アメコミにサーペントソサエティという爬虫類系ヴィランのグループがあるそうです。
で、自キャラもトカゲ系が多いなぁと思い、書き出してみたついでにSSも書いてみました。
不毛な話し合い。トカゲだけに。


 サーペント・ソサエティ


「この多次元宇宙に存在する、地球でいうところの爬虫類を原型とした皆さんに集まってもらいました」
 その名もサーペントソサエティです、とちょっと誇らしげに単眼を細めたのは、紫色のトカゲ、ゾゾ・ゼゼである。やたらと大きな円卓に付いている面々を見回し、満足げに頷いた。
「その理由について明言してくれんか。不可解にして不愉快極まりない」
 分厚い古書を読みつつ吐き捨てたのは、半竜半人の女、フィフィリアンヌ・ドラグーンである。
「確かにねぇ。どう反応すればいいやら」
 姉さんと会えたのはちょっと嬉しいけどさ、と付け加えたのは、青竜族と緑竜族の合いの子の青年、キース・ドラグーンである。
「ここは一体どこなのでしょうか……? 大御婆様がいらっしゃるので、大丈夫なのでしょうけど……」
 不安げに縮こまっているのは、竜族の末裔の少女、フィリオラ・ストレインである。
「古い知り合いばかりで嬉しいものだね」
 同族達を見回して笑みを浮かべたのは、黒竜族の医師、ファイド・ドラグリクである。
「あれは竜族ではない、竜族だと認めてなるものか!」
 語気を荒げながら魔法を放とうとしたのは、黒竜族の将軍、ガルム・ドラグリクである。
「単眼で紫色で翼のない竜族はいない、だから別の種族だ、いちいち構うな!」
 ガルムの無遠慮な魔法を無効化させたのは、白竜族の騎士、エドワード・ドラゴニアである。
「恐れ多いです、私のような者がこのような席に……」
 エドワードの影に隠れてびくついているのは、白竜族の少女、リーザ・ドラゴニアである。
「どうでもいいけど、早く帰らせてくれる? かったるいんだけど」
 円卓に足を乗せて爪をいじっているのは、緑竜族の守護魔導師、アンジェリーナ・ドラグーンである。
「我も戻らねばならぬ。在るべき地へ」
 巨大かつ長い体を渦巻かせて円卓を取り囲んでいるのは、古い水神、叢雲である。
〈そうだとも。我は彼の地で果たさねばならぬことがあるが故〉
 叢雲と顔を突き合わせているのは、龍に似た外見の怪獣、水脈怪獣ムラクモである。
「んで、これからどうすりゃいいんだ。なあゾゾ」
 遥かな高みからゾゾ・ゼゼを見下ろして単眼を瞬かせたのは、首長竜に似た宇宙怪獣戦艦、ワン・ダ・バである。
「どうもこうもあるか。馬鹿げた集まりをさっさと終わらせろ、ワン」
 口角を歪めて牙を覗かせているのは、ゾゾによく似た単眼のトカゲ、ゼン・ゼゼである。
「あらまあ。私のような身なりの方が、こんなにも大勢いらっしゃいますのね。うふふ、なんだか嬉しゅうございますわ」
 一同を見渡して朗らかに微笑んでいるのは、黒い包帯と着物を身に着けた竜人の娘、滝ノ沢翠である。
「何が嬉しいのさ。この素晴らしくも美しい僕と比較してやることさえおこがましい、劣等種ばかりじゃないか」
 腹立たしげに毒吐いたのは、下半身がヘビと化している青年、羽部鏡一である。
「視野の狭いヘビ男だねぇん。彼らの素性はさすがの俺でもちょおっと解らないけども、関わりを持っていて損になるってことはないのよね。世界征服を企む悪の秘密結社の一員だもの、あらゆる方向に繋がりを作っておくべきだからねぇん」
 両目を互い違いに動かして円卓に付いた者達を観察しているのは、カメレオン怪人、カメリーである。
「任務に支障を来す可能性が極めて高い。俺は戦線へと復帰する」
 セラミック製の義眼を動かして警戒しているのは、尻尾の代わりに三本目の足が生えている紫色のトカゲ、ゲオルグ・ラ・ケル・タである。
「それで、今日は何のお話をいたしましょう?」
 やけに嬉しそうなゾゾは尻尾を左右に振りつつ、小首を傾げる。
「皆さん、脱皮の時はどうなさるのかしら? 私、ずっと一人で暮らしておりましたから、自分のやり方が正しいのかどうかが少しばかり不安なのですわ。それと、冬場は思い切って冬眠すべきなのでしょうか? 私は厳密に言えば人間なのですけれど、体の作りは見ての通りのトカゲですので、体質もトカゲなのですわ。ですから、ハエや虫を食べるべきなのかしら、とも悩んだことがありましてよ」
 恥ずかしげに袖口で顔を隠した翠に、フィリオラはちょっと泣きそうな顔になり、翠に駆け寄って手を取った。
「そおですよね! ですよねっ! 私もほとんど人間で、大御婆様の血が出たから先祖返りして竜族みたいな力がありますけど、人間ではあるんですよ! ですから、その辺のことを悩んじゃいますよね! でも、虫は食べませんよ、さすがに!」
「昆虫はなかなか旨いぞ。甲虫は歯応えがある」
「姉さん、それは冗談だろ? 僕はそんなの食べたこともないよ」
「小型の節足動物は戦闘糧食としては最適だ」
 フィフィリアンヌとキースの言葉に割り込んだのは、ゲオルグだった。
「ところで羽部さんって、どこまでがヘビでどこからが人間なんですか? 足は残っているんですか? 背骨と骨盤はどうなっているんですか? 少しでいいから調べさせてくださいよ、ちょっとだけ、先っぽだけですから! 知的好奇心を満たしたいだけなんです、科学者として!」
 尻尾を振り上げて羽部ににじり寄ってきたゾゾは、赤い単眼を見開いている。羽部は後退り、距離を取る。
「なんだよ、その古臭いナンパみたいな文句は!」
「竜と言えば、飛龍という名のロボットと岩龍という名の人型重機がいるようだ。そいつらもサーペント・ソサエティに加えるべきか?」
 多次元宇宙を見透かして観測した情報を述べたワン・ダ・バに、ゼンは手を横に振る。
「構うな。ややこしくなるだけだ」
「どうする」
〈どうもこうもせぬ〉
 叢雲とムラクモは密やかに語り合い、体温の低い肉体をウロコの付いた肌で包んでいる者達を見守った。
 こうして。サーペント・ソサエティの発足と同時に行われた会合は、ぐだぐだに終わった。