日本の大学スポーツが本気でNCAAモデルを目指すとすると・・ | 成功する野球留学・スポーツ留学:行列の出来る教授の相談所&ときどきスポーツ名言

日本の大学スポーツが本気でNCAAモデルを目指すとすると・・

本日(4月30日)の産経新聞ネット記事。2度見してしまうほど驚きました!

日本版「NCAA」創設を検討 政府・与党 大学スポーツ統括機関

↓ 記事抜粋 ↓

米国で1千校以上が加盟し、年間約1千億円の収益を上げている「全米大学体育協会(NCAA)」をモデルに制度整備を進める。政府は名目国内総生産(GDP)600兆円達成に向け、5月末にもまとめる成長戦略に「スポーツの成長産業化」を盛り込む方針で、その一環として大学スポーツの振興を目指す。

 制度設計はスポーツ庁が中心となって進める。参考とするのは、米国の非営利団体「NCAA」。加盟校の試合開催などを手掛け、年間収入はプロスポーツ並みに達する。収入の約8割は、バスケットボールの全国トーナメントといった人気競技のテレビ放映権料などが占めている。

↑ ↑ 抜粋ここまで



総論的には、革命的なビジョンを示した素晴らしいワクワクなニュースです


一方、各論に目を向けるとちょっと考えただけでも山のようなたくさんの課題が見えてきます。


もちろんどこにゴールを置くのかによっても解決する課題の数は変わります。


NCAAと日本の大学スポーツの違いは仕組みとしても非常に大きいものがあります。

たとえばアメリカ大学スポーツにあって日本にないものは・・

ホームアンドアウェイ制 
多くのリーグ戦(野球40-50試合、バスケ20-30試合)
少人数制
文武両道推進型(成績が一定以下だと公式戦に出れない)
アスレティックデパートメントという専用部署が各大学にある
奨学金(特待生)人数・額の制限
公式戦の長さは原則、1学期の長さ
夏休みは指導者の下で部活をしてはいけない
練習時間が決められている
等々


純粋な競技面の違いに絞っても、まだまだ書ききれません。


とはいえ、日本政府の方針のそもそもの理由は、上記のような競技面というよりも、記事にもあるように「スポーツの成長産業化」です。
簡単に言うとNCAAのように大きな収益を日本の大学スポーツであげていくということです。


競技面でも全体的に参考になるところはたくさんあるものの、あえて、収益という点に絞ります。

ふたたび上記抜粋記事を見ますと、


”収入の約8割は、バスケットボールの全国トーナメントといった人気競技のテレビ放映権料などが占めている。”

とのこと

つまり、このモデルの肝は、シーズンごとの成績が放映権に左右される各大学や各地区の連盟等がばらばらの権利を売るのでなく、他のアメリカスポーツのリーグビジネスと同じように、全て一致団結して、新組織に権利を集中させ、パワーを持ち、放送してくださいという下の立場でなく、キラーコンテンツホルダーとしてTV局やスポンサーに対等の立場、いやそれ以上の立場で交渉をし、複数年の巨額の契約を勝ち取るというものです。


日本の大学バスケットボールは残念ながら、現時点では地上波TV放映ほとんどなく、このようなモデルの適用のだいぶ以前の段階です。
人気のある六大学野球でも定期的なTV放送はありません。かつて斎藤佑樹選手が早大1年生のころ斎藤選手フィーバーでひさびさに六大学で地上波放映が行われたことがむしろ話題になったほどです。


しかし日本の大学スポーツには、強力なキラーコンテンツがあります。


それは箱根駅伝です。



NCAA的なモデルに応用し、勝手に構想を膨らませてみますと。。。



全日本大学駅伝、出雲駅伝、箱根駅伝、女子駅伝、予選会とすべての権利を今回の権利母体となる日本版NCAA組織に集約し、
その大会をすべてパッケージし、さらに常に盛り上げるような情報番組を放送をすることを義務付け、それを局に、1社独占で10年長期契約という形で売っていく。


今あるキラーコンテンツを最大限に生かすには、こんな形がいいのではないでしょうか。



そして、かねてから言われていて、そして最近では青学の原監督も提唱しているように、箱根駅伝を関東学連の枠を超えた、全国大会にしていくことがさらにコンテンツとしての価値を押し上げることでしょう。



アメリカではスポーツ放送の価値がどんどん高まっていて、スポーツ団体側は強気に交渉していっています。アメリカの状況と比べると、日本のスポーツ界はテレビ局に遠慮しているところがまだまだあるように見受けられます。もっと自分たちのコンテンツに自信をもっていいと思います。


ましてや、キラーコンテンツを持っているのであれば、長期契約にし、ビッグイベント以外の周辺も放送してもらうことを義務付けるぐらいの強気な交渉があってもいいと思います。

シーズンごとの成績や一時のブームに流されない安定的な放送。
それがひいては安定的なスポーツの人気につながります。
いつも放送している、ということがより人気を高めます。
甲子園、大相撲、吉本新喜劇にもあてはまります。
人気があるから放送する、でなく、いつも放送してるから人気が出てくるのです。


とはいえ、
現在キラーコンテンツ、どころか現在放送すらされてないその他大勢の大学スポーツを、ゼロからキラーコンテンツ化していくのは、なかなか難しい。かなりの時間と労力がかかることでしょう。NCAAですら、ほぼバスケとフットボールに集中しているぐらいですから。


だからすでにあるキラーコンテンツをまず生かすべきです。


すでにあるキラーコンテンツという観点からは、日本でNCAAのモデルを参考にした日本版NCAAモデルを適用できそうなのは、実は、大学スポーツでなく、高校スポーツかもしれません。

日本の高校スポーツには

高校野球の甲子園
バスケットボールのウィンターカップ
高校サッカー
高校ラグビー
高校駅伝
春高バレー

すでに確立されたキラーコンテンツがたくさんあります。


日本版NCAAがこれらの権利をすべて束ねて、1競技1局なのか、はたまた、全競技で1局または2局で独占、ぐらいにして、長期契約で放映権収入を上げる。


高校スポーツのほうが、よりシンプルで非常に効果的なゴールが描きやすいことでしょう。



僕自身、大学の授業やいろいろなところで、日本でNCAAを説明するとき高校野球、高校スポーツに例えています。そのほうが類似性が多くわかりやすいからです。

アメリカのプロ球団がない都市は、地元の大学の選手がその地元のスターであったり、
あるいは、地元でも出身でもないのにある大学の熱狂的なファンで、グッズを身にまとい毎年その学校を応援しているマニアックなファンというのもたくさんいます。

日本でも高校野球なんかでは、似たような現象が見受けられます。



「スポーツで稼ぐという風土を作る」

という鈴木大地スポーツ庁長官の発言は非常に画期的で、個人的にも大いに賛同です。



スポーツで稼いでいいんだという原則で行くと、大学をやるなら、1-3歳しか年の変わらない高校生も扱ってもいいような気がします。

ましてや、もう、高校スポーツはすでにTVのキラーコンテンツとなっており、アマチュアスポーツという枠組みは、とっくに超えています。アマチュアスポーツ界の人気は大学よりもむしろ高校にあるという事実は無視できないはずです。

米NCAAのように放映権やスポンサーシップなど、権利を一本化して、より強い立場で交渉力を持ったり、統一化集中化により効率化し、収益を上げていくというモデルを今後推し進めるのであれば、大学スポーツにとどめるもはもったいない。そんな気がします。



もちろん、言うは易く行うは難し。

もう、それはそれは、さまざまな既得権益者との衝突。。。


そしてなんといっても、

やはり、純粋アマチュアリズム派との大きな論議、抵抗がでてきて、


いろいろと推し進めるには困難を極めることが予想されます。


言ってみたものの、冷静に考えると高校まで巻き込むと大変なことになることは必至。

だから、ひとまずは大学スポーツが最初なんだとは思います。

まあ、大学スポーツですら、実行にはいろいろな課題が山積みかと思います。



しかし改革に波はつきもの。

日本版NCAAが、単なる形だけの組織にとどまらず、

米NCAAのようなビジネスを生み出していくようなアグレッシブな組織を目指し

スポーツ成長産業化に本気に取り組んでいく流れになることを期待します。