有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


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前回の話はこちら

 

129話はこちらから

 

 

 

「慧!」

 

 

野次馬やマスコミがごった返すレトロ街は普段の空気というものなどすっかり忘れ、あらゆる騒めきに満ちる。煙を深く吸ってしまったものの、俺自身、身体に支障をきたすことは無く、仕事を切り上げて駆け付けたナギに笑顔を見せる余裕さえあった。

 

 

「ナギ、お前…仕事は?」

「第一声がそれ?こっちは真剣に心配したんだよ!」

 

 

昨日と同じ喫茶店にナギの悲鳴に似た怒号が響くと、俺は「悪い」って頭を掻きながら隣の一平と顔を見合わせた。一平が「慧が火事に巻き込まれた」なんて大袈裟な言い方をしたせいなのだけど今は黙っておく方が吉だろう。

 

 

「それで、甲斐ハルと零さんは?」

「2人とも無事。甲斐ハルは零さんが助け出したからな」

「まっさかぁー!嘘でしょ?嘘…だよね?」

 

 

笑い飛ばした表情が真顔になっていく様は当然と言えば当然だ。俺だって目の前でその光景を見ていなければ俄かには信じ難い話である。しかし、甲斐ハルの部屋の扉を蹴飛ばして、睡眠薬によって眠りについた彼女を火の海から救い出したのは紛れもなく息子の零だ。2人は火傷を負ったものの、命に別状は無く、今頃は病院のベッドだろう。遥も付き添っているはずだ。とはいえ、気が完全に動転した俺だ、断片的な部分でしか記憶が無いんだけどさ。

 

 

「甲斐ハルは遺書を残していた。つまり、自殺を図ったんだ」

「自殺?どうしてそんな…零さんの計画を知ってたから?」

 

「実は甲斐ハルの事業はここ数年、上手くいってなかったようなんです」

 

 

一平が調査したところによれば、ファストファッションの流行や時代に取り残されたこともあり、甲斐ハルブランドの人気は微動ながらも右肩下がり、それに加え、あのエバシンスホテルはモダンな雰囲気にこだわったのがアダになったのか、毎年、相当な赤字を叩き出しているらしい。表向きは順調そうに見えても、内部ではいつまで持つのか、常に話題の矛先となっていたのだ。

 

 

「しかも、零さんより前にゴーストをやっていた人間のインタビュー記事が明日発売の週刊誌に掲載されるらしいです。零さんがバラす必要はそもそも無かったんですよ」

「それを苦に自殺?娘も居るのに?」

「零さんと遥の画策にも気付いてたんじゃないかな、もしかしたら…それが引き金になったのかも…」

 

 

甲斐ハルの華奢な身体を担いで、零は「あんたに死なれちゃ困るんだよ」って言っていた。それがどういう意味合いを指すのか…いや、意味なんて一つとは限らない、確かなのは零の真実の言葉ってことくらいだ。

 

 

「…けど、これって良かったの?何かスッキリしないなあ」

「まだ終わったわけじゃありませんから、経過を見守りましょう」

 

 

まだ終わったわけじゃない。確かに、ここからが零にとっても遥にとっても甲斐ハルにとっても…そして、俺らにとっても本番だ。まあ、いくら日陰とはいえ、これ以上の介入はすべきじゃない、零だって本気で復讐を望んでいるわけではないだろう。遥にしても同じだ。

 

 

「慧さん、そういえば零さんから何か受け取っていませんでした?」

「えっ?ああ…これか…」

 

 

火事のせいですっかり記憶が抜けてしまったが、零からアーバンKホテルのカードキーを貰っていたんだった。とはいえ、零は病院に搬送されたわけだし、行ったところで無意味だと思うけど、ナギと一平は行くことを勧めた。

 

 

「どうせここに居たって何にもならないんだし行ってきなよ」

「そうですよ。病院には僕らが顔を出してきますので行ってらしてください」

 

 

苦々しい顔をしてコーヒーを飲み干した俺は喉のつかえを取るために、アーバンKホテルへ向かった。零は勿論、居ないだろうけど、何故俺をそんなところに呼び出したのか?カードキーを再び手に取ったとき、疑問が沸々と沸き上がったのは事実だ。

 

 

スマホを掲げた野次馬たちの輪を通り抜けて、アーバンKホテルの通りに出ると、そこは恐ろしく静かであり、俺はまるで異世界にでもさまよい込んだかのような錯覚を覚える。アーバンKホテルはビジネスホテルに少し気が生えたくらいの、エバシンスホテルとは比較にならない規模のチェーンホテルだ。勿論、支配人の出迎えなどあるわけもなく、やたらとガタイのデカい警備員が鋭い眼差しを向けるくらいだ。

 

 

8012号室の扉を特に期待もせずノックすると中から「はーい」と、やけに野太い中年男性のような声が響き、俺は飛び上がってしまいそうなほどに驚いた。

 

だが、驚くにはまだ早い。ドアが開き、顔を覗かせた男を見た途端、俺は卒倒しそうな勢いで悲鳴を上げることになったのだから…

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

 

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