鳴釜神事 吉備津神社鳴釜殿
道幅がやけに狭いし、店主が地図に赤線を引いてくれている道とは明らかに違うと思いつつも、ハンドルを向けた。
7~8分ほど砂利道でペダルを踏んでいると確かに登山口に着いたが、幅が1㍍ほどの、大小の石ころが転がっている山道であった。
自転車で登れたものではない。
地元の人々が、山菜採りにでも利用している道なのだろう。
やむなくもとの道に引き返して走っていると、山麓に集落が広がっているのか見えてきた。
案内板に阿曽郷という見聞きした覚えのある地名が書いてある。
阿曽は、鳴釜神事に深くかかわる土地だ。
鳴釜神事は温羅伝説の中でも古くから知られていて、しかも現在なお吉備津神社の鳴釜殿で行われている。
鳴釜神事とは、釜の上に置いた蒸篭(せいろ)の中に米を入れ、蓋をかぶせて釜を焚いた時に鳴る音の強弱・長短等で吉凶を占う神事。
林羅山の『本朝神社考』や上田秋成の『雨月物語』によって、広く世に知られるようになった。
その鳴釜神事に仕える巫女は代々、温羅の要求によって阿曽郷出身の阿曽女(あそめ)に限られている。
また、阿曽は熊本の阿蘇と繋がりがあるという。
手元の地図によると、東阿曽と西阿曽からなる阿曽郷に、阿宗神社がある。
この阿宗神社も、きっと肥後国一の宮の阿蘇神社と関係があるに違いない。
肥後の「阿蘇」という地名と「阿蘇氏」という氏族は、記紀にも登場する。
古事記によると、「阿蘇氏」は神武天皇の末裔。
神武は阿蘇からほど近い宮崎県の高千穂生まれということになっているから、つなげやすい関係ではある。
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