俺は、秋田のペットショップで、
ガラスばりのケースの中で、
ぐるぐる回って、過ごしていた。
ある日、俺をずっと見ている
男の人と女の人がいた。
(今思えば、あれは、兄さんと姉さんだ。)
ある日、俺を女の人3人が迎えに来た。
(今思えば、あれは、姉さんとそのお母さんとお姉ちゃんだ。)
家に着き、俺は、クレートから飛び出した。
家の中を、思いっきり走った。
耳を裏返して、思いっきり走った。
俺は、自由な世界があることを知った。
夜になり、俺に、あの男の人が言った。
『アトム、今日からよろしくな。』
『これから、3人は家族だよ。』
俺は、安心感というものを知った。
俺は、落ち着きがなく、
イタズラばかりして、
叱られることも、たくさんあった。
何もなかったかのように、
『アトム、おいで!』
『アトム、大好きだよ。』
『アトム、愛してるよ。』と、
ギュッと抱きしめてくれた。
俺は、愛というものを知った。
俺は、信頼というものを知った。
俺が、兄さんや姉さんの実家に行くと、
皆が喜んでくれた。
まるで、孫のように、可愛いがってくれた。
時には、兄弟のように遊んでくれた。
俺は、ファミリーって、
甘えられて、
温かいものだと知った。
俺が2歳になった時、
セブンという弟ができた。
俺は、すぐに、セブンが大好きになった。
可愛くて、たまらなかった。
何をするのも、一緒だった。
俺の人生は、一気に、
色鮮やかになった。
俺たちのホームページができた。
セブンの親戚さんと、繋がった。
犬の友達が、いっぱいできた。
ドライブに行った。
お食事会をした。
オヤツの大人食いをした。
ドッグランで走った。
雪山を走った。
宿泊旅行をした。
そして、俺は、恋もした。
友達のパパやママも、みんな、優しかった。
俺は、楽しかった。
最高に、楽しかった。
そんな俺を見て、皆が笑っていた。
俺は、仲間というものを知った。
俺は、5歳になる少し前から、
石垣島で、生活を始めた。
砂浜で、走った。
海で、泳いだ。泳がされた。
フェリーに乗って、離島に行った。
石垣牛を食べた。
ペットホテルに、泊まった。
石垣島の人達も、大人も子どもも、
俺に優しかった。
俺は、どこにいても、
人間って、優しいんだと知った。
石垣島や本島に、ファミリーやお友達が、
会いに来てくれた。
俺は、少し大人になった姿を
見てもらいたかったが、
興奮が抑えきれず、
ぐるぐる回っては、笑われた。
ワンワン騒いでは、笑われた。
俺は、深い絆があることを知った。
俺は、何回か、秋田に帰省をした。
仙台にも行った。
京都、和歌山にも行った。
飛行機は怖かったが、
また、みんなに会えると思い、
頑張って乗った。
毎回、俺に合わせて、
スケジュールを組んでくれた。
『アトム!』
『アット!』
『アトちゃん!』
みんなが、俺に声をかけてくれた。
俺は、調子に乗って、
おやつの要求吠えをした。
みんなが、俺の高速回転を見て、
笑っていた。
俺は、どんどん加速して、回った。
俺は、ふるさとがあることを知った。
ふるさとがあるって、
幸せなことだと知った。
離れていても、月日が経っても、
俺は、カッコいい洋服や、
たくさんのオヤツや
誕生日ケーキをもらった。
俺は、大声で叫んで、歌った。
俺は、変わらない思いやりがあることを知った。
俺は、15歳になっても、
毎日、ごはんをモリモリ食べ、
オヤツを前にして、ぐるぐる回っていた。
しかし、俺は、急に、食欲がなくなった。
ぐるぐる回ることも、
尻尾を振ることもできなくなった。
なぜか、足に力が入らなくなった。
病院に行って、レントゲンを撮った。
突然、大きな痙攣が起きた。
俺は、また、病院に行った。
この日は、定休日だったが、
先生達が待っていてくれた。
病院や、注射は、苦手だが、
先生やスタッフは、好きだった。
意識が薄れて来た時も、親切だった。
丁寧に説明してくれた。
俺に勇気をくれた。
俺は、最後の最後まで、
信頼している先生に、
見守ってもらえた。
俺は、慈しみということを知った。
俺は、15歳と9ヶ月の人生を生きた。
いつも通り、姉さんのベッドで、
いつも通り、隣に寝て、
家族全員に見守られて、逝った。
俺は、俺の人生を走り抜けた。
喜びいっぱいの一生だった。
俺は、幸せだった。
俺の周りは、愛でいっぱいだった。
俺は、この世界は、
愛で溢れていると知った。
俺が空に旅立った日は、
石垣島の空は、青く輝いていた。
空を見上げて、
俺のことを思い出すことがあったら、
笑ってほしい。
俺は、出会ったみんなの、
笑った顔と、
笑い声が、
大好きだったから。
俺の大好きなみんなが、
毎日、心豊かに過ごせることを、
俺は、空から願っている。
みんな、ありがとう。
たくさんの愛を、ありがとう。
俺、旅立つ前の20日前。
大好きな大好きなセブンと昼寝中。
俺は、お前のぬくもりが大好きだった。
お前の全てが、大好きだった。
いつまでも、忘れない。
俺、アトム。