「そう言えば、CMの演技の事だけど…。」
あのままじゃれあっている間に朝になり、一度着替えるために帰ると言うキョーコを送っている車内で、蓮は思い出しように切り出した。
「あ!…あの、それは大丈夫です。
役になりきれば出来るはずですから。
…ホントはアメリカに帰っちゃうのを聞いて居ても立ってもいられなくて来たんです。
でも、確認する勇気も、告白する勇気もなくて…。
それで何とか誤魔化そうと思って出した話題だったんです。
ごめんなさい。」
「そっか。
でも『不破に媚びるようで嫌』っていうのは本音だろう?」
「それはそうなんですけど…。」
「その撮影はいつなの?」
「明日です…。」
暫し沈黙がおりる。それを破るように蓮は話し出した。
「考え方変えてみたらどうかな。
“小悪魔”なんだったら、誘惑するのも媚びるんじゃなくて振り回した方が“らしい”と思うし。」
「え?」
「相手を翻弄した方が小悪魔らしいんじゃないかなと思ったんだけど。」
「あ!」
蓮の意見を吟味し始めるキョーコ。
蓮は、少し私情を挟みすぎている意見であることは自覚していた。
でも、キョーコなら役に対する抵抗を減らす事で、より良い演技につなげてくれるだろう。
「ありがとうございます!
監督に提案してみます。」