プロジェクト・ファシリテーション 〜クライアントとコンサルタントの幸福な物語〜 | つれづれに…

つれづれに…

日々学んだことを思いつくままに書いていきます。


とても気持ちの良い本に出会いました。
その本は「プロジェクト・ファシリテーション」、サブタイトルには「クライアントとコンサルタントの幸福な物語」と書かれています。

本書は、古河電工の人事総務部門の業務改革プロジェクトの物語。
著者は、古河電工のプロジェクト・リーダーである関(せき)尚弘さんと、コンサルタントとしてプロジェクトに参加したケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ社の白川克さんです。

企業にお勤めの経験がある方はお分かりかもしれませんが、こういった全社の業務改革プロジェクトはものすごく難しいのです。
それは、様々な利害関係者を説得し、場合によっては強引に事を進めなければならないから。

現場は、今まで自分たちの部門で最適化されていた仕事を、(業務改革の名の下に無理矢理)全社の基準に合わせなければならない。ただでさえ、今の業務で手がいっぱいの現場に、新たな業務を増やす余裕はありません。当然、猛反発が来る。
さらに、プロジェクトオーナーの交替による「ちゃぶ台がえし(一度決まった事を白紙撤回すること)」や様々な横やり…
日経コンピュータによると、日本国内のITプロジェクトの成功率は31%、ワールドワイドでも29%と記されていますが、これらの数字も大規模プロジェクトの難しさを物語っています。


実際の現場の業務は、机上で設計できるほど単純なものではありません。様々な業務の隙間を、人間が繋いでなんとか成り立っているのが実態です。だからこそ、業務を変えるためには、業務内容だけでなく、そこで働く人たちをしっかり視野に入れ、その人たちを巻き込んだ一枚岩で進めなければならないのです。

そこで、著者らがとった方法が「プロジェクト・ファシリテーション」。
もともと、ファシリテーションとは、会議の場などで、発言を促したり、話の流れを整理したり、参加者の認識の一致を確認したりしながら、相互理解を促進し、合意形成へ導き、協働を促進させる手法・技術・行為のこと。 著者らは、このやり方を会議だけでなく、様々な利害関係者が絡み合う大規模プロジェクトに適用したのですね。

本書は、このファシリテーション手法以外にも、「ファンクショナリティ・マトリクス(機能表)」「プレップ(事前準備)のポイント」など貴重なコンサルティング手法が惜しげもなく披露されており、とても勉強になる。

しかし、本書の真骨頂はプロジェクトに関わる人たちの熱い想いと、彼らが様々な問題を乗り越えていく成長の過程にあります。
関さんたちは、3年半で230回の説明会と2,300回の会議を行うなど、積極果敢にプロジェクトを進めていきますが、その過程に巻き起こる様々な軋轢や、現場からの不満と不安の声、そして遅れ始めるスケジュール…

   まるで課題の1000本ノックだ。
   一つひとつで立ち止まっていたらスケジュールも守れないし、
   疲れてきてしまう。

   そうしたらプロジェクトが頓挫するか、永遠に終わらないかの
   どちらかだ。



コンサルタントが一方的に書く教科書的な本ではなく、コンサルタントとクライアントが、それぞれの立場からその時々に思った事や考えた事を赤裸々に書いている本書は、本当に面白く、とても熱い。
Have Fun!(楽しんでやろうぜ!)というスローガンのもと、彼らが奮闘する物語を読んでいて、私自身も過去やってきたプロジェクトに思いを馳せながら、一気に読んでしまいました。

   プロジェクトの効果が数字で把握できるようになるまで、
   二年かかったが、結果には驚かされた。
   計画よりもかなり前倒しのペースだったのだ。

そして白川さんは、こう語るのです。

   問題はコンセプトの優劣ではなく、
   やり抜くかどうかなのだ。


読後には、コンサルタントとクライアントがこんな関係を築けるプロジェクトってなんて素晴らしいんだろう、と思わずにはいられませんでした。
私も仕事柄、過去さまざまなプロジェクトに参加させていただき、多くのコンサルタントの方々と一緒に仕事をさせていただきました。しかし、ゴールは達成したものの、残念ながらここまでの関係を築けた案件はありません。
最後のページに掲載されている関さんと白川さんのツーショットは、素晴らしい笑顔にあふれた本当にうらやましい写真です。


ちなみに、白川さんが在籍する「ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ社」には「良き規律」という30か条があります。
どれも、チームで仕事をする上で、とても重要な事ばかりなので、ここに挙げておきます。
私自身、自分のチームマネジメントに活かしていきたいと思う内容ばかりなのです。ニコニコ

1 イエローフラッグ(黄信号)は早めに
2 仕事を楽しむ
3 互いに助け合い、足の引っ張り合いをしない
4 個々のフェーズだけではなく、ライフサイクル全体に注意を払う
5 自分の能力に正直に、しかし、恐れず背伸びする
6 良く聴く
7 コミットメント(約束)は控えめに、デリバリー(成果)は多めに
8 前進あるのみ
9 言い訳はしない
10 ノーという勇気を持つ
11 認識の違いは常にあるもの
12 チームをかき乱さない
13 お客様の前で同僚をけなさない
14 準備なしで会議に臨まない
15 チームの皆が成長できるように時間を割く
16 迅速にフィードバックする
17 参加するからには徹底的に
18 木を見るために森を見る
19 最終手段として、「タイム・アウト(時間切れ)」の出し方を知る
20 私たちは全員プロフェッショナルです
21 脇道にそれないように
22 早くできるもの、できないものを見極めよ
23 自主性に基づく信頼関係
24 ひとつの視点に捕われない
25 柔軟性を持とう
26 考えているだけではなく、実践によって学ぼう
27 何事も楽しみながら取り組もう
28 勝利の女神は努力した者に微笑む
29 長時間費やすのではなく、スマートに働こう
30 失敗という選択肢はない

(ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ社HP ケンブリッジ・マジックより抜粋)
 右矢印http://www.ctp.co.jp/cambridge/magic.html



プロジェクトファシリテーション
白川 克 関 尚弘
日本経済新聞出版社