吉備路残照△古代ロマン

吉備路自転車道を回って以来、すっかり古代吉備国の残り香に取り憑かれました。
吉備は歴史と神話が絡み合っているからか、多くの遺蹟の故事来歴が謎に包まれています。
鬼ノ城 温羅伝説 鳴釜神事 …それらの謎に自分なりの解釈を加えていくのを楽しみにしています。

寒中お見舞い申し上げます


仏御前、 $吉備路残照△古代ロマン-仏御前、祇王を訪ねる  祇王を訪ねる

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$吉備路残照△古代ロマン-祇王寺  祇王寺 苔の庭

清盛の屋敷につくと、祇王はかつてあてがわれていた部屋より、ずっと下の身分の者がいる部屋に案内された。

そのことを伝え聞いた仏御前は、祇王が気の毒でならない。

清盛に願いでる。

「祇王さんをこちらへ通して、わたしには暇を出して下さい」

もちろん清盛は聞き入れない。


扱いのひどさに、悔しいやら情けないやらで祇王が涙をふいていると、清盛が現れた。

「 まず今様をひとつ歌うて、仏御前を慰めよ」

祇王は、何があっても逆らうまいとの覚悟でやってきた。


無念の涙をこらえながら歌った今様。

 仏も昔は凡夫なり  われらも終(つひ)には仏なり

 いずれも仏性具せる身を  隔つるのみこそ悲しけれ

(お釈迦様も昔は普通の人でした。私たちも悟りを開けば仏様になれる身。いずれ(仏御前と私)も、仏様になれる本性をそなえた人なのに、私だけが差別されるのは悲しいことです)


祇王は、後白河法皇撰『梁塵秘抄』に収められている、

 仏も昔は人なりき 我等も終には仏なり
                      
 三身仏性具せる身と 知らざりけるこそあはれなれ

という仏教歌謡の末二句を替えた。


哀切な歌声に、居並ぶ公達はみんな感涙にむせんだ。

清盛だけは、祇王の心情に無頓着、

「よく歌うた。つぎは舞いも見よう。時々来て仏を慰めよ」
 

祇王はさすがに返事もできず、涙とともに屋敷を飛び出した。



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$吉備路残照△古代ロマン-祇王寺の門 祇王寺の門 京都嵯峨野


あまりの屈辱に、祇王はしばらく返事をしないでいた。

すると清盛から、「なぜ来ない。来ないなら、こちらにも考えがある」

横暴な権力者の、脅しのような催促である。


さすがに母の刀自がみかねて、

「清盛公に、返事だけでもしなさい」

祇王はかぶりを振って、

「行くつもりなら返事をします。行くつもりがないのです。捨てられた身が、どうして今さら清盛様にお目にかかれましょう」


「都に住むからには、清盛公のご命令には背けないよ」

さとす刀自に、祇王は、

「考えがあると仰るからには、都から追い出されるか命を召されるかでしょう」

そして、覚悟したかのように、

「都から追放されても構いません、命など惜しくはありません」


「お前と祇女は若いから、田舎暮らしもできよう。年老いた私は、野辺の暮らしを思うだけでつらくなる。親孝行とおもって、どうか都に住まわせておくれ」

母親にここまで言われたら、もはや逆らえない。


祇王はやはり心細く、祇女とふたりの白拍子をともなって清盛の屋敷に出かけた。

このときの祇王の胸のうちを、『平家物語』はこう記す。

「泣く泣く又出立ける心のうちこそむざん(むごい)なれ」


それにしても、自分が都を離れたくないから祇王につらい思いを強いる刀自の本意は、どこにあったのだろうか。

考えようによっては、娘の気持ちを顧みないひどく身勝手な母親である。



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$吉備路残照△古代ロマン-祇王の歌碑 祇王の歌碑 若一(にゃくいち)神社 京都


いつか、捨てられるときが来るのではないか。

祇王は、遊び女の習いとして、心の中でひそかに恐れてはいたものの、なんの予兆もなく、しかもこんな形で、突然、その時がやって来るとは。

つゆ想像していなかった。


それも、ついさっきのことである。

目通りさえ許されないままに追い返されようとした同じ白拍子の仏に情けをかけて、清盛に引き合わせたのは。

その温情ゆえに、清盛の寵愛を若い仏に奪われてしまった。


その遣る瀬ない恨みつらみは、いつまでも祇王の心をさいなみ続ける。

家に帰りつくと、そのまま倒れこんでしまった。

母親の刀自や妹の祇女が、何を語りかけても、ただただ泣き伏すばかり。

言葉を発する気力すらない。


清盛から刀自に送られていた毎月の仕送りも止められ、生活が困窮していった。

他方、仏御前に縁の者は目に見えて裕福になってゆく。


祇王が清盛の屋敷を出されたと聞きつけた男たちは、さっそく手紙や使者をよこす。

白拍子である祇王には仕事がはいったのだが、さすがに気が進まない。

来る日もくる日も、涙にくれるばかりだった。


明くる年の春、清盛からの使者がやってきた。

「参って歌うなり舞うなりして、仏御前の所在なさを慰めよ」

歌や舞いを披露して、退屈している仏御前を慰めろという。


何と無慈悲で無神経な言い草だろうか。



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