『使命と運命』(美沙鈴シリーズ㉘)ショートショート31 | 安浪蘭人には“愛”があるーArrow Land is “LOVE”.ー

安浪蘭人には“愛”があるーArrow Land is “LOVE”.ー

安浪蘭人(あろうらんど)です。人間ですが、作家、コピーライターもやってます。気ままにやりたいように生きられる幸せを噛み締めています。あなたに伝えたいコトは“ありがとう”!。これからも遊びに来てくださいね(^o^)v❣️

今夜も…、お逢いできて嬉しいです!

前回の『仕事』はいかがだったでしょ
うか?

「仕える事」と「天職」の関係は、自
分が常に考えて来たパラダイムです。

愛ちゃんがさらに突っ込んだ質問をす
るのが、今回の『使命と運命』です。

では、お楽しみください(^o^)。





カランカラン。カウベルの音。

ドアを入ると、カウンターから愛ちゃんが出て来て、おしぼりを渡しながら
席に案内してくれた。俺のカウンターの指定席だ。

「私も今日からママを見習って、スーさんには『お帰りなさい』って言って
もいいでしょうか?」

俺は、愛ちゃんの顔を見て、

「うん。いいよ。でもどうして?」

と訊くと、愛ちゃんはキリッとした目元をゆるめて、微笑むと、

「スーさんにとって、ここが居場所の1つだってわかったからです。この間
の話を聞いて、スーさんはこの店を居場所だと思ってくれてるってママに言
ったら叱られちゃいました。『スーさんにとっての居場所の一つだ』って。
家庭も仕事場もお客さんの所も、きっとスーさんには全部が居場所だろうっ
て…。でも、ウチの店も居場所の1つだと思ってくれてるんだから、嬉しい
でしょう?って。そう思ったら、スーさんを迎えるこのお店は、私にとって
も居場所だな、って思ったんです。自分の居場所だって思ったら、スーさん
が来てくれた時には、『お帰りなさい』が自然なように思えて…。私は居場
所って、空間とかスペースだと思ってたのに、ママやスーさんが居るこの店
って、確かに私にとっても居場所なような気がしたもんだから…」

そう言って、飲み物を作ってくれた。1杯目のハーパーのロック。少し薄め
に作った吉四六のウーロン割。今日は自分のいろはすの桃を用意していた。

「ママに、スーさんのお酒が少なくなって来たら、必ず在庫をチェックする
ように言われました。それから、女の子用のカナディアン・クラブも。ボト
ルを入れますか?って訊いたら必ず入れてくれるお客さんは、とても大切な
のよ、って。仕入れをする酒屋さんの準備も、レギュラーになってる銘柄を
中心に揃えてくれるようになるから、って。大学には行かなかったけど、商
品仕入れや在庫管理の勉強は出来るんだから…って、最近、スナック経営っ
て何をしているのか、ママの経営哲学を教えてもらってるんです。自分の居
場所がどうやって仕事を進めてるのか、知ってた方が素敵でしょう?」

長い髪を後ろにやりながら、嬉しそうに微笑む。思わず、

「愛ちゃんは、間違いなくイイ女になるね。頭もいいし、好奇心が旺盛だ」

そう言って、ロックグラスを傾ける。すると、久々にテーブル席に座ってい
た松ちゃんが、俺の隣に来て、

「頭が良くて、好奇心が旺盛だと、いいオンナになるのは何故ですか?」

と訊いて来た。俺は、タバコに火を点けようとすると、美沙さんが

「ちょっと待って!」

と言って、美沙さん曰く

「スーさんのハーパーのボトルに似てたから」

と言って買って来たスワロフスキーでデコレーションしたジッポーのライタ
ーを持ってキッチンから顔を出して、俺のキャプテンブラックのチェリーに
火を点けてくれた。

「頭のいいオンナは感じやすいし、好奇心旺盛だとなんだって有りだから」

と言ったら、美沙さんが、

「スーさんてそういうコトを言う時、凄くエロいよね?嫌いな人に言われた
ら、間違いなくセクハラになりそうなコトを平気で言うんだから…」

と言って、ちょっと艶っぽく微笑んだ。松ちゃんが、

「えっ?そうかなあ…。僕にはあんまりエロく聴こえないけど…」

と言って、自分の席に居たナオちゃんをカウンターに呼んだ。美沙さんは

「頭のいいオンナは感じやすい、って断定したでしょう?これ、スーさんの
前で思いっきり乱れたって、頭がいいんだね、って思われるだけだから恥ず
かしくなく感じられるようになっちゃうってコトでしょう?好奇心旺盛だと
なんだって有りって、えっちの時、女って最初は自分が感じるコトをオープ
ンにしにくいでしょう?だから、男のしてくれるコトに合わせるだけで欲求
不満になる子も多い訳だけど、なんだって有り、って先に言われたら自分が
して欲しいコトを言いやすいよね?どっちも、超エロい想像をさせるじゃな
い?」

と言って、少し上気したような表情になった。松ちゃんは、

「えーっ!オンナって、そんなふうに考えるの?そう聞くと、凄くエロく聞
こえるねー。ナオもそんなふうに思うの?」

と言って、ニヤニヤした顔でナオちゃんの顔を見ている。

「うん。そんなにちゃんと言葉に出来ないけど、感覚としてはスーさんの前
では乱れても恥ずかしくないんだ…とは思ったなあ」

それを聞いて、松ちゃんは、

「師匠はそういう細かく感じるところで、僕達にスゴイ差をつける運命を持
ってるんですかねー?」

というと、頭を掻いた。それを見て、愛ちゃんが、

「もしそんな運命を持ってるんだとしたら、それは変えられない訳だから、
女性はみんなスーさんに取られちゃいますよ!」

と言った。俺は、

「いや、運命なら変えられるよ。運命は『運ばれて来る命』だから、自分で
変えることも出来るんだ。変えられないのは『使命』だよ。自分の命を使わ
なければならないんだから…」

そう言って、また、タバコを持つと、美沙さんが、

「カラダにはご自愛くださいね」

と言って、火を点けてくれた。俺は、

「以前は、タバコを吸う度に文句を言うカミさんがうるさいと思ったもんだ
けど、最近は文句を言う度に『ありがとう』って笑顔で答えるようにしたら
『本当に心配してるんだからね…』とか、可愛いコトを言ってくれるんだ。
ただうるさくしてるだけじゃないんだよね、言葉として出て来るモノって」

そう言うと、カウンターの中で首を傾げていた愛ちゃんが、

「『運命』って変えられるんですか?ほんと?使命が変えられないモノなの
?今まで思ってたのと逆だなあ…。使命は自分の解釈で変えることが出来る
けど、運命は変えられないと思ってました…」

と言って、美沙さんの顔を見た。美沙さんは、

「わかんなかったら、スーさんに訊いてみたらいいじゃない?言葉として出
て来るモノって、ただ言うだけじゃないみたいだから…。きっとその言葉に
思いが宿ってるってコトだろうから…」

と言って、俺の顔を見た。俺は、少し考えながら、

「『運命』は運ばれて来る命ってコトでしょう?命って定めのコトだと思う
んだ。だから、運命が気に入らなかったら、気に入るような定めが来るよう
に頑張れば変わると思うんだ。でも『使命』って、自分が命を使うモノって
決められてて、それに気付いた時点で『使命』として現れるもんだと思う。
命を使う定めのモノ。だから選べないんじゃないのかなあ…。俺はズーッと
そう思って来た。だから、その人にとっての天職もある、と思ってて、天に
仕えるような『天職』を『仕事』として見つけるコトが、その人の使命だと
思ってる。そこで、この間、愛ちゃんが言ってたコトにもつながるんだけど
稼ぐために働くコトを仕事って言わなくてもいいと思っているって言ったじ
ゃん?例えば、或る女性が或る男性との間に子供をもうけるコトが、その女
性の使命だったとすると、それで稼げる訳ではないじゃない?でも、それが
使命だった場合、いずれ、その子が人類を救うような発明や発見をするかも
知れないよね?だから、稼ぐコトが仕事だって言う定義だとおかしいような
気がするんだ。その女性にとっては、その子供を産むコトが使命であり、1
番の仕事かも知れないでしょう?」

と言った。愛ちゃんは、しばらく考えていた。そして、

「なるほど…。『仕事』と『天職』、『運命』と『使命』がそれぞれセット
になってて、変えられないモノを見つけた時点で、使命や天職と出逢うって
コトなんですか…。もっと簡単に考えてたけど、反論するのも難しそうだか
ら、きっと合ってるんでしょうね?そういうコトって、いつ考えるんですか
?」

そう言って、グラスの中の液体をゴクゴク喉を鳴らして飲んだ。俺は、

「いつ考えるんだろう…。たぶん、そういうコトを考える必要がある時は、
今でも考えるよ。正解があるとも思ってないから…。自分がその時点で納得
出来る答えを、いつも探してる感じかなあ…。今のところ、さっき言った内
容で自分的には納得できてるから、今はその考えだけど、もっとストンと腑
に落ちる考え方を見つけたら、その考え方に変わると思う。」

そう言って、グラスのウィスキーをゴクッと飲んだ。美沙さんがまた、水割
を作ってくれる。「私も一杯いただいていい?」と珍しくハーパーを選んだ。

「あ、珍しいね。焼酎じゃないなんて、しばらくぶりな気がする…」

と言うと、美沙さんは、

「最近、愛にお店のコトをいろいろ教え始めたのね?そうしたら、いつも焼
酎を飲んでるだけだとお酒の違いを教えるのが難しいコトがわかって来たん
だあ。ウィスキーを飲んだ後にはどんな気分になるのか?とか、今はお酒を
飲めない人に伝えるのって、自分の感覚で伝えるしかないじゃない?だから
スーさんが飲んでるモノにあやかれば、もう少し伝えるのが上手になるんじ
ゃないか?と思って…」

と 可愛いコトを言っている。松ちゃんが、

「あ、それ、なんかわかるなあ…。僕もスーさんのボトルって飲みたくなる
んですよ。だから、ふだんは飲まないCCなんか、飲んでみたくなったり…
ね?そういう感じでしょう?」

と言って、人の顔を見るので、CCを出してあげて、と愛ちゃんに頼んだ。

「ナオちゃんもCCが好きなんだよね?じゃあ、どうぞ」

と言うと、美沙さんがグラスを持って来て、愛ちゃんが

「ロックと水割、どっちにします?」

と訊くと、

「今夜は水割で、お願いします」

と答えた。愛ちゃんが、ぼそっと喋り始めた。

「スーさんはどうしてみんなにお酒を飲ませるのか、不思議だったんです。
みんな、自分の分を維持するので大変なのに、スーさんはその時にお店に居
る人は何が好きか?とか、その時に飲みたいっていうモノをすぐに飲ませて
あげるでしょう?その分のお金はスーさんが出している。でも、儲かるのは
お店とそれをもらったスタッフとかお客さんで、スーさんは損をするって思
ってたんです。そう思うコトが違うんですね、きっと。そこにいる人たちと
豊かな気持ちで時間を過ごすために、その『今、飲みたい一杯』はプレゼン
トする代わりに、言いたいコトを言える時間もプレゼントしてる気がして来
ました。スーさんはそれを訊くのが楽しみなんだと思います。本音だから、
その人の背景が出ちゃう、って言うのかなあ…、そんな感じを受けます」

それを聞いた美沙さんが、少しだけ修正した。

「スーさんはお酒だけを飲ませてる訳じゃないでしょう?愛のいろはすだっ
てあるし…。ウチの女の子が酔って気持ち悪い時には『トマトジュースが飲
みたい』って聞いて、トマトジュースだけを飲ませてくれたり、お酒に限ら
ないのよ。スーさんの席にだけ出る水もあるのよ。ほら…」

と言って、コントレックスを奥の冷蔵庫から持って来た。

「これは、スーさんのお友達が病気になってね。彼が今、飲んでる水がこれ
だって聞いて、ここにも、スーさんの自宅にも、用意するようになったのよ
ね?」

美沙さんはそう言うと、とても優しい笑顔を見せた。俺は、

「うん。そうだね。美沙さんや、ウチのカミさんや、みんなにお世話になっ
てる。水が古くならないように1か月経つ前に変えてもらってるんだ。その
友達とは、俺の会社が軌道に乗るまで、毎晩飲み歩いてた。それなのにヤツ
は腎臓を壊して、1日に1リットルくらいしか水分を取れない体になっちま
った。だから、一緒に過ごす可能性のある場所には、アイツがペットボトル
を飲み切っても用意しておいてやりたくてね。ただ、それを維持するのは、
そこにいる人たちの思いやりと費用が掛かるだろう?1か月に1回くらいし
か来られないヤツのために、いつも新しい水を用意してくれる場所って、や
っぱり大切な場所になって行くんだよ。だから、もうすぐ変えるよっていう
印に、変える前には水割の水をそれにしてもらってる。ウチでは、箱買いし
てたんだけど、そんなにたくさん飲めない訳だから、毎週2本ずつ買うよう
にした。どんなコトでも、システムを維持するためには工夫が要る。それを
実現して行くには仲間の協力が必要なんだ」

そう言って、グラスを傾けた。ハーパーは本当に美味しい。愛ちゃんが、

「それで、たまにセットの水がいつもと違う日があるんですね?この紫っぽ
い色のラベルの水はどうしてスーさんの席にだけ出るコトがあるんだろう?
って不思議だったんですけど…。納得しました」

そう言って、俺の顔を見て微笑んだ。俺は、ゆっくりと話し始めた。

「1日に飲める水分が1リットルとちょっとって、かなり少ないんだ。普段
の俺で3~4リットルは飲んでる。コーヒーやビールや水とかお茶とか料理
まで含めたら、5リットル以上だよ。俺はその他に酒も飲む。でも、ヤツは
もうそんなに飲めるコトはないだろう。仮に腎臓を移植出来たとすれば、元
のような生活を取り戻せるだろうが、その時には臓器の適応性を高めるため
に免疫抑制剤という薬を飲まないと行けないから、風邪を引きやすくなった
り、病気に弱くなったりする可能性が高い。アイツに今、何が出来たら1番
嬉しい?って訊いたんだ。そしたら、飲みたいモノが飲めるようになるコト
!って間髪を入れずに答えた。だから、飲みたいモノがある人には飲みたい
モノを飲ませてあげたいって思うようになったんだ」

そう言うと、美沙さんがその話の後を受けて、話し始めた。

「私も最初はスーさんがどこまで本気で人に好きなモノを飲ませてあげたい
と思ってるのかがわからなかったから、無理を言わないようにしてたの。で
も、どうやら本気だなあ…と思ったのが、この店でキープするボトルはハー
パーの17年モノがいいなあ…って言い始めた頃からだったと思う。その頃か
ら回りの人が飲みたいモノをどんどん振る舞うようになって行った。それで
私も焼酎の甲類より乙類の方が好きだし、トライアングルより吉四六の方が
美味しいなあ、と思ってたから、言ってみたら、いつも吉四六を入れてくれ
るようになった。少しずつだけど、スーさんの思いをいつも見ててだんだん
わかるようになって来たと思うわ」

そう言うと、

「次は吉四六もらっていい?」

と空になったハーパーのグラスを流しに出した。そして、吉四六をコントレ
ックスで割って、俺のグラスと合わせた。この店のいろんな所に俺の大切な
思いが実現されている。美沙さんが吉四六を飲む横顔を見ていると、

「美沙鈴が大切な居場所の1つだっていうのが、よくわかって来ました。言
葉になるコトが全てだと思っちゃダメなんですね…。うーん、ちょっと違う
なあ…。その時、言葉で聞いたコトが全てだと思っちゃダメなんだなあ…。
そういうお水の話だとか、その時点ではお話に出て来なかった話も同時に存
在してるんですよね?全部含めて御本人達の思いが出来上がって行く…」

愛ちゃんがまとめる。愛ちゃんのまとめ方は、すごく味があって好きだなあ
…と思って聞いていた。愛ちゃんが、

「そんなあ…」

と言って、照れている。松ちゃんが、

「誰も何も言っていないのに、何を照れてるんだ?愛ちゃんは…」

と言ったら、ナオちゃんが、

「言葉だけを追いかけているようじゃ、松ちゃんもいいオトコにはなれない
ぞ!。今、愛ちゃんが言ったでしょう?言葉になるコトだけが全てじゃない
って…。表情とか、言葉にはしない思い…、とか、いろんなモノで感情も伝
わるのよ」

そう言って、俺の顔を覗き込む。美沙さんが笑っている。愛ちゃんも俺を見
ている…。あれ?俺…?。

「愛ちゃんが照れてる理由って…、俺?」

と訊くと、愛ちゃんが、

「イヤだなあ…。とぼけて…。好きなら好きって言ってもイイですよ!」

と満面の笑みを浮かべている。美沙さんが、吹き出しながら言う。

「スーさんは愛情が湧き出し過ぎてるのかもねえ…。今のは女の子を自惚れ
させるのには充分な表情だったと思うわよ。でも、愛の自惚れも相当よねー
!あははは」

それを聞いて、俺は、女性陣3人に、俺の表情が何て言ってたように感じた
のかを訊いてみた。まずは愛ちゃんから。その前に、美沙さんの提案で、俺
が思ったままを何かに書いておいて、と言われたので、歌のリクエスト用紙
の裏に、「愛ちゃんのまとめ方は、すごく味があって好きだなあ…」と書い
た。その紙を松ちゃんに渡して、と美沙さんに言われて、そうした。松ちゃ
んが胸ポケットに紙を入れると、美沙さんは、じゃあ愛から、と言った。

「ああ、愛ちゃんのコト、味があって好きだなあ…って、表情だと思いまし
た」

次はナオちゃん。

「すごく好意的な表情だと思いましたが、具体的な言葉を当てて考えてはい
ませんでした」

最後は美沙さん。

「愛のまとめ方って頭がいいから上手だなあ…とか、そういうまとめ方が出
来て素敵だね、とか、きっとそういう思いだったんだと思う。じゃあ、松ち
ゃん、胸の紙を読んでみて!」

そう言われて、松ちゃんは紙を出して読んだ。

「…愛ちゃんのまとめ方は、すごく味があって好きだなあ…、と書いてあり
ます。1番近いのはママ。後の2人は、感情的に愛ちゃんに好意を持ってい
るイメージだったけど、ママだけは愛ちゃんのまとめる能力に師匠の気持ち
を集約して言葉にしてると思うから。人格なのか、能力なのかが大きな差だ
と思います」

と言った。俺は、松ちゃんの分析力を高く評価した。

「それぞれの表情を読む力や表現力もスゴイなあ…と思ったけど、最後の松
ちゃんの分析力は秀逸だったねー。こういう時間がとても好きだなあ」

と言ったら、松ちゃんがかなり真面目な顔で俺に訊いた。

「こういう時間がそれぞれの人柄がわかるから好きなんですか?それとも能
力がわかるから好きなんですか?」

この質問は、奥が深いと思った。俺が人の人柄を見てるのか、能力を見てい
るのか、を今、思っている通りに答えると誤解を生む可能性がある。どうや
って、真実を伝えようか…、と迷っていると、愛ちゃんが言った。

「今は能力について見ていたけど、いつも能力を見ている訳じゃないよ、っ
て言いたい顔をしてますよね?」

俺は驚いた。もしかしたら、愛ちゃんはリーディングの能力を持っているん
じゃないのか?俺の思っているコトが全部わかっているんじゃないのか?さ
っきだって、「まとめ方」って言う部分を言わなかったけど俺の思った言葉
とほとんど同じ表現を使った。今に至っては、俺が言葉に出来なかった本音
をそのまま1番短い言葉で表現したのだ。

「俺が考えている以上に簡潔に、俺の思っているコトを表現した!って言い
たそうな顔をしてるわね。うふふ」

今度は、美沙さんが言った。おいおい、この店はみんなエスパーか?どうし
てみんな俺の心の中がわかるんだ?

「おいおい、みんなこの店のスタッフは超能力者か?っていう顔ですね。本
当にわかりやすいんだから…」

あれ?ナオちゃんにまで言われた。というコトは、俺がサトラレ?

「師匠は感情表現がまず顔に出るから、回りに居る人はわかりやすいんだな
あ。愛される人って、わかりやすいのも要件の1つかも知れませんね?」

松ちゃんにもわかりやすいのか…。もう少し、感情を抑える練習をしないと
底が浅い奴だと思われるかも知れないなあ…。気を付けないとなあ…。

「大丈夫ですよ。わかりやすさもスーさんの魅力の一つですから…」

と 愛ちゃんが笑っている。その隣で美沙さんも笑っている。俺の隣の松ち
ゃんも、その隣のナオちゃんも笑っている。でも、俺だけは笑う気分ではな
かった。みんなが超能力者のように思えていたのだから。すると、美沙さん
が言った。

「今、愛が何を考えているか、言ってみて。あ、愛、そこの紙に今、思って
いるコトを書いておいて。…そう、いいわね?はい、スーさん、どうぞ」

俺は、愛ちゃんの顔を見て、少し考えてから、言った。

「今、私にはこういう居場所があって幸せだなあ…、かな?」

愛ちゃんは自分で書いた紙を、松ちゃんに渡した。松ちゃんは、紙を見ると
笑い出した。俺は、その紙を覗き込んだ。紙には、こう書いてあった。

「今、私にはこういう居場所があって幸せだなあ…って、私の気持ちを当て
て言ってくれると思います」

俺は愛ちゃんが少し怖く感じたが、美沙さんはいつもの感じで笑っている。

「ほう。猜疑心て、悪い方向にしか働かないのね。きっと、愛はスーさんの
コトを信じ切ってその紙を書いたと思う。でもスーさんは、愛には人の心を
読む力があって、先にスーさんの気持ちを読んで、何て言うかを書いた、と
思ったんじゃないの?愛の表情は、『やっぱり気持ちはつながってる』って
いう喜びの顔だったけど、スーさんの顔はギョッとしたような顔だった」

俺は、美沙さんに言った。

「愛ちゃんは本当に超能力者じゃないの?だって、ピッタリ同じ言葉になる
なんて、普通じゃないよね?」

ところが、美沙さんは意外なコトを言った。

「きっと、今、スーさんと愛が恋愛中だったら、スーさんも心が伝わってる
って喜んだと思うの」

俺は言った。

「1番最初の表現なんて、味があってっていう所まで当たってたんだよ!」

美沙さんは笑った。愛ちゃんも笑っている。松ちゃんも笑いながら、

「師匠は、いろんな人のいろんな才能を褒める時に、『う~ん、味があるね
~』ってよく言うんですよ。きっと、愛ちゃんは、師匠ならこういう言葉で
考えるだろうって思ったんじゃないかなあ~」

俺は、少し驚いて言った。

「えっ?それ、俺の口癖なの?味があるねーなんて言ってる?」

と訊くと、美沙さんを始め、みんなが頷いている。なーんだ。わかってみる
と、意外なほど簡単なコトだった。俺が考えそうなコトに俺の口癖の言葉を
組み合わせて表現していただけだったのか…。クセは、自分ではわからない
モノだ。

それで納得して、みんなの顔を改めて見てみると、愛ちゃんの顔が少し曇っ
ている…。あれ?どうしたんだろう…。

「愛ちゃん、どうしたの?」

俺が訊くと、敵(かたき)を取られてしまった。

「私が今、どう思っているのか、スーさんの言葉にしてください」

俺は、愛ちゃんの顔を見ながら、答えた。

「せっかくどう思っているのかの言葉がピッタリ合ったのに、喜ぶんじゃな
くて、恐がられちゃった。そんなに私のコト嫌い?、って感じかなあ…」

愛ちゃんは泣き出した。

「えっ?そんなに違ってたの?ごめんごめん。頼むから泣かないでよ」

と言うと美沙さんが愛ちゃんにカウンターの下で渡されていた紙を読んだ。

「言葉はピッタリ合ってるのに、恐がられちゃった。私のコト、そんなに嫌
い?、って書いてあるわよ、スーさん」

俺はそれを聞いて、愛ちゃんに言った。

「愛ちゃん、今のは俺も嬉しかった。でもさ、泣かないでよ。笑ってよ。俺
ももう恐くないから。俺も素直に嬉しいから…」

愛ちゃんは、さっきより激しく泣き始めた。美沙さんは大笑いすると、

「スーさんは、若い女の子の気持ちをもう少し勉強した方がいいわねー。私
も若い頃はスーさんの一言で泣いた口だからわかるんだけど、スーさんは根
がいい人だから、グサッと来る言葉を言っちゃうんだなあ…」

と言った。根がいい人だからグサッと来る言葉を言う、ってなぜ?

「俺はもう恐くないから、は要らないのよ、スーさん。俺も素直に嬉しい…
とだけ言えばOKでしょ?」

美沙さんに言われて、一言多かったコトにやっと気付いた。そうだなあ…。
全くその通りだと思った。少し泣きじゃくりながら、愛ちゃんが、

「スーさんが、ヒクッ、本音では私を恐いと思ったんだってハッキリわかっ
たら、ヒクッ、何だか悲しくなっちゃって…、わーん」

若い女の子の気持ちをもう少し考えておくようにしよう、と思った。今日は
あまりにも思っているコトと俺と愛ちゃんの言葉がピッタリ合い過ぎだ。

「愛ちゃんは、本当に俺のコトが好きなんだね、という言葉で笑ってあげて
たら、愛ちゃんは幸せな気持ちで居られたのに…、ね」

と、ナオちゃんが言った。

「そうだねー。今日はあまりにもピッタリな表現ばかりで、俺にそんな余裕
がなくなったのが、悲しい思いをさせちゃった原因だね?本当にごめんね、
愛ちゃん…」

そう言うと、愛ちゃんは泣き止むと同時にニヤッとして、

「私のコトをそうやって気にする運命なのと、私のコトを気にするのが使命
なのと、どっちがいいですか?」

と訊いて来たので、間髪を入れずに

「運命!」

と答えて、苦笑いされた。

「そういう時は嘘でも使命って言ってよ~」

という愛ちゃんは、未成年とは思えないオンナの顔をしていた。

「もう子供って言うよりオンナだね、って顔をしてますよ、師匠!」

そう言って笑う松ちゃん。ナオちゃんが、

「子供って言うより、未成年て言う顔だった」

と言って、美沙さんが、

「あ、私もそう思った!」

と言って、大笑いしている。愛ちゃんが、

「こんなに心が通じてるのに、人のモノだなんて…。こうやって不倫が生ま
れるんですね…」

と言ったので、美沙さんとナオちゃんが爆笑している。松ちゃんが、

「その言葉は言われたくないですよね…」

と露骨に嫌な顔をしたので、松ちゃん以外が爆笑した。美沙さんが、

「ナオちゃんは吹っ切れたの?」

と訊くと、笑いながらナオちゃんが、

「私は自分の方は恋愛自由な状況だから、気が楽なんです~」

と言ったので、みんな改めて爆笑した。





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