コナン・ドイルの心霊学 〜名探偵の生みの親のもう一つの顔〜 | つれづれに…

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コナン・ドイルといえば、名探偵シャーロック・ホームズの作者として、あまりにも有名ですね。 (コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズと江戸川乱歩の「明智小五郎と少年探偵団」シリーズが、子どもの頃の私の中での2大愛読書でした。)

実は、ドイル氏は医学部出身で専門は眼科。
さらに、シャーロック・ホームズシリーズは、医者としての仕事の合間の暇つぶしに書いていたら、たまたまヒットして書かざる得なくなった、という信じられないエピソードがあるのだそうです。(本人は歴史小説を書きたかったのだそうですが…)

ヒット後、あまりの忙しさとプレッシャーから、
僕はホームズの殺害を考えている… 彼を永久に消してしまいたい。ホームズは僕の心をよりよいものから取り払ってしまった
と、母親への手紙で書くくらい。
(実際、「最後の事件」で宿敵モリアーティ教授とともに、ホームズを滝壺に突き落とし、まんまとホームズを亡きものにしています。しかし、ほっとしたのも束の間、愛読者からの熱烈なラブコールに押され、しぶしぶ「空家の冒険」で復帰させた経緯があります)

そんなコナン・ドイル氏のもうひとつの顔が、なんと心霊学の熱心な研究者であり開拓者!
晩年は夫人同伴でアメリカや北ヨーロッパの各地を回って、心霊学の講演や執筆などを積極的に行ない、「心霊主義の聖パウロ」との異名をとったことは、意外と知られていません。


もともとは医学の道を歩み、唯物主義であったドイル氏。 最初からこういったスピリチュアルな世界を信用していたわけではありません。
むしろ、苦々しく思っていたくらいでしたが、スピリチュアリズムが、物理学者のウィリアム・クルックスやダーウィンのライバルであった博物学者のアルフレッド・ウォーレス、天文学者のカミーユ・フラマリオンといったそうそうたる学者たちに支持されていることを知るにつれ、その正体を見極めようと、みずからさまざまな検証を始めたのです。

ドイル氏の狙いは、これらスピリチュアリズムの事例や検証結果を総合的にまとめ、一つの思想体系を作ること。
そんなドイル氏の数多くの研究の経過をたどりながら、スピリチュアリズムの起原と思想をまとめたものが、本書に収められた二編「新しき啓示(The New Revelation:1918年)」と「重大なるメッセージ(The Vital Message:1919年)」なのです。

この当時(第一次世界大戦前後)、こういった未知のものを「完全否定」するのでなく、かと言って「盲信」するのでもないニュートラルな視点は、きっと稀有な存在だったのかもしれませんね。 中にはトリックを使ったものもありドイル氏を失望させましたが、それを教訓にドイル氏は、ますます慎重な態度を堅持していくのです。

   たとえ純粋な現象であっても
   暗黒の中で行われた物理現象は、
   何らかの証拠生のある通信が伴っていなければ、
   価値は半減すると考える。


本書では、そんなドイル氏が立ち会ったり、直接当事者にインタヴューした多くの超常現象が紹介され、それについてのドイル氏の見解が述べられています。
内容はオカルティックなものも多いので、一つ一つの真偽を考えるというよりは、コナン・ドイル氏の死生観や解釈として捉えるのが良いかもしれませんね。

しかし、そんなドイル氏もコティングリー妖精事件で、妖精写真を擁護する立場をとったために信用を失墜してしまう…
皮肉なものです。

※コティングリー妖精事件: イギリスのブラッドフォード近くのコティングリー村に住む2人の従姉妹フランシス・グリフィスとエルシー・ライトが、1916年から1920年の間に撮影したたという妖精の写真の真偽をめぐって起きた論争。結局、本人たちの晩年の告白により捏造と判明した。


空前のスピリチュアルブームに沸いた当時の英国の状況と、知らぬものの無い世界的名探偵の生みの親のもう一つの素顔をうかがい知ることのできる、なかなか興味深い本です。