サルトルのノーベル文学賞拒否のエピソード | 総合マネジメント事務所エスパスミューズ

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実存主義、そして自由の哲学の父であるジャン=ポール・サルトルが、ノーベル文学賞を拒否したのが1964年10月22日でした。まもなく、50年になろうとしています。

 

 

 

 

 

 

 

 


サルトルは、『La Nausée 嘔吐』などの作品ですでに知られていましたが、ちょうどこの年は自伝的作品である『Les Mots 言葉』を出版した年でもあります。

サルトルがノーベル賞を拒否したことにより、フランスの知識階級の間では、議論が巻き起こりました。賛成派反対派が意見を出し、反対派の中には「やつは燕尾服の着方を知らないから拒否したんだ」と揶揄した人もいます。


サルトル自身は、スウェーデンのノーベル財団に手紙を出し、次のようにのべています。

「わたしには、このノーベル賞を拒否する2つの理由があります。1つは、個人的な理由です。わたしがこの賞を拒否したのは思いつきではありません。わたしは公式に表彰されることは全て拒否してきました。例えば1945年、終戦直後にレジョン・ド・ヌール賞受賞できると言われたときも、拒否しています。その時、政府の中にはたくさんの政治家の友人もいました。また、わたしの友人たちが薦めてくれたコレージュ・ド・フランスに入ることも望みはしませんでした。わたしにとっては、ジャン・ポール・サルトルと署名することと、ノーベル賞受賞者ジャン・ポール・サルトルと署名することは、同じ意味ではないのです。
2つ目に、わたしの客観的な理由として、現在のカルチャーの戦線における可能な闘いというものは、二つのカルチャーの平和的共存、つまり東と西のカルチャーの共存ということであります。わたしは、東西が互いに抱き合うということを求めているわけではありません。しかし、この二つのカルチャーの衝突というものは、必ず闘いという形になるとは思いますが、それは人間同士のそしてカルチャー間の闘いであるべきであって、制度というものがそこに入るべきではないと思っています。したがって、わたしは文化機関が配布する賞というものを受賞することを望みません。」


これとは別に、フランス国内向けの説明には、以下のようなものがありました。

「わたしはノーベル文学賞を拒否しました。なぜならば、わたしは自分が死ぬ前に人が“サルトル”を神聖化することを望まないからです。いかなる芸術家も、いかなる作家も、そしていかなる人も、生きている間に神聖化されるだけの価値のある人はいません。なぜならば、人は全てを変えてしまうだけの自由と力をいつも持っているからです。ですから、ノーベル文学賞というものがわたしを名誉の絶頂に押し上げてしまうとしたら、わたしは現在完成しているものを終わらせることができませんし、またわたしは自分の自由というものを行使することもできませんし、行為をおこすということもできなくなりますし、コミットメントをすることもできなくなります。このノーベル文学賞の後では、すべてがつまらぬものになってしまいます。なぜならば、すべてが回顧的な価値を認めるだけのものになってしまうからです。想像してごらんなさい。栄誉を得て、そしてその後転落していく作家と、栄誉はないが常に今一歩前進していく作家と、この2つの作家のうち、どちらが本当に栄誉に値するのでしょうか。常に、今一歩前進して自分の可能性の頂点に向かっていく人と、頂点に到達することなく神聖視されてしまった人、どちらでしょうか。わたしは、この2つのうちの1つになることはできていたでしょう。しかし、わたしがどんな可能性があるかは誰もいうことはできなかったはずです。人というものは、その人がなしえたものがその人であるのです。わたしは、行為することができる間は、絶対にノーベル賞を受け取ることはないでしょう。」



「目的はすべての手段を正当化する」という傾向になりがちな今の社会において、サルトルのような行為は青臭い滑稽にも見えるかもしれませんが、彼のように自分の原理原則に従って賢明に生きようとしている姿は、尊敬に値すると思います。

一方で、賞を受賞したとしても、名誉に押し上げられたとしても、自分の人生としてやるべきことをやる、ということはできたかもしれませんね。サルトルは「全てを変えてしまうだけの自由と力」を自分に保存するために受賞しないと決めていますが、そういったことに自分の自由が左右されるということとサルトルのいう自由の哲学とは、どこか矛盾があるという印象を受けます。

ほとんどの人はどんな制約の下にあっても、選択し、手持ちの手段でアクションする可能性は残されていると思います。体制やパラダイムの中の二元論を越える視点というものも、わたしたちは選択の際に考える必要があります。

 

 

 

 

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