有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


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前回の話はこちら

 

128話はこちらから

 

 

 

「零さん退店の話は既に顧客間にも飛び交っています。キョウコさんが心配ですね」

「大きな打撃は避けられない。せめて最小限の被害で食い止めなきゃ」

 

 

タキシードやドレス姿の男女が群れるパーティー会場に相応しくない会話だ。入り口で貰ったシャンパンの味さえよく分からぬほどに俺は「必死さ」はあれどどこか諦めに漂う部分もあった。この絶体絶命の状況下を俺ら2人だけで潜り抜けるなどあまりにも無謀だ。

 

 

「ちょっとトイレ…」と、一平に断りを入れ、充分住めるんじゃないかって思うくらいのスペースと清潔感に満ちたトイレにやって来た俺は「何やってんのかね…」なんて独り言を吐きながら洗面台で顔を洗った。零と遥を止めるために来たってのに彼らのペースにハメられて、挙げ句の果てにその目的さえ失いそうになる。

 

 

遥の話を聞くうちに俺は傾いたのだ。俺が彼らの立場なら同じ事をしたかもしれない…ってさ。正直、甲斐ハルに対する憎しみは痛いくらいに分かる、彼らだけでない、甲斐ハルは小久保真里とその夫も苦しめたのだ。

 

 

それでも…俺は日陰。甲斐ハルという悪魔の日陰。

 

 

「随分と病んだような顔だな」

「わっ!!…零さん」

 

 

鏡越しに映る見知った顔に喚き声を上げると、零は「うるさいのは相変わらずだな」なんて曇った表情をしながら俺の隣に立った。

 

 

「今までどこに居たんすか?っていうか、復讐なんて馬鹿げた真似は…」

 

驚くより先に言葉の方が立つ俺に、零は黙って顎の辺りを指でなぞりながら胸ポケットからカードキーを差し出した。

 

 

「何すか?これ…」

「パーティーが終わったらここに来い」

 

 

アーバンシティホテル8012…ここに零は宿泊しているのか?だが、どうして俺をわざわざ?それに何故、エバシンスホテルじゃなく、この近くの別のホテルに?疑問ばかりが押し寄せる中、俺は自分でも不可解な言葉を咄嗟に放った。

 

 

「零さん、甲斐ハルはあなたたちの計画を知ってるんじゃないっすか?」

「何?」

 

 

根拠とまでは言えないかもしれないが、甲斐ハルに対するいくつかの疑問符が俺の台詞を形作ったのだと思う。

 

まず、昨日から今の今まで全く電話が繋がらないという点である。

 

 

「あれだけの人です。留守電にさえ繋がらず電源が切られているのは変じゃないですか?」

「まあ、一理あるな」

 

 

そして、零をゴーストに仕立てたこともよくよく考えりゃ浅はかだ。いくら零に才能があるとはいえ、全くの赤の他人を甲斐ハルほどの権力者が…

 

 

「それに、あの録音テープ。何か不自然でした。本当なら零さんが「ゴースト」と口にした瞬間にもっと警戒しなきゃならないはずなのに、わざわざ言葉をなぞってる…」

「…それだけじゃ根拠にならない」

 

 

憮然とした零の態度に俺は彼自身にもやはり同様の疑問符が生じていることを察した。だけど、一度駆られた復讐心、留めることは不可能だったのだろう。

 

 

「それだけじゃない、母親が自分の子の顔を忘れるわけがない。例え、零さんがどれだけ顔を変えたとしても…」

「詭弁だ。そういう親だって世の中には存在する」

「かもしれません。ですが…」

 

 

俺がそう言い掛けるとまるで昨日のデジャブのように非常ベルがけたたましく鳴り響いた。まさか、石倉がまたボヤ騒ぎを?

 

 

「お前の仲間は相当な馬鹿みたいだな」

「違います」

 

 

何に対する「違います」なのかよく分からないまま廊下に出ると、確かに昨夜とは大きく違っていた。これはボヤなどではなく、本当に火事が発生していたのだ。

 

 

「支配人、火事って本当か!?」

「はい。甲斐ハル様のお部屋から出火して…どうかお2人も避難を」

 

 

衝動的に俺は甲斐ハルの部屋へと走り出した。火災報知器と人々の悲鳴を潜り抜けると、灰色に濁った煙へ辿り着き、支配人が俺の腕を必死に掴む。

 

 

「どうかお逃げください!!」

 

 

このドアの向こうには甲斐ハルが…それでも、足がすくむ情けない俺、結局行く事も退く事も出来ないまま時間だけが過ぎ去るのだった…

 

 

 

(続く)

 

 

 

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