【書評】読書について 他二篇 | 知磨き倶楽部 ~ビジネス書で「知」のトレーニングを!~

【書評】読書について 他二篇

読書は、他人にものを考えてもらうことである。(p.127)」という一節が有名な論考集。
著者であるドイツの哲学者ショウペンハウエルは、1800年代の人物であり、本書の原文が収められている原著は1851年に刊行されたもの。

本書はタイトルにあるとおり、「思索」「著作と文体」「読書について」という三篇の論考が収められており、最後の「読書について」が冠を取っている。
しかし、それぞれの論考の長さは、「思索」が20ページ分、「著作と文体」が102ページ分、「読書について」が22ページ分と、圧倒的に「著作と文体」に割かれている。
個人的にはこの「著作と文体」がもっとも難解であり、頭に入りにくかった論考なのだが…(汗)

というわけで、半分以上のボリュームを占める論考をすっ飛ばして、やはりタイトルにも採用され、当ブログ読者の関心も高いであろう点にフォーカスしてみる。


冒頭にも紹介した有名な一節は、僕のような読書好きは常に心に留めておかなければならないことだ。
特に、「ほとんどまる一日を多読に費やす勤勉な人間は、しだいに自分でものを考える力を失って行く。つねに乗り物を使えば、ついには歩くことを忘れる。しかしこれこそ大多数の学者の実状である。彼らは多読の結果、愚者となった人間である。(p.128)」と多読の弊害を痛烈に語っている。

※ちなみに、ショウペンハウエルは翻訳についても「汝、非礼な翻訳者よ、すべからく翻訳に値する書物を自らあらわし、他人の著書の原形をそこなうなかれ。」という厳しいことを言っているので、訳者の斎藤氏は原文の意味にできるだけ忠実に訳出されたそうなので、「愚者」という軽蔑すら感じられるニュアンスは、まさにショウペンハウエルの意図するところなのだろう。

僕などは以前は年間で100冊も読めばよいほうだったけれど、本記事執筆時点(2010年1月)ではおそらく年間300冊超のペースで本を読んでいる。
自分では多読家だとは思わないけれど、一般的なビジネスパーソンからすると多読に分類されるらしいので、「愚者」になってしまわないように気をつけたい。

もちろん、これに対する意見もあるだろうが、現実を振り返ってみれば、ショウペンハウエルが批判しているような「多読家」に出会うことはある。
一例を挙げれば、「自己啓発難民」と揶揄されるような方々、愚者になってしまっていないかを顧みる必要があるだろう。


しかし、ショウペンハウエルは読書自体を否定しているわけでなく、むしろ読書の効用を積極的に認めている。
例えば、「読書は我々が駆使しうる天賦の才能の駆使を促すものである(p.130)」としており、そうした読書のためには先にあげたような多読によるのではなく、「読まずに済ます技術が非常に重要である(p.133)」と言っている。

これは、僕を含めビジネスパーソンが読書をする目的に通ずることだが、手当たり次第に新刊書や話題の本に手を出して徒に時間を浪費するのではなく、「良書」に的を絞って、少なくとも二度は繰り返し読んで血肉とすべし、ということを指しているのだと解した。

この点について、ショウペンハウエルの示してくれている「良書」を読むための条件を記しておきたい。

良書を読むための条件: 良書を読むための条件は、悪書を読まぬことである。(p.134)

何が悪書なのか、はショウペンハウエルの痛烈な批判をお読みいただくことでご判断いただき、是非、実りある読書実現のための指針を築いていただければと思う。


すっ飛ばした箇所には、実は読書家という立場ではなく、書評ブロガーという発信者側の立場として是非とも読んでおきたい内容も書かれている。

訳者の斎藤氏は「哲学の教養がなくても楽に読みこなすことができるはず(p.154)」と書いているが、とても「楽」とは言えない本だと思う。
しかし、こうした本は、間違いなく「良書」に分類される一冊であり、時代を超えて読み継がれていることの意味を感じながら、一読しておきたい。
特に、書評ブロガー(読書感想文ブロガーなど呼び方は様々だが)なら必読の一冊と言える。

僕は、遅ればせながらではあるが、本書を読むことができてよかった。
(ショウペンハウエルの教えのとおりに続けて二度読んでも消化しきれていないところが難。)


■ 基礎データ

著者: ショウペンハウエル
訳者: 斎藤忍随
出版社: 岩波書店(岩波文庫・青632-2) 初版1960年 改版1983年
ページ数: 158頁
紹介文:
「読書とは他人にものを考えてもらうことである。1日を多読に費やす勤勉な人間はしだいに自分でものを考える力を失ってゆく。」―― 一流の文章家であり箴言警句の大家であったショウペンハウエル(1788‐1860)が放つ読書をめぐる鋭利な寸言、痛烈なアフォリズムの数々は、出版物の洪水にあえぐ現代の我われにとって驚くほど新鮮である。

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