む~か~つ~く~~!!
見てなさいよ、ショータロー!
メイクの魔法で役になりきりさえすれば、私だって小悪魔になって誘惑くらい出来るんだから!
ぅお~~の~~れ~~~!!
ドス黒いオーラを背負い、般若のような形相でガツガツと歩いていく。
そんなブラック全開だったキョーコだが、ふとある言葉を思い出して足を止めた。
『一応、仮にもテレビに顔が出る様になった“芸能人”がそんな怖い形相で歩くもんじゃないよ。』
ハッ、いけない、いけない。
そうよ、仮にも芸能人なんだから怒りに駆られたまま歩いてちゃダメよね。
相手が誰であろうとも、これは仕事なんだから冷静に役作りしなくちゃ。
敦賀さんに追いつくためにも、あんな奴相手に躓いてられないわ!
…こんなんじゃ追いつくなんてまだまだよね…。
もっと頑張らなきゃ。
はぁっと息を吐くと、気持ちを切り替えて歩き始めた。
そうして次の現場であるテレビ局に着き、ホールを歩いていたら後ろから声をかけられた。
「キョーコちゃーん、久しぶりー!」
「ミューズ!お久しぶりですー。」
久しぶりに会ったジェリーウッズと近況報告などをしている時に、ふと思いついて聞いてみた。
「あの、“小悪魔”ってどういうメイクになりますか?」
「あら、今度の役は小悪魔なの?」
「はい、CMなんですけど。」
「そうねえ…。」
そうして、小悪魔メイクの特徴をレクチャーして貰っていると、あるニュースが耳に飛び込んできた。
『…続いて芸能ニュースです。
あの芸能界いい男殿堂入りの俳優、敦賀蓮さんがなんとハリウッドに進出するというニュースが入ってきました。』
聞こえてきた音声につられて、二人そろってホールに設置された大型テレビモニターに目を向けると、そこには“敦賀蓮ハリウッド進出”の文字が踊っていた。
すごい!さすが敦賀さん!
まだまだ追う背中は遠いなぁ…。
そんなことを考えていると、隣からポツリと呟きが聞こえた。
「蓮ちゃん、ようやく帰れるのね…。」
「えっ?」
目を見張って凝視しているキョーコに気付いたジェリーウッズは、一瞬しまったという表情をした。
「キョーコちゃん、今のは他言無用よ!いいわね?」
そう言って、逃げるように去って行った。
茫然と見送っていたキョーコであったが、口止めされたことでそれが真実なのだと気付いてしまった。