エルヴィン・登米市 | Audio Cafe

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ジャズ喫茶、ジャズバー、オーディオ喫茶、名曲喫茶などを巡ります。
  簡単に言えば、レコードやCDで音楽のかかる店に行くブログです。

仙台から高速バスで登米という場所に来た。もう夜で真っ暗。降りると若干心細い。もうここに泊まるしかないのだ、ここに。

とりあえず、喫茶店で水分ばかりとっていると、トイレが近くなる。仙台駅ではバスへの接続のために寄れなかった。ラーメン屋に入って、夕食がわりを適当に頼んで用を済ます。食後エルビンを目指す。この道を真っ直ぐいけば出てくるはず。

ようやく発見。ELVINの文字の電飾があったりするが、肝心の店のドアの前に立つと。「本日5時まで、再開は9時」との張り紙が。

出直し。また20分くらい歩いて宿を探すことにした。バスの中で何軒か検索したので、履歴をたどり、大きな所は避けて、あまり値段の貼らないようなこじんまりした所を選んでみた。空いていた。宿を確保すると、汗だくなので、シャワーを浴びたら、思いのほかゆっくりしてしまった。

大分時間を過ぎてしまった。ゆっくりしたので、エルビンに再びたどり着いたのはぎりぎりだった。途中道に迷った。住宅街であると同時に、ちょっと外れれば農地で、一寸先は真っ暗闇なのだ。

暗い部屋の奥には黒塗りのスピーカーが鎮座している。その間には何と<しめ縄>がかけられている。常連さんに聞いてみると「いい音がするように、拝むためのものだ」ということであった。なるほど。

何やら、この店は不思議なものが沢山あるような気がする。

ここのマスターは、ルックスというか髪型が変わっている。ブリーチして金髪。側面は刈り上げ、頭頂部はかなり大きく平らにカットされており、フチの部分に輪のような膨らみが付いている。それはまず、誰の目にも、川に住むとされる伝説の上の生物(山瀬まみのキンチョ―おCM参照、古くは黄桜のCM)を連想させる。が、もしここでの滞在を楽しく終えたいならば、それを口にしてはならない。何か別のものを考えてほしい。うまい具合に私は控えめな性格故「随分と斬新ですの。それはどういう意味があるのですか」としか言えなかった。宮城弁?というものがあるのか意識したこともなかったが、時々言葉が難しい。マスターの話は以下のようだった。
・日本人には評判悪いが、外人には受ける。誰がデザインしたのか、と聞かれる。俺だと言うと、「Very Good。ニューヨークにはこんなやつはいない」と言われる。ということは世界で一人ということだ。
・床屋に行って、いつもどうしますかと聞かれるんで、そんなに聞くなら俺の言うとおりカットするか、と言って、自分でデザインした通りにやらせた。
・小学生は大体「河童」という。中学生がそう言ったので、「それは小学生レベルだ」と言ってやった。

だそうです。というわけで、ご注意頂きたいのである。ややベランメー口調だが、個性的で愉快なおじさんなのであります。

後から気が付いたのだが、確かに立川談志の写真が貼ってあった。? これはもしかして、故談志師匠のねじり鉢巻きをヒントにしていたのか。

コルトレーンはBalladがかかった。Say It。うっとりしますね。Ellaの盤もエルビンがドラマーだったかもしれない。あの全身でドカドカドカと色んな所から音がして来る感じ。私がジャズを聴き始めた頃、京都のライブハウスで眼前1mくらいでライブを見たことがあって、その時の感じがすっとフラッシュバックした。その話をすると、マスターは「エルビンはBasieに何度も来てて、誘われてたけど行かなかった。そのうち死んじゃったね。俺はミュージシャンとは仲良くならないタチなのよ」と言っていた。

立ち上がってスピーカーの近くに寄ってみた。このセットの不思議なのは、裸のユニットが内側に2つずつ付いていることだ。てっきり装飾上のものだろうと思っていたが、何とこれは動作しているというのである。??? ウーハーをバッフルなしで駆動していいんですか? 何でもドイツにはこの方式のスピーカーがあるそうなのである。名前を聞いたが、それらしい語で検索しても良くわからなかったので、聞き間違えたようである。

DIATONEの銘板、確かAS4042(やや記憶が曖昧)が貼ってある。だが、ASシリーズはあっても、こういう製品は実在しないのである。メーカーの銘板入りだから、自作だとは思わなかったが、銘板も含めて自作スピーカーだったのである。詳しくシステムを聞いたわけではないから間違っているかもしれないが、DIATONEの40cmのユニットを使用していることは確かだろう。日本のユニットを使っているジャズ喫茶というのは実は少数派だ。スピーカーは海外製が殆どだ。まぁアンプもそうなのだが。

突然、末恐ろしい場所に来てしまったような気がした。

Basieには良く行かれているようなお話であった。プレーヤーだけは良くわからないので菅原さんが機種を選び、紹介してもらったのを使っているそう。菅原氏曰く「お前の所は理論的にはめちゃくちゃだが、いい音がしている」。カートリッジはShureを使のでスクラッチは多くなるそう。私は高校生の頃Type III使っていた。それとオーテクの安いやつしか知らないのでよくわからない。

ジャズだけでなくクラシックもとっかえひっかえ聞かせて頂いたが、最後のRihard Davis & Elvin Johnes "Heavy Sounds"のフリージャズは完全に脱帽でした。Summer Timeが聞こえたので、多分B面がかかったようだ。ベースの音はもう弦をこするは叩くはですごい奏法をしているのだが、チョークで黒板を引っかいているかのような所でも、すべてが音楽的に美しく聞こえたのである。このフリージャズは美しい。これはまた私の中で変な回路が開いてしまったかもしれない。

エルビンという名の意味。マスターがエルビンを好きな理由は、サイドマンとして、リーダーとして、フリージャズでも何でもこなせる、役割に応じてちゃんと使い分けられる所がすごい。オーディオもソースを選ばず、柔軟に対応できるものを目指したい、そんな思いから名前にした、というようなことをおっしゃっていました。なるほど。

アンプとプレーヤーはドアの中の別室に入っていて、席からは見えないようになっている。アンプは真空管の自作っぽい機種が並んでいた。どれがどのように使われているかはわからなかったが。

マスターはわりと色々なジャズ喫茶に行っているような感じだった。行きたい場所は、千葉県は館山のコンコルドだそう。何となくスタンスというか、わかるような気がした。ユニーク、孤高とか、常識に囚われないとか。オーディオの理論、常識そんなものは糞くらえなのだろう。そして、しめ縄なのである。

しかし、次のような話を聞くと、これはマスター一流のジョークとして、片づけるわけにも行かないのであった。自然と話が震災のことに及ぶ。

「あのスピーカーが動いて、一人で戻したんだから。あんたの座ってるテーブル(40cm程度はあろうかという丸い金属の足でしっかりささえられている)が倒れたんだから」
「震災で壊れたのは人工物ばかりだ。海岸の岩など全く崩れてない。原発、絶対壊れちゃいけないものが壊れちゃったんだから。」
「復興なんてまだ全然だ。夜みんな出歩かなくなって、客も減っている。何かあったらと、家にいたいとって思ってる」

アナログレコードファンには常識かもしれないが、水で洗うレコードのカビ取りなどを教えてもらいました。水で洗って、すぐにバキュームで吸い取る。吸い取り機械が高いが、ネットで買うと安いとか。Basieでもこれを使っているそう。そういえばキースモンクスという糞みたいに高いクリーナーがあったような気がする。あれはバキュームだったっか記憶が定かでない。

私の手持ちのレコードは1993年ごろに、捨てられない数枚を残して、全部売り払ったので全くわかってません。昔、木工用ボンド塗って、剥がしてとるというのを試したけど、大して効果なかったですね。余計に別種類のノイズが増えてしまったような。そうか、手っ取り早く水や洗剤を吸い取ってしまうというのが、効果的な方法なのだ。

スマホカメラをホテルに忘れていた。2台持ちなのでガラケーのカメラで撮ってみたが、暗すぎてこれでは何も見えないだろう。でも照明は落としている店内なので、結構怪しい空間であることは確かだ。このあやしさはしかし、オーディオ好き、ジャズ好きにはたまらない妖しさである。

2013年9月5日記

エルビン
宮城県登米市迫町佐沼江合1丁目6
0220-22-8793

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