「特定秘密保護法案」の上程が準備されていることについて、故・尾崎秀樹さんを中心に結成された「国家機密法に反対する懇談会」の思想を継承する「阿佐ヶ谷市民講座」として座視できず、反対声明を出すことに致しました

「特定秘密保護法案」を廃案へ   阿佐ヶ谷市民講座声明

 

 日本政府・安倍政権は、秋の臨時国会に「特定秘密保護法案(旧秘密保全法案)」を上程しようとしている。「特定秘密」とは、①防衛、②外交、③外国の利益を図る目的で行われる安全脅威活動の防止、④テロ活動防止の四分野を対象として、「国益」に関わると行政機関の長が判断して指定したもの。これを漏らしたり、入手したりする人を処罰する法案である。

 

(1)国家情報の隠ぺいと「知る権利」の制限、国民への監視・統制強化

 この法案は「国益」を盾に、国民の「知る権利」を制限し、監視・統制を強化する法律である。「秘密」の範囲を決めるのは行政機関である。広範な「国家機密」が政府の都合で作られる。沖縄基地問題・自衛隊の海外活動・TPP交渉・原発災害など、防衛・外交などの重要テーマを、ジャーナリスト・研究者や表現者が取材しようとすれば、それが「特定秘密」の漏えいの「教唆行為」「扇動行為」とみなされ、処罰の対象になりうる。また、米国CIA元職員の事件のように、自国政府の腐敗を告発すれば、それは「故意の漏えい行為」として処罰される。また国民や在日外国人は、何が「特定秘密」に指定されているか分からないため、本人が知らないうちに捜査機関の監視対象となることもある。最高刑は、公務員・民間人とも10年である。

 

(2)改憲と戦争国家への道

この法案は、「国家安全保障会議(日本版NSC)」とセットとなっている。日米安保の新らしい軍事展開とあわせて秘密防衛体制の強化を図ろうとしているが、米軍並みの処罰法をなぜ作らねばならないのか。三・一一原発事故の際、政府は米軍にSPEEDI情報を提供していたのに自国民には知らせなかった。このような情報を「特定秘密」にしようとしているのは明白である。

政府は、日本版NSC設置と合わせて、「内閣情報調査室」を「内閣情報局」に昇格させる方針と伝えられている。これは一九四〇年、日米開戦前に「内閣情報部」を「情報局」に格上げさせ、そのもとですべての言論・出版などの表現活動を弾圧し、更に国民の「戦意」を扇動した歴史を想起させる。

 昨年発表された自民党改憲草案では、憲法第二十一条に「公益および公の秩序を妨害することを目的とした活動は認められない」とした項目を追加している。「特定秘密保護法案」は、これと軌を一にした法律であり、改憲を先取りしたものと言わざるを得ない。

 改憲と戦争国家への動きに、われわれは断固反対する。

 

(3)「不当な取材」をだれが判断するのか

 政府・自民党は、法案に「報道の自由を侵害してはならない」との規定を盛り込み、懸念を示している報道機関を囲い込もうとし、「不当な方法による取材は罰則の除外とならない」と表明した。しかし「正当」「不当」を判断するのは、行政機関自身である。行政機関への取材の窓口を記者クラブに限定し、フリーの記者・住民を「不当な取材」として排除する意図が透けて見える。

「権力を監視する」というジャーナリズムの役割を、権力の側から制限しようというのである。沖縄返還秘密協定を取材した新聞記者を、「不当な取材」として起訴・処罰した事件は記憶に新しい。この法案は第二・第三の西山記者を生み出そうとしている。

 

(4)今回の「特定秘密保護法」は、戦前の「軍機保護法」の再来である。

一八九九年の日清戦争直後に制定された「軍機保護法」は、その後中国への全面戦争開始の一九三七年、さらに一九四一年のアジア太平洋戦争と、戦争開始ごとに改定を重ね、その適用を軍人だけではなく一般国民にも広げ、「治安維持法」と並ぶ治安弾圧法として暴圧を振った。

 改定においては議会でも多くの慎重論や反対論が出され、「軍事上の機密を、不正手段で侵すもの」に限るとされたにもかかわらず、実際は言論や出版への弾圧はもとより、軍港の写真を撮ったりスケッチしたり、さらに人々の雑談にまで踏み込み、軍関係の話を話題にしただけで処罰され、一九四一年だけでも一〇五八名が検挙された。

 そして日米開戦の十二月八日、その当日に、その年に改定された軍機保護法によって北海道大学の学生とアメリカ人講師がデッチあげで逮捕され、それぞれ十五年と十三年の懲役刑に処せられるという「レーン・宮沢事件」などの冤罪を生んだ。戦争の終結を早めようとして行った尾崎秀実氏などの取材活動を、「諜報」だとして逮捕・処刑したのも「軍機保護法」であった。

 
 

 一九八五年、上程された「国家秘密法案」は、戦前のような監視国家を作るのかと世論の猛反発を受け、廃案となった。「阿佐ヶ谷市民講座」は、その際、故・尾崎秀樹さんを中心に結成された「国家機密法に反対する懇談会」の思想と活動を継承するために作られ、毎月一回の講座活動を続け、一九九七年には「盗聴法案に反対する表現者声明」の事務局を担った。

 今回の「特定秘密保護法案」は、「国家秘密法案」の再来である。われわれは「国益」を盾に、国民の知る権利を制限し、国民や在日外国人を監視し、改憲と戦争の道への道を掃き清めようとする法案に断固反対である。

今回の「特定秘密保護法案」上程策動に対し、「表現者声明」の賛同人および当講座の講師・新たな賛同人とともに、廃案を強く要求する。

 

二〇一三年九月一〇日

呼びかけ人(阿佐ヶ谷市民講座)

奥平康弘(東京大学名誉教授)

白井佳夫(映画評論家)

葉山岳夫(弁護士)

藤田進(東京外語大学名誉教授)

荻野富士夫(小樽商科大学教授)

斉藤貴男(ジャーナリスト)

三角忠(編集工房 朔)