【諸家自選句5句】より

林檎拭きくれし胸襟開きけり         阿戸敏明 「初蝶」同人会長

向き合うて久しき天地ゆりかもめ       池田澄子 「船団・豈・面」

蟷螂の風喰ふほどに枯れにけり      石嶌 岳 「雪解」

トースターのちんと鳴つたる枯木かな    石田郷子 「椋」代表

白身魚ほろつと崩れクリスマス       今村妙子 「未来図」

エデンの園以来林檎は誘惑の象徴でもあるが
その林檎を洗うのではなく何かで拭いて差し出された
食べるしかないではないかと思う
「空は太初の青さ妻より林檎うく  中村草田男」
アダムとイヴを想起する

「向き合うて久しき天地」言われてみると、全くそうだ
天地がひっくり返ることもなく向き合ったままだ
「ゆりかもめ」は都鳥、分かり易い斡旋にホッとする

蟷螂は強力な鎌足で昆虫、時にはカエルやトカゲを食べる
肉食の蟷螂がまるで風を食っているかのように枯れている

さっぱりと葉を落とした枯木に囲まれた家
そこに実にアッケラカンと焼きあがったトーストが飛び出す

ほろっと崩れる魚といえばカラスカレイの切り身の煮物
鯛は案外締まっていて崩れない
「ああ、今日はクリスマスだなあ」なんて思いながら一人の食卓サンタ

「ほろつと」は涙に通ず

”日向ぼこドロップの粉もてあます”    蓼