今年もまた、春風とともに、年に一度のオトムギの季節がやってきました。
今年の大人の麦茶本公演は、オトムギにとっての代表作の一つといってよい『おしり筋肉痛』の、再々上演です。
といっても、「リノベーテッド」と付いているだけに単なる再演ではなく、主宰の塩田さんが全編にわたって脚本に手を入れ、配役と演出を入れ換えた、まさに「リノベーション」と呼ぶにふさわしい作品となっています。
内容について書くとネタバレになってしまうので、くわしくは書きませんが、大人の麦茶という劇団の歴史を感じるリノベーションだとだけ、言っておきましょう。
それとともに、自分だけなのかも知れませんが、観ていて初演の時の役者陣が、不思議に思い出されました。
そして、今回の第29杯目公演の出演役者たちのよさだけでなく、特に初演の時の配役たちの持っていた、彼ら彼女たちに特有のすばらしさ美しさを、今までとは別の角度から再認識しました。
それは、初演・再演・リノベーテッドのそれぞれの芝居を横に並べて優劣を比較するという話ではなく、ありえたはずの並行世界を体験しながら、同時にもといた世界の記憶をたどっているかのようでした。
そしてそれにも関わらず、気づけば自分は、初演の時にも再演の時にも涙したある箇所で、三度(みたび)涙をぬぐうことになりました。
最後に、オトムギの舞台を観に行った時に必ず書く、舞台美術の話をして終わりにします。
自分はオトムギ舞台観劇の自分的初日に、必ずすることがあります。
それは、開演よりだいぶ早く劇場に入り、奨伍さんの前説が始まる前に舞台に近づいて、田中敏恵さんの作った舞台セットをじっくり見ることです。
今回もそれをやりながら、「どうして自分はこんなに田中敏恵さんの創る舞台美術に惹かれるのだろう?」と考えていたら、この気持ちを言い表す言葉に、不意に気づいてしまいました。
この気持ちは、「恋」です。自分は田中敏恵さんの舞台美術に、ずっと「恋」しているのです。