を読む本』で言うところの、賛成している内容)。

気をつけよう、労働一神教:労働一神教を信仰していると、行動するときの価値観が「なるべく早く出世をして、リーダーとなること」に特化してしまうのです。(p.121)

今現在はそうではないけれど、以前はそうだったかもしれないなあと思う。
また転職などして環境が変わればそうならないとも限らないので、これは心に刻んでおかないと。

年収の目標をもとう:年収については、中長期的な目標をしっかりと作ることを、私は強くお勧めします。金銭的に不安定な状態だと、目標に向けて自分を磨いたりする精神的余裕がなくなってしまうからです。(p.228)

ちょうど妻と40歳時点での年収目標、なんて話をしていたところ。
30歳の頃に「35歳までに達成したい」と言っていた年収目標はクリアしてるねと妻が言っていたから、この考え方は実践してたんだなあと気づく(僕はあまり覚えていなかったのだけれど(汗))。


もう一つは、勝間さんはよく「政治家になって欲しい有名人」などで名前が挙がるけれど、本書で明確にその気がないことを言っていることについて。

政治家にはならない!:私はよく「本当は政治家を目指しているのではないか、なぜならないのか」と聞かれます。しかし、私は政治家になるつもりは一切ありません。なぜなら、私が政治家のひとりとなり、変えられることなどたかが知れているからです。それよりも、国民全体が選挙以外の時期でも政治に興味を持つように、メッセージを発し続けることのほうが私にとっては重要です。政治家よりも、政治を監視し続ける私たちのほうが、日本を変える力がずっとあります。(p.77)

この点については、渡邉美樹さんも「存在対効果」を考えて、現行制度においては政治家になるつもりはないが、逆に言えば、いきなり総理大臣などのように影響力を発揮できる立場になれるのであれば話は違うと言っていた。
※参考: 【書評】勝つまで戦う 渡邉美樹の超常思考

地方分権が進み、地方自治体の首長がもっと自由に色々なことができるようになれば、こうした点もまた変わってくるのだろうけど、現時点ではなかなか難しい。
有権者の意見が声なき声になってしまわないように、影響力のある発信をできる人が在野で活動しているということも、全体としての政治の質を高めていくためには必要だし、一人ひとりもソーシャルメディアを活用して発信しようと行動することも大切。
現時点で勝間さんが政治家になるつもりはないとおっしゃっていることは、問題と捉えられていることに対する行動の仕方として賛同する。


■ 関連リンク
勝間和代オフィシャルサイト
勝間和代公式ブログ: 私的なことがらを記録しよう!!
モーニング公式サイト―『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』作品情報

■ 基礎データ
著者: 勝間和代
出版社: 講談社 2010年2月
ページ数: 254頁
紹介文:
ジャンケン、ジャンケン、またジャンケン! 何度も繰り返し行動すると、変化が生まれるのです。
最近の私は職業を尋ねられると、「チェンジメーカーです」と答えることにしています。

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講談社
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