『【書評】甦る組織－ファシリテーター』

実在の組織開発、人材開発コンサルティング会社をモデルにした企業再生小説。

「ファシリテーター」とか、「ファシリテーション」という用語が、ここ数年の間に意識されるようになってきたと感じている。

そうは言っても、そもそも「ファシリテーター」とは何なのかということを、一度紹介しておかなければならない。

ファシリテーターとは、

中立的な立場で

チームのプロセスを管理し

チームワークを醸成しながら

チームの成果を最大化する役割を担います。　（ファシリテーターズクラブより引用）

こうした「ファシリテーター」の活動を、実際の事例を基にしながら見聞することができるのが本書。

さまざまな企業が舞台となり、組織改革に取り組む様子や、その際のファシリテーターの立ち振る舞い、思考などが感じ取れる内容となっている。

ただ、そういった企業での勤務経験がない方などは、実感が伴いにくいかなとは思うが･･･。

現下のような景気状況の中にあっては、多くの企業で従業員の疲弊感は積み重なり、閉塞感だったり、やる気のなさだったりということが湧き上がりがちになることだろう。

好景気において隠れていた問題が、一気に芽を噴き出し、どう対処していいのか分からないままに、業績を上げろというプレッシャーだけが強く残り、ますます疲弊感、閉塞感が高まるという悪循環に陥ってしまうことも、現実の問題として存在している。

僕が本書のケースの中で最も立場的に共感できるのは、本書の軸を為すモデルケースであるが、ネクストラ社の経営企画室長である汀さん。

風土改革プロジェクト担当者（実務のリーダー）となってプロジェクトを進めていく方になるのだが、職務的に非常に近い立場になったことがあるため、共感度合いもひとしお。

「風土改革」とか「組織改革」とかは、経営陣はお題目としては挙げてくるものの、それを成功させるためには自らのコミットメントが重要だということが今一つ理解されていない。

勿論、それなりの意思決定機関で決めたことであれば、立場上は口頭では理解しているような素振りを見せるケースが多いだろうが（本書のように取り組み自体無駄だと明言するケースはかなり重症な方だろう）、実際の協力を得ることは難しかったりする。

そのような場合、えてしてプロジェクトチームが形としての施策を練り上げ、表面的には組織改革の為の施策を実行したかのように取り繕われる。

当の経営陣は気がつかないが、プロジェクト担当者も、一般社員も、すぐに形ばかりで身の伴わない組織改革施策を見抜き、やがて形骸化されて、何も変わらない･･････　下手すれば更なる疲弊感を招くばかり。

汀さんも諦めかけた。

しかし、熱い気持ちがあったからこそ、ファシリテーターの力も借りながら、何とか経営陣の意識改革にまで漕ぎ着け、身のある組織改革へとつなげた。

ファシリテーターによるアドバイスなどがなければ、威圧的な経営陣を前に、自らのクビを賭けてまで組織改革プロジェクトに取り組もうとは思わなかっただろうが、それくらいの気概を持って取り組む、こうした社員の存在が、実は組織改革の成否の一要因となりうるのかもしれない。

ファシリテーションも非常に有用なスキルであり、身につけたいものであるが、立場的に本書でな汀さんの見せた熱い気持ちを自分の中にもう一度確認する意味で、刺激を受けた一冊だった。

僕の中にある想いは果たして･･････。

会社組織に所属するビジネスパーソンにお薦めの一冊。

ファシリテーターとしてのスキルを身につけたいのであれば別の本がいいと思うが、ファシリテーションを受けながら変わっていく組織や人間の様子に、我が身を重ねて読みたい。

【関連リンク】

株式会社ピープルフォーカス・コンサルティング

【基礎データ】

著者：　芦崎治

出版社：　幻冬舎メディアコンサルティング　2009年2月

ページ数：　307頁

紹介文：

「組織の壁は、心の壁がつくるんだよ！」

どうしようもないやらされ感と閉塞感に悩まされるアパレルメーカー。合併により文化がぶつかり合う老舗百貨店、次世代のリーダーが育たないエリート造船会社、理想と現実の狭間に揺れる難民支援団体のNPO……。あらゆる問題を抱える組織・人間が、ファシリテーターと出会うことで少しずつ壁を打ち破り、鮮やかに「変革」「再生」していく様子を描いた、感動のハーフフィクション。