私たちはただコーヒー豆を売っているのではなく、
コーヒー豆を通して夢を売っているんだ
これは、スターバックスの創業者のひとりであるハワード・ビーハー氏の言葉です。
そして今日ご紹介する「人が輝くサービス ~スターバックスと僕の成長物語~」は、このスターバックスの日本における成長を描いた物語。
著者は、銀座1号店でアルバイトとして働き、そこから店長、エリアマネジャー、構造改革リーダーを歴任した黒石和宏さんです。
スターバックスに関する本は本当にたくさん出版されていますが、日本人が書いた日本法人に関する本は、なかなかないのではないでしょうか。
アメリカの大学で7年を過ごしたものの、帰国後もなかなかやりたいことを見つけられずにいた黒石さんを惹き付けたのが、スターバックスの日本1号店である銀座店のオープン。
直感的に「ここで働きたい」と思った黒石さんは、自分のインスピレーションを信じ、まわりの反対に惑わされることなく、アルバイトからスターバックスに入っていくのです。
そんな黒石さんがスターバックスの一員になって嬉しかったと感じたのはあの「緑のエプロン」をつけられたこと。
おおげさにいえば、エプロンを締めることで、
プロフェッショナルとしての誇りが生まれてくる感じがしたものだ。
スターバックスで最初に学ぶのは、「スタースキル」と呼ばれる3つのスキルだそうです。それは、
①相手の話を真剣に聞き、理解する努力を怠らない
②仕事に誇りを持ち、さらに自己を高める意欲がある
③困ったときは助けを求める
うーん、シンプルでありながら、ついおろそかにしてしまいがちなポイントですね。
やがて、アルバイトから正社員、そして店長へと昇格していく黒石さんのリーダーシップ哲学は、とてもシンプル。
かっこつけた言い方かもしれないが、リーダーシップとは、
昨日の自分より今日の自分、今日の自分より明日の自分と、
つねに勝負をし続けることだ。
リーダーだからこうやるとか、そういうものではない。
なるほど! 自分自身の成長をまわりが評価して、初めて「リーダー」として認められることになるのですね。
スターバックス立ち上げ当初のさまざまなぶつかり合いを振り返り、著者は「やりたいこと」と「やるべきこと」ははっきり区別した方が良いと語ります。そして、目指しているビジョンに向かってやるべきことをやっていると、いつしか「やるべきこと」と「やりたいこと」が一致してくるのだと。
自分の「やるべきこと」を、心から「やりたい」と思えるように
なってくると、本当の意味で強い自分になれる。
そんな中で、「あぁ、なるほど」と思ったのが、スターバックスが全面禁煙の理由。
スターバックス日本法人の創業者である角田雄二さんが決めた全面禁煙の方針に、最初は黒石さんも反対します。(1996年当時は喫茶店文化が根強く、コーヒーとタバコはセットで考えられていた)
しかし、雄二さんの話を聞いて黒石さんは納得するのです。
コーヒーは活性炭だから、タバコの煙を吸ってしまうんだ。
つまり、店に新鮮な豆が置いてあると、
タバコの煙が必然的についてしまう。
スターバックスは禁煙にする。
コーヒーに対して、もっと徹底的にこだわるんだ。
当然、お客さんからの風当たりはとても強いものがあったそうですが、それを乗り越えられたのは、「コーヒーの品質にこだわる」という確固たる価値観に基づいた判断だったからではないでしょうか。
ブレない価値観を全員が持ったことで、毅然とした態度でお客さんに対し説明が出来たのだと思います。
そしてスターバックスは、その後も国内で次々と店舗を拡大させていきますが、必ずしも順風満帆であったわけではありません。
2001年ナスダック(現在はヘラクレス)上場後の2期連続赤字や、ユニバーサル・シティウォーク大阪店の不採算による閉店などを経験した黒石さんは、これらを糧に、徹底的な業務効率の改善とロスの削減を行います。
そして、水平展開(すでにあるものを横に拡げていくやり方)を軸にした拡大路線を進めていくのです。
しかし、単にマニュアルを作って、すでにある店舗のコピーを増やすわけではありません。
スターバックスが水平展開しようと思っているのは「想い」。
挨拶の仕方を書いたマニュアルを各店舗に配布するのではなく、
「おはようございます」と笑顔で言えるような空気、環境、
そういうものを水平展開しようと思った。
お互いを賞賛する環境を創り出すための「ブラボー賞」、お客さんに「自分だけの味」を作ってもらうための「マイスターバックス」、そしてお客さんのニーズをふまえて「Yes」と言える「Just say Yes!」など、すべてのしくみは人間に対する「想い」が基盤になっているのです。
僕らの仕事は、それら一つひとつの要素に
きちんとバリュー(価値)を乗せていくこと、
そしてそれをお客さんに伝えていくことなのだ。
そんな黒石さんが挙げるチームコミュニケーションの5つの法則は、シンプルながらも「なるほど!」と思わせるものばかり。
①1対1コミュニケーションに頼らない
②言行一致を大事にする
③感情的に怒らない
④責任と権限を使い分ける(長所と個性を伸ばす為の権限委譲)
⑤コミュニケーションとは伝わることで、伝えることではない
本書は、スターバックスを通じ、チームとして成果を上げるための様々なヒントが隠されています。
しかし、それらは決してテクニックではありません。
黒石さんは今でも、12年前に自分がはじめて作った「トールモカ」のことを忘れていません。
緊張感で頭がパンパンになりながら作ったトールモカの味をお客さんに聞いてみた時のことを…
お客さんは僕のほうを見ると、ふと目元をゆるめて言ってくれた。
「美味しいよ」
たったひとことで、報われることがある。
スターバックスを退社し、新たな会社を起こした今でも、黒石さんの胸に響くのはこんな言葉なのかもしれません。
Make friends! Make a difference! Make someone's day!
仲間を増やし、変化をもたらし、誰かの一日に幸せをもたらそう!