[SB頂き物]桜幻想 【後編】 | 三日茶坊主

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桜幻想 【後編】




翌日いつも通り仕事を済ませた蓮は、夜を待って桜の元へと訪れた。

そこに目当ての人物を見つけ笑顔で声をかける。


「こんばんは、最上さん。」


先に訪れていた少女は困ったような顔で彼を見つめた。


「・・・私が言ったことを聞かれてなかったのですか?

夜にまたここに来るなんて・・・。」


非難するようなその言葉を受け流し。

昨夜と同じように着物に身を包んでいる彼女に視線を合わせたまま彼は歩み寄る。

ゆっくりと・・・足元の土を踏みしめるように・・・。


「あれからずっと考えてたんだ・・・君が何者かということを。

それで一つの考えに辿り着いたんだが・・・君は・・・吸血鬼なのか?」


彼の問いかけに彼女は視線を逸らすことなくそっと頷くと微笑んだ。


「・・・そうです・・・私は吸血鬼という魔物です。

探しているのもペットなんかじゃなく、人の血で狂ってしまった私の使い魔です。」


何かを諦めたような表情で笑顔を浮かべる彼女に更に近づこうとした時。

すぐ近くで物音が聞こえたような気がした。

それが何かと思うよりも先に体が動き、彼は彼女の前に立ちはだかっていた。

その直後、鋭い爪が彼の体を切り裂く。


「敦賀さんっ!!!」


崩れる体を抱きとめているうちに、襲ってきた使い魔は闇に姿を消していった。

だがそんなことには目もくれず彼女は必死に話しかける。


「敦賀さん、しっかりしてください!

・・・何故私なんか庇ったりしたんですか?!

こんなことしなければ貴方は怪我をすることもなく・・・まだ生きられたのに・・・。」


彼女の言葉通りその傷は誰の目から見ても深く、とても助かりそうにないことが分かった。

医者である彼自身も悟っているようで彼女を見て微笑んだ。


「君が無事でよかった・・・。これは俺が勝手にしたことだから・・・君が気に病むことはないよ・・・。」


その笑顔と言葉にキョーコは顔を歪ませ瞳を閉じる。

少ししてから開くと静かに問いかけた。


「敦賀さん貴方は・・・このまま人としての死を望みますか?

それとも・・・私のように魔物としてでも生きたいですか?

・・・選んでください・・・時間が残されている今のうちに・・・。」


だんだんと琥珀色に煌いていく彼女の瞳を見つめながら彼は囁くように言う。


「・・・生きたい・・・君と共に・・・。」


それを聞いた瞬間、彼女は彼の首筋に牙を立てていた。

そんな二人の姿を覆い隠すかのように、一陣の風が桜の花びらを舞い散らせていった・・・。



こうして一人の医者と少女が姿を消した。

誰もその行方を知ることはなく年月とともにそのことは忘れ去られていき・・・。

ただ、全てを知っている桜だけは今年も綺麗な花を咲かせたのだった・・・。




おわり