ラジオエクストラ ♭2 The Reflex | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

もう一発DDを続ける。こちらはいわずもがな、
彼らの初の全米チャートトップ獲得曲。
83年の発表で、アメリカでのナンバー1はその翌年。

Skin Trade, Save a Prayerと紹介してきたけれど、
むしろこの曲が採用している方法論こそが、
バンドに最初のピークをもたらした、いわば彼らの
王道的なサウンド・メイキングのスタイルなのである。
一言でいえば攻撃性。マイナーコードを基盤にした、
鋭角的なキーボードの音色の選択と、
ある種乱雑なほどの軽めのギターストローク。
その両者の作り出す独特なリズムの合間を巧妙に縫いつつ
決して自己主張をやめようとはしないベースライン。
Planet EarthやGirls on Filmに始まり、
前回ちらりと触れたNew Religionを経由して、
UnionやこのReflex、あるいはその後に続いた
The Wild Boys、A View to a Killなどに至るまで
このスタイルは強固に堅持されている。

3rdアルバムSeven and the Ragged Tigerの
オープニング・トラックだったこのThe Reflexは
実は同作からの三番目のシングル・カットだった。
Unionがまず先行シングルとして登場し、
その次にNew Moon on Mondayがリリースされ、
ようやく最後に順番が回ってきた形である。

とりわけこの曲に限ってはアルバム収録のヴァージョンより
シングルやあるいはリミックスの方が格段にいい。
むしろ、アルバムの段階ではどこか荒削りだったものが、
シングルを作成する過程でようやく完成されたような
そんな手触りさえある。それもそのはずで実はこのシングル、
ミックスをあのナイル・ロジャーズが手がけているのである。
この人は元々シックのギタリストで、当時ボウイの
あのLet’s Danceを世に送り出したプロデューサーとして、
ある意味いわばこれ以上はないほど乗りに乗っていた。
実際あの頃のヒット作には、アーティストを問わず、
彼の名前がどこかにクレジットされていることが
とにかくとても多かったように記憶している。

イントロからしてアルバムのものとはかなり違っている。
ロジャーズは、サビの部分のコーラスパートを、
いきなり冒頭に持ってきてしまっているのである。
でもこうされて初めて、この曲の核とも呼ぶべき要素が
実はこのパートのコードワークだったことに気づかされる。
他にも随所に洗練された工夫が見られる。
正確には聴こえる、というべきだろうが、とにかく、
それぞれの楽器の前への出方が微妙に調整されていたり、
あるいはブレイクの挟み方が極めて巧妙だったりと、
そういった部分にまったく隙がないのである。
やはりヒットメイカーの称号は伊達ではないな、
というのが当時から変わらぬ率直な所感である。

このロジャーズの仕事がなければ、たぶん全米での
トップ1獲得という事態は絶対に有り得なかっただろう。
そもそもデュラン・デュランのサウンドというのは、本来なら
決してメインストリームに成り得るようなものではない。
イギリスならともかく、アメリカではほとんど無理だろう。

何故なら彼らの音楽は、ジャクソンズ辺りの楽曲にみられる
はしゃぐような明るさとは徹底的に無縁だし、
そして同時に、ボスことスプリングスティーンや、
あるいはヒューイ・ルイス&ザ・ニューズのような、
いわば極めて明快なロックンロールとも
明らかに一線を画しているからである。
なのにダンスビートとして成立している。そこが不思議である。
しかも、つけ加えると歌詞だって相当無茶苦茶である。

あの影は公園のそばで待っている子供に過ぎない
暗闇の中に隠されている宝物を見つけるのが役目なんだ
幸運の四葉のクローヴァーを観察してるんだ、おかしいだろ?
あいつのやることなすこと何もかも
僕を困惑させたままにしておかずにはいないんだ

ワケワカメ、である。
いや、さすがにこの言い回しはやや古いかもしれないけれど。

ちなみにロジャーズはこの後、The Wild Boys、
A View to a Killの二曲のシングルと、それから
Skin Tradeを収録した4thアルバムNOTORIOUSまで
プロデューサーとしてバンドと仕事をすることになる。

前回のRioほどではないけれど、やはりアルバムには
そこそこ佳曲が揃っている。Of Crime and Passionや
Shadows are on Your Side辺りは、
あるいは次のシングルにでもなっていれば、ひょっとして
それなりに面白いことになっていたのではないかとも思う。
ラストのThe Seventh Strangerも極めてユニークだし。
80年代を語る上で外すことのできない
名盤であることは十分に保障する。

セヴン・アンド・ザ・ラグド・タイガー/デュラン・デュラン

¥1,512
Amazon.co.jp


なお、いずれまたデュランデュランについては
機会を改めて語るつもりでいる。その際はまず
New Moon on Mondayを取り上げる予定である。