村井裕弥のHI-END SHOW TOKYO その6  | 西野和馬のオーディオ西方浄土パート2

村井裕弥のHI-END SHOW TOKYO その6 

村井裕弥のHI-END SHOW TOKYO


2009
レポートその6



1210日発売『AUDIO BASIC』の170171頁に「ハイエンドショウトウキョウ2009」(10911日)のレポートが掲載されている。もちろん季刊誌だからやむをえぬことなのだが、これを見て「筆者がつづきを書いても許されるかな」という気が起きた。(あまりにも間が空き過ぎて何のことやらわからぬ方もいらっしゃろうから、その1のURLを挙げておく)

http://audioniravana.blog.ocn.ne.jp/nishinoblog/2009/10/post_f10a.html



「1か月半も放っといて、今さらつづきもないだろ」「10月のイベントを今どきレポートしてどうする」といったご批判は承知の上で、つづきを書かせていただく。


逸品館AIRBOW、バック工芸社、ディナウディオ・ジャパン、トライオード(スペンドール)、イー・エム・ティ(Sound Fidelity)、ロッキーインターナショナル(QUAD)については書きたいことをすべて書いたが、残り33社については「書く意味がない」からではなく「書く時間がない」から書けなかっただけ。前述6社はもちろん非常に素晴らしいデモを展開してくれたが、負けず劣らずのブランドがまだまだあるのだ。



1月号の原稿を送信し終え、2月号の締め切りまでには若干ゆとりがあるきょう(1212日)をのがすと、この秋のHI-END SHOWについて語る機会はほぼ永久に失われてしまう。



幸い真空管オーディオフェアに関しては『stereo12月号106頁、「音展」に関しては同誌1月号(ページ数未定)にレポートを載せてもらうことができたので、これらを併読していただくことで、「この秋の新しい潮流」を感じ取っていただけたら、と思う。



 PS社方式の平面波トランスデューサーを

     世界で初めて実用化 


――ドリーム――


西野和馬のブログ



 2日目15:00からは、ドリーム(神奈川県横浜市)のデモを聴くことができた。主な事業内容は「PAに関する一切の業務」。その中で蓄積されたノウハウが、平面波トランスデューサーDT-A3(ペア252,000円)として実を結んだようだ。



 資料には「聴かせる音から、聞えてくる音へ(強制的にから、自然に)」とある。うん。その主張には大賛成だ。「そのためには、リスナーの方を向いたラッパをなんとかしなきゃ」というのも筆者の持論であるが、その点でも意気投合できそう。



 「当社の平面波トランスデューサーは、FPS社が発明したMulti Cell Micro transducer Arrayという方式なのですが、これは理論的にすぐれているとわかっていても、なかなか製品化できないものでした。当社はそれを初めて製品化することに成功したのです」



 このあと、メモ帳には「鉄板にネオジウムを配置」「高分子フィルム」「ダイナミック型」「このサイズの平面トランスデューサーは、横20個、縦30個、計600個のセルで構成されている」といった文字が並ぶ。要するに、極小のスピーカー(セル)600個が同じ音を同時に発して、平面波を作るらしい。



あの夢の島に巨大な平面波トランスデューサーを設置したときは「それはそれはすごい低音が出ました」とのこと(同社のWebサイトにそのときのものと思われる写真が掲載されている)。


うん。確かに、極小スピーカー(セル)の数を増やしていけば、どんな巨大システムも作れるだろう。あとはクオリティがどの程度か、だ。



 まずは女性ヴォーカルがかかる。おおお。何とこまやかで優しい音。このニュアンスの豊かさは、各種平面振動板に共通する魅力のひとつだ。それでいて、妙になよなよしたところがないのもよい。


要するに「背筋がシャキッ」とした音。これはコンデンサー型では無理。


 「ご覧ください。DT-A3はこのように、前にもうしろにも音を出す。これもよい音の秘訣です。この製品はサランネットで覆われていますが、それでもこれだけ聞える。このようなストレスフリーな音を、皆さんお聴きになったことがありますか? 当社はこのような音を出すため、アンプも自社で作っております」



 次にかかったのはバロック風合奏協奏曲? ただし少々BGM的、ムード音楽的な演奏だ(イル・ジャルディーノ・アルモニコやカルミニョーラの真逆)。


適度なつやとウェット感に惹かれる。「背筋がシャキッ」としている快感は、先ほどと変わらず。



 「当社が作ります平面波トランスデューサーは、立ち上がりの速さと位相特性の正しさを、何よりの売りにしております。その威力は、今の再生音で充分おわかりいただけたのではないでしょうか」



 このあとは、ピアノ・ソロ(若干フォルテピアノ風?)がかかり、さらには尺八にお琴が絡む「かごめかごめ変奏曲」のような曲もかかった。



 後半は、この平面波トランスデューサーにコーン型ウーファーを加えた2ウェイ「天空」(スタンド付ペア126万円)も鳴らされた。DT-A3が極小スピーカー(セル)600個であるのに対して、「天空」は100個。クロスオーバー周波数は250Hz



 「こういったウーファーをうまく鳴らすためには、やはり箱の鳴き、木の響きを活かしたいですよね。しかし、当社のねらいはあくまで平面波です。ウーファーを付加することによって、平面波トランスデューサーの魅力を損なうようなことがあってはならない。ですから当社は、通常2、3層でとどめるウレタン塗装を7層塗りしています。これによって、平面波トランスデューサーが受け持つヴォーカルの帯域を、箱鳴りが邪魔しないようにしている」



 まずはカントリー風ポップス(打ち込み+ギター+なよっとした男性ヴォーカル)がかかる。うん。ウーファーが加わることによって、ある種の安心感が生まれることは確か。しかし、その分「平面波ならではの感激」が薄れていることも事実。なんかフツーの音になっているのだ。



 カーペンターズ「イエスタデイ・ワンス・モア」もかかる。こういう誰もが聴いたことのあるソフトをかけるのって、本当に勇気がいる。



 70年代風ジャズもかかった。いかにもソニー・フォーチュンとかデイヴ・リーブマンあたりが吹いていそうな曲。ベースがズンズン前に出てくるところはよし!



 ラストを締めくくったのはベートーヴェンのピアノ協奏曲(第1番の第3楽章?)。ティンパニやピアノが古楽器風に聞えるのは、ソフトに忠実な再生だからなのか、それともこのスピーカーのくせなのか、最後までよくわからなかった。やはり、曲名と演奏者名くらいは教えてほしい。そうでないと、そのシステムに対して間違った評価をしてしまう可能性があるから。






~ つづく ~