“愛里跨(ありか)の恋愛スイッチ小説(柚子葉ちゃん編39)” | 愛里跨の恋愛スイッチ小説ブログ

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39、邪知暴虐な君主




うなぎ屋慕情を出て駐車場に向かう私達五人。
ひんやりとした空気を肌で感じながら静かになっていく街を歩く。
店を出ると杏樹さんはすぐに「行きましょう」と言って、
明義さんの腕にすがるよう引っ張り並んで歩いていく。
彼女の意外な大胆さに少し驚いたけれど、
店での会話を気にしてるのかと思い、
敢えて少し距離を取って後ろをついていった。
でもわざとそうした理由は
会計を済ませて店を出てきた萄真さんと、
柑太さんの様子が気掛かりだったのもある。
柑太さんは腕を組んで前を歩いている二人を見て、
「僕という男が居ながらなんだ」と怒っていたけれど、
そんなことなどお構いなしに彼女は先を歩いている。





杏樹 「桐生さん、ご結婚は?」
桐生 「私は独身です」
杏樹 「では、彼女がいらっしゃるとか」
桐生 「いいえ。彼女もいませんよ。
   以前はいました。
   同僚からエグゼクティブ合コンに行こうと誘われて、
   そこで知り合った公務員の女性と付き合うことになって。
   でも……
   彼女は土日祝日、年末年始もあるきっちりとした生活。
   片や、当時の私は駆け出しの警察官。
   私的なことも含めて、仕事も精神的にも余裕がなくて。
   着任二年後の希望キャリアに向けての試験もありましたから、
   デートする時間もありませんでしたしね。
   付き合って半年経った頃くらいから、
   『私のこと好きじゃないのね』
   『仕事が忙しくても連絡くらいできるでしょ』
   『そんなに離れられないなら仕事と結婚すればいい』と。
   メールや電話、久しぶりに会った時でさえ彼女に責められて、
   最終的には愛想を尽かされて、あっさりフラれました」
杏樹 「そんな。ひどいわ。
   彼女とはどのくらいお付き合いを?」
桐生 「んー。一年ちょっとかな。会ったのは数えるくらいで、
   結婚を意識するほどの深い付き合いまで至らなかったですけど」
杏樹 「一年だったら女性は結婚を意識しますものね。
   でも、桐生さんの立場や気持ちを理解しようともしないで、
   一方的に自分の気持ちを言って終わせるなんてひどいですよ」
桐生 「いや。ひどいのは私です。
   私と知り合って関わったことで、
   彼女の貴重な時間を無駄にしたんですから」
杏樹 「それは桐生さんも同じじゃないですか。
   真面目に付き合ってたのに無駄なんて、
   そんなこと絶対にないですよ」
桐生 「ふっ。その話し方。
   柚子葉さんみたいですね。流石、親友だな」
杏樹 「えっ……
   (何、この違和感)
   ゆ、柚子葉さんは、その彼女とのことを知ってます?」
桐生 「いいえ。特に聞かれることもなかったし、
   こんな話、こちらから率先して言うことでもないので」
杏樹 「でも。桐生さん自身の幸せも考えないといけません。
   私の同級生で警察官と結婚してる子もいますし、
   お互いの理解と信頼があれば問題なんて」
桐生 「私には問題ありなんです」
杏樹 「……」
桐生 「そうなれるといいですが、
   私には未だ、自由になれる時間なんてありません。
   病弱な母の看病と何かと問題を起こす面倒な兄がいるので、
   誰かと結婚なんてまだまだ考えられないです」
杏樹 「そんな悲しいことって。
   私も、おじいちゃんのことで、
   両親に愛想を尽かして家を出た身です。
   でも今はこうやって、柚子葉さんと知り合って、
   萄真さんとも会って、柑太とも付き合えました。
   自分が望めば掴める幸せはあると思います。
   桐生さんは自ら雁字搦めにして、
   人生を放棄してませんか?」
桐生 「……そうかもしれませんね」
杏樹 「本当に。仕事やご家族のことだけですか?」
桐生 「それは、どういう意味です」
杏樹 「本当は、未だに柚子葉さんのことが心に引っかかってて、
   他の女性とは考えられないからではないですか?」
桐生 「ふっ。
   馬木さんは当たりは柔らかいけれど、
   とても慧敏な方とお見受けします」
杏樹 「えっ」
桐生 「その場の雰囲気を敏く感じ取る。
   久々里さんほどの鋭さはないけれど、似たタイプの方ですね」
杏樹 「私達のこと、会った時から観察してたんですか」
桐生 「すみません。職業病だと思ってください」
杏樹 「先程、柚子葉さんと偶然会ったと仰ってましたけど、
   本当はどうなんですか。貴方の本心は」
桐生 「嘘は言ってませんよ。
   本当に偶然に会ったんです。
   うなぎ屋での私の反応を見て、
   警戒されているのかな。皆さん」
杏樹 「皆さん?」 
桐生 「馬木さんはずっと私に質問をして探ってますよね。
   それと同時に、私と柚子葉さんを話させないようにしている」
杏樹 「そ、それは……」
桐生 「久々里さんも増川さんも、
   私のことで何か、話していらしたようですし」
杏樹 「もう。全てお見通しなんですね。
   じゃあ、単刀直入にお聞きします。
   久々里さんのお兄さんから110通報を受けて、
   桐生さんもご自宅に行ったと萄真さんからお聞きしてます。
   相手は恐喝紛いのことをしてる凶悪犯でとても危険だと。
   柚子葉さんのお母さんとも絡みがあって、
   彼女のお金も巻き上げられたって」
桐生 「その通りです。恐喝や詐欺行為だけでなく、
   殺人教唆の容疑もあるカルト教団のトップです。
   とても危険な人物で、複数の前科もあります」
杏樹 「そんな危険な男なら桐生さんだけなく、
   警察全体で動いているんですよね?」
桐生 「はい。他にも被害が出ていますからね」
杏樹 「だったら。
   個人的に柚子葉さんを守るっていうのはどうなんでしょう。
   何かのリベンジだと伺っていますが、
   それはその凶悪犯とは無関係の話しですよね」
桐生 「坂野元のことは捜査中の案件なので、詳しくは言えないです。
   いくら柚子葉さんの親友でも、
   あまり深入りすると貴女にまで危険が及びます。
   久々里さんご家族のように、
   増川さんや会社の方々にまで広がる可能性があるんです。
   それに病院でのこともありますから、この件は私達にお任せください」
杏樹 「(病院?
   それこそ柚子葉さんの件とは無関係でしょ。
   もしかして……
   三葉桃奈さんと剛田貴義さんの事件も関連してるの?
   でもそれはもっと不自然。
   もう!さっきから何、この違和感。
   縫える要素が全く見つからないんだけど。
   それに……心配して当たり前じゃない。
   守りたいと思って当然じゃない。
   柚子葉さんは萄真さんにとっても柑太にとっても大切な人で、
   私にはかけがえのない同僚でたった一人の親友なの。
   もうあんな痛々しい彼女の姿を私は見たくないのよ!)」
桐生 「馬木さん、どうしました?」





彼女は言葉に詰まったように暫く黙り込んでいたけれど、
桐生さんに睨みを効かせて見上げる。
コインパーキングに着くと萄真さんは、
「車を出すからここで待ってて」と私達に言った。
杏樹さんと明義さんに視線を移すとまだ話している。
私は精算機の傍の自動販売機で、
缶コーヒーを買う柑太さんを見つめた。
後ろで萄真さんと何を話していたのか、今なら聞ける。
私が柑太さんに近寄ろうとした時、
杏樹さんが私達に聞こえる声で話し出す。   




杏樹 「桐生さん。
   貴方は誰から柚子葉さんを守ろうとしているんですか」
桐生 「……」
柚子葉「杏樹さん?」
柑太 「どうした?杏樹」
杏樹 「私達は柚子葉さんの親友です。
   恋人の萄真さんはもちろん、
   傷を負って路上に倒れていた柚子葉さんを見つけたのは、
   うちの夏梅社長で、あんなことが二度と起きないようにって、
   仕事中も社員総出で彼女を守ってます。
   柚子葉さんはこれまでたくさん傷ついて、
   いっぱい苦しんで、いっぱい泣いて……」
桐生 「馬木さん」
杏樹 「私と柑太には話さなくてもいいです。
   でも萄真さんには知る権利があると思います。
   彼女が危険に晒されているなら尚更。
   彼は貴方を信じているから今日、私達に紹介したんです。
   桐生さんがまだ柚子葉さんを愛してるって分かってても」
柚子葉「杏樹さん、何を言ってるの!?」
柑太 「杏樹!」
桐生 「……」
杏樹 「桐生さんが本当に誠実な男性で、正義感のある警察官だったら、
   柚子葉さんを今でも心から愛してるなら、正直に話して。
   誰から柚子葉さんを守ろうとしてるんですか」
桐生 「そ、それは」
杏樹 「彼女に傷を負わせた坂野元ですか?
   柚子葉さんのお母さんですか?
   それとも。
   貴方のお兄さん、剛田貴義さんですか」
桐生 「……」



明義さんは突然問い質す杏樹さんの姿に驚いている。
そして自動販売機から缶コーヒーを取り出した柑太さんも、
異常な事態に慌てて彼女に近寄った。
私はどうしていいか分からずおろおろするばかり。
けれど路上に車を停めて背後からすっとやってきた萄真さんから、
「大丈夫。心配ない」と耳元で囁かれて更に驚く。



柑太 「杏樹、いきなりどうした。
   結構飲んでたし、かなり酔ってるだろ。
   桐生さんに絡んじゃダメだろ」
杏樹 「……ごめん」
柑太 「桐生さん。
   彼女が何か失礼なことでもしましたか」
桐生 「いいえ。どちらかというと、
   私のほうが彼女に失礼なことを言ったようです」
柑太 「えっ。それはどういうことです」
萄真 「柑太、杏樹さん、いいよ。
   その話は俺と桐生さんの間でもう済んでる」
柚子葉「萄真」
杏樹 「済んでるって。
   坂野元やお母さんの件だけでなく、
   彼のお兄さんのことも。
   柚子葉さんに危険が迫ってるって、
   萄真さんは知ってるんですか」
萄真 「そうだね。詳しくは聞いてないけど、
   きっとそうだろうって思ってる」
桐生 「久々里さん」
柑太 「萄真。『きっとそうだろう』は、
   彼から聞いてないのと同じなんだよ」
萄真 「そうだな」
柑太 「じゃあ、おまえが桐生さんに聞けよ。
   杏樹に自分達のことは心配ないと言えって言う前に、
   おまえが柚子葉さんを、俺達を安心させろよ!」


納得のいかない柑太さんは矛先を変え、
桐生さんに向けられない不信感を萄真さんに叩きつけた。
けれど彼も譲らないぞと言った表情で怒りを露わにする。



萄真 「俺達と同じ目的で、同じ思いの人をどうして疑う!」
柑太 「……おまえ」
桐生 「……」
柚子葉「(萄真……)」
杏樹 「(萄真さんは全て受け入れてるの?
    恋敵なのに無条件で受け入れられるの?)」
萄真 「ここにいる全員が、柚子葉を大切に思っていて、
   守りたいっていう信念で動いてるんだろ。
   戦う相手が坂野元だけでなく、桐生さんのお兄さんでも誰でも。
   彼は職務だけでなく人として、
   男としても柚子葉を守りたいって言ってんだ」
桐生 「久々里、さん」
萄真 「愛する人を守りたいっていう純粋な気持ちをどうして咎める。
   どうして上辺だけしか見ない。見ようとしない。
   俺達がこうやって揉めることも柚子葉を傷つけるんだぞ」
  


萄真さんの深く真っ直ぐな思いを知って、彼らは無言で受け入れる。
けれど私は、有難さよりも申し訳なさが先に立つ。
想像を遥かに超えてこんなにも周囲に迷惑を掛けていることに。 




柚子葉「皆さん、ごめんなさい」
杏樹・柑太「えっ」
桐生 「柚子葉さん」
萄真 「……」
柚子葉「私って人間は、
   どこまでもみんなに迷惑を掛けてしまうんだね」
杏樹 「柚子葉さんは何も悪くないんだから、
   謝ることないのよ」
柑太 「またそうやって自分を責めるだろ」
柚子葉「だって。私はいつも……
   萄真さんに明義さん、杏樹さんに柑太さん、
   夏梅社長にC班のみんなや会社の人達、萄真さんのお兄さん夫婦にも。
   たくさんの人に心配や迷惑を掛けてるもの。
   私は何のために生きてるんだろうね」
桐生 「(貴女は今でもそうやって自分を貶めるだね。
   なんて不器用な生き方しかできないんだろう。
   でもそれが貴女で、みんな無条件に守りたくなる)」
萄真 「何のために生きているのか知りたいなら、
   みんなに迷惑や心配を掛けて申し訳ないって思うなら、
   君も戦え。柚子葉」
柚子葉「……」
萄真 「君が自分を責めて諦めてしまったら、俺達は守り切れない。
   君を傷つける人間と君自身が戦わなければ、俺達は動けないんだ。
   無理しなくていい。できる範囲でいい。
   君の傍には俺がついてるから」
柚子葉「萄真」



明義さんは感情のやり場を探すように空を仰ぎ、
漆黒に近い紺青に浸る。
そして覚悟を決めると諦めにも似た溜息を吐き、
私達を優しく見つめて真剣に話し出す。







桐生 「もう取り繕えないところまで来てしまったみたいです」
萄真 「桐生さん」
桐生 「馬木さんのご指摘の通り、
   私は今、兄からも柚子葉さんを守りたいと動いています」
杏樹 「桐生さん、本当だったんですね」
桐生 「はい。すみません。
   柚子葉さん、貴女に聞かせずに済むなら何よりだったけど、
   今のままでは久々里さんのいう通り、貴女を守り切れない」
柚子葉「明義、さん」
萄真 「何があったのか話して頂けますか」
桐生 「はい。
   母の転院を期に、父と相談して実家を売却する話になりまして、
   住宅ローンは終わっていますが、固定資産税や母の介護もあります。
   兄の給料だけでは維持も難しいのでその旨を話し合いました。
   しかしその後、先日の兄と三葉桃奈さんの件があり、
   治療した医師から創傷が不自然だと指摘されて、
   事件性がないか内密に調査しているんです。
   もちろん、当事者の三葉さんにも事情を聞いて」
萄真 「柚子葉、大丈夫か?」
柚子葉「うん。桃奈から今日聞いたの。
   自殺じゃなく、揉み合って貴義から刺されたって」
柑太 「えっ!?」
杏樹 「それ、本当なの!?」
柚子葉「うん。悲しいかな、事実」
桐生 「けれど事件後、自宅に権利書と登記簿、
   必要な書類諸々を残して兄さんは行方不明で、探しているんです」
柑太 「でも、それがどうして柚子葉さんの保護に結び付くんです?」
桐生 「兄は実家の私の部屋からあるものを見つけてしまって、
   きっと逆上しているからです」
杏樹 「逆上って。何を見つけたんですか?」
桐生 「スクラップブックです。
   学生時代、学園祭で撮った柚子葉さんの写真や、
   彼女が部活で活躍した記事が載った、学校新聞の切り抜きの入った。
   引っ越しの時に段ボールに入れたはずなのに、
   探しても見当たらなかったので、きっと兄が抜き取ったんでしょう」
柑太 「それを見て逆上って。
   貴方が柚子葉さんを好きだってお兄さんが知ったってことか」
柚子葉「どうして、今更。
   学生時代から私をあんなに罵っていた人が」
桐生 「貴女じゃないんですよ、柚子葉さん。
   兄さんのターゲットは昔から僕なんです」
柚子葉「明義、さん……」



桃菜『……貴義は本来の目的を果たせずに、
   あの後もかなりキレてたけど、でも。
   悔しがってもいたわね。
   俺という男が居ながらあんな男を摑まえやがってって。
   あいつ、本当に馬鹿だわ……
   ……あいつが明義くんの部屋に入った時に、
   あるものを見つけたらしくてさ。
   弟はずっと柚子葉を好きだったって知って、
   柚子葉は俺をずっと裏切ってたって怒りを露わに話してた……
   ……それであいつ、明義くんに腹いせで、
   柚子葉と付き合って婚約したって言ってた』



柚子葉「(貴義が明義さんを憎んでいるとしても、
   彼のやってきたことは許せないよ。
   桃奈に新しい恋人ができたとは言え、
   まだ傷も癒えてなくて入院してるっていうのに)」




桐生 「この件は、父と総合病院の担当医師、
   私の同僚で親友の玉城(たまき)しか知りません。
   身内の不祥事なので公にするわけにはいかないんです。
   汚いお話で三葉さんには大変申し訳ないと思っていますが、
   彼女から被害届は出さないと言ってもらえたので、
   そのご厚意に縋って、今は兄を探しだす。
   そして柚子葉さんが第二の被害者にならないようにする。
   今でも、愛しているから……それが私の本心です」

柚子葉「明義さん」

桐生 「久々里さん。すみません。

   貴方の恋人なのに自分勝手なことを言っています」
萄真 「謝られても宣戦布告されても、柚子葉を渡す気はないですが、

   兄の家で話した時から、その想いと貴方を受け入れたのは俺です」

桐生「はい」

萄真「それで。剛田さんと遭遇したとして、
   俺達はどうすればいいですか」
桐生 「その時は私の携帯にご連絡をください。 
   もし急を要する事態になった時は、
   躊躇わず110番通報して頂いて結構です。
   少しでも早く、兄を見つけて被害が出ないようにしたい」
萄真 「分かりました。
   お話して下さってありがとうございます」
桐生 「いえ。
   皆さんに余計なご不安を与える結果になってすみません」
萄真 「柚子葉。俺が傍に居ない時に剛田さんと会ったら、
   自分で対処しないで言われた通りに連絡するんだ。いいね」
柚子葉「う、うん」
萄真 「それから杏樹さんもだよ」
杏樹 「えっ。私も?」
桐生 「貴女も病院で兄に会っていますからね。
   くれぐれも気を付けてください」
杏樹 「は、はい」
柑太 「何かあったらすぐ僕に言えよ」
杏樹 「うん。分かった」



改めて時間を取って貰えれば詳しい経緯を話すと言った明義さん。
私にはその姿が大きな十字架を背負っているように見えた。
兄が背負うべき罪を彼が代わりに負って、
倒れそうになりながら血に染まった刑場へ向かっているように。

私達五人は近いうちにまた会いましょうと約束を交わし、
柑太さんと杏樹さんはタクシーに乗り帰っていった。
萄真さんは私と明義さんを車に乗せ、
彼の車が停まっている病院の駐車場へと向かう。


その頃……
姿を隠しながらも明義さんを掴んで放さない邪知暴虐な君主は、

駐車場から建物に入り、非常階段を上がり廊下に出て、
総合病院のある一室の前で立ち止まる。

そして壁に掛かる名札を確認すると、音を立てずにドアを開けて入っていった。

点滴の雫がその者の心臓の鼓動を表すように、ぽたっ、ぽたっと、静かに落ちている。
安らかな寝息を立てて横たわる姿を、

冷淡な形相で睨みながらベッド脇で見下ろしていた。





(続く)



この物語はフィクションです。


 

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