【書評】会計天国 | 知磨き倶楽部 ~ビジネス書で「知」のトレーニングを!~

【書評】会計天国

事故死した経営コンサルタント(公認会計士)が、自身が生き返るために、他人の身体に憑依して現世の人間に対して経営(会計)にまつわるアドバイスをすることで、その人間を『幸せ』へと導かなければならない……という、設定としては突拍子もない物語だが、圧倒的なストーリー力で惹きこまれてしまう。
そのうえ、物語中で使われている会計の説明は勿論まともなものだし、真っ当なコンサルティング内容になっているという、一粒で二度も三度も美味しい本に仕上がっている。

会計知識のない人にとっては、物語中でコンサルティングを受ける相手が、会計的な知識の乏しい人間という想定なので、丁寧に読んでいけば十分についていけるし、一緒に学んでいける作りになっていると思う。

一方で、会計知識は一通り持っている人にとっては(実はレベルが幅広くなるので、こちらの読者層を想定することの方が難しいのだけれど…)、会計知識を如何に経営分析や経営判断に活かしていくのか、という実践的な事例として学ぶことができるだろう。

ちょっと難しいかもしれないなと思うのは、財務会計だけでなく、管理会計まで含んでいる点。
管理会計の考え方は馴れないと混乱しやすいところのように思えるので、会計知識があまりない状態で読む人にとっては、少し頑張りどころかもしれない。
とはいえ、物語に即して分かりやすく展開されていくし、それほど心配する必要はないと思うのだが…。

ただ、本書を「ビジネス小説形式の中で、財務会計から管理会計まで幅広くビジネスの現場で役立つ会計の考え方を教える本」として捉えてしまうことは、本書の価値を著しく過小評価することになるだろう。

本書は、「ビジネス(仕事)を通じた「幸せ」って一体なんだろう?」ということを考えさせるところにこそ価値があると僕は思う。

地位や名誉が上がったり、お金に余裕ができることだけが「幸せ」の基準ではない。苦しいことだって、自分が納得する道なら、それを歩むことが「幸せ」にだってなる。

他人と自分のどちらが「幸せ」かなんて比べても意味がないんだよ。重要なのは、自分の「ゴール」を見つけて、それに向かって走る意志を持つことなんだ。

彼らは、どうやったら良い方向に進めるのかという方法を知ったとき、自分でそれを実行しようとする意志を持った。そのあとは、彼らが一生懸命、努力したからこそ、本当に将来の結果を変えることができたんだ

どんな文脈でこれらの言葉が出てくるのかは、是非実際に読んでもらいたいけれど、僕も含めて、ビジネスパーソンは是非考えるべきテーマだ。

そして、もう一点。
「組織」とはどうあるべきかについても、忙しい毎日の中で見失ってしまいがちな、大切なことを再認識させてくれる。

会社は責任を押し付け合う場所ではない。社員が協力し合って、売上を上げて利益を稼ぎ、その中から給料を分け合う組織体なんじゃ。その給料によって、社員やその家族が幸せに暮らせる、これを目標にすべきなんじゃないのか?
会社は社員が幸せになる組織でなければ発展できないんじゃ。

今やビジネスパーソンにとっての必須スキルとなった「会計」であるが、現場で使える会計知識が分かりやすく落とし込まれており、苦手意識を持っていた人は是非一読してもらいたい。
また、「財務諸表の見方」などで基礎的な部分を勉強して、分かったつもりではあるものの、あまり実際に知識を使ったことのない人も、「会計」スキルの活かし方を学ぶためにも一読してもらいたい。

実は題名や帯広告で「会計」の印象が強くなっているけれど、それだけにとどまらないので、ビジネスパーソンに幅広くお薦めできる一冊。


追伸:
本書の本質的な部分からは少し脇に逸れるのだけれど、僕にとって大切な部分について触れておきたい。

「フランスに出張に行った時に……フレンチのおいしさに感動して、多くの人にこの味を知ってほしいって思って、できるだけ大きなお店を作ったんだよ」
「ふーん。でも、あなたの理想や夢なんて、どうでもいいわよ」
「どうでもよくない! 大事なことじゃないか!」
「それは、あんたにとって大事なことでしょ? お客にとって大事なことじゃないわ」

僕は色々な書評の中で、経営理念や志の大切さについて言及しているけれど、この視点を忘れてはいけない。
独りよがりの経営理念や志を掲げたって、全く意味はない。

「私、先月、このレストランに食べに行ったのよ。そしたら、フレンチとは関係ない服装で、しかもメニューが読めない大学生がウェイトレスだったし、3年間も壁紙を張り替えていないから汚れも目立っていたわ。テーブルのクロスだって汚いし、置いてある花は、前は生花だったけど、造花に変わっていたわよ。お客はおいしい料理を食べに来ているだけじゃなくて、デートだったり、誕生日のお祝いだったり、結婚記念日だったり、大事なイベントを楽しく過ごすために来ているんじゃないの? 私は正直言って、もう一度来たいとは思わなかったわよ」

よしんば経営理念が独りよがりなものじゃなかったとしても(例えば、「おいしいフレンチで、お客様の特別な日をより一層素晴らしい日に」だったらいいかな…)、これでは理念が全くお飾りになってしまっている。
経営理念が、実際の現場のオペレーションまできちんと落としこまれ、具現化されなければいけない。
この事例はこうしたことを端的に表している。


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【基礎データ】

著者: 竹内謙礼、青木寿幸
出版社: PHP研究所 2009年4月
ページ数: 315頁
紹介文:
突然の事故死。
北条は追い詰められた5人を救い、現世に戻ってこられるか?
会計ノウハウが導くのは天国か? 地獄か?

決算書&会計とは何か?がわかる、笑いと涙の物語。





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