【書評】貧乏はお金持ち | 知磨き倶楽部 ~ビジネス書で「知」のトレーニングを!~

【書評】貧乏はお金持ち

雇われて仕事をし、会社が税金を払ってくれる状態を当たり前だと思って過ごしているサラリーマンの思考に一石を投じる本。

お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 ― 知的人生設計入門 』以来、久しぶりに橘氏の著書を読んだが、そのコンセプトは変わっていない。


要は「国家に依存するな。国家を道具として使え。」ということ。

我が国には様々な制度があるけれど、何も考えずに生きていては、ある意味搾取される側においやられてしまう。

そうではなく、頭を使って考えて、現存する制度をうまく利用することで、搾取されることなく、幸せな人生を築きましょう、といったところか。



今回の肝は「サラリーマンのマイクロ法人化」。

著者もあとがきで書いているとおり、ごく普通のサラリーマンが今の会社に対して、「雇用契約を、自分が設立した法人との間での業務委託契約に変えてくれ」などとは言えないのが現実。

実際、一部の外資系企業を除いてそのような動きが起こっている様子は見受けられないとか。


サラリーマンとしては収入の安定性がなくなることに対する不安が大きいからだろう。

いくら企業側での費用負担が変わらない水準で業務委託契約に切り替えたとしても、将来にわたって業務委託契約が継続される保証はどこにもない。

もちろん、昨今の情勢の中で雇用契約だって保証されていないが、労働基準法による手厚い保護内容は、サラリーマンに安心感を与えるに十分な内容だ。

実際、会社側から提案したケースが例示されているが、切り替えに応じる意思を表明した社員はいなかったそうだ。


では、サラリーマンから申し出をした場合、企業側の対応は一体どうだろうか?

どうせ費用負担が変わらないのであれば、上司-部下の関係が保てて命令しやすい(扱いやすい)状態を好むのであろうか。

業務内容も契約内容にしばられる業務委託よりも、雇用契約に基づく命令の方が、自由度があり会社としては便利だろう。

また、同じ社内で、同じ仕事を、自社サラリーマンとマイクロ法人代表が机を並べて仕事をし、一方の人の可処分所得が目に見えて多いなんて事態を許容する文化もなさそうである。

要らない時に切りやすいのではないかと思ったが、要らない人間から申し出を受けたらその場で退出していただく方向に持っていくだろうから、そもそも申し出をして交渉が成り立つのは、少なくとも会社から必要とされる人間だけということになり、この点を考える会社はなさそうだ。


かくして「サラリーマンのマイクロ法人化」には、やはり相当のハードルが存在しそうだということになろうか。



なお、著者である橘氏のバックボーンが分からないので推測が入るが、橘氏は分かった上で敢えて、シニカルでブラックで扇動的な書き方をせんが為に、やや正確性を欠く記述も見受けられる。

税金の部分は僕自身にあまり知識がないので判断つかない箇所が多いが、会計や資金調達の箇所では、物凄く大きく捉えられば間違っていないが、知らない人が読んだら普通は誤解するだろうなと思われる箇所が散見される。


読まれる際には、こうした傾向に留意され、鵜呑みにしないよう注意されたい。

まあ、サラリーマンという生き方を捨てて、マイクロ法人を設立し、フリーエージェントとなることを選ぼうというくらいの人であれば、そういった点も再度自分で確認するくらいのことはすべきだと思っているので、特にその点を問題視しようとは思わないけれど。



「会社に使われている」とお嘆きのサラリーマン諸氏は、こんな考え方もあるのだという参考に、一読されてみてはどうだろう。

また、税理士の方々は、この本を読んで相談に訪れるサラリーマンが増えないとも限らないので、一読されることをお薦めする。

(書評では触れていないが、サザエさんを題材にしたマイクロ法人と個人での節税術についての「解説」に相当の割合が割かれているので。)



■ 基礎データ


著者: 橘玲

出版社: 講談社 2009年6月

ページ数: 311頁

紹介文:

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