30、心が求めた答え
愛海さんが店を訪ねてきたなんて知らなかった私は、
隼人くんの車で、一路羽田国際空港に向かう。
娘の花桜梨と隼人くんの会話を聞きながら、
私は窓から見える見慣れた景色をぼんやりと眺めていた。
もうすぐ空港が見えてくるという時…
隼人 「えーっ(汗)やめてくださいよ、花桜梨さん。
僕、舞ちゃんと何でもないですから(焦)」
花桜梨「嘘ばっか(笑)別に隠す必要ないし、二人お似合いじゃん。
それに二人を見てたら隠しててもすぐわかるわよ。
まぁ、うちは恋愛禁止ー!なんて、
堅苦しいこという店じゃないしさ。いいじゃないの」
隼人 「そうですけどぉー(汗)
仕事とプライベートはきっちり分けたいだけです。僕は」
花桜梨「ほらっ、暴露した(笑)やっぱり付き合ってるんじゃん」
隼人 「もーっ!花桜梨さん!」
飛香 「ねぇ、隼人くん」
隼人 「は、はいっ!
あ、もしかして店長まで何か言うんでしょー。
花桜梨さんと一緒になって茶化さないで下さいよ」
飛香 「あぁ(笑)あのね、お願いがあるのよ。
まだ時間があるから、空港に行く前に、
一か所立ち寄ってほしいところがあるの。
どうしても見ておきたくて、今から行って貰える?」
隼人 「え?いいですけど」
花桜梨「ママ、どこに行きたいの?お買いもの?」
飛香 「ううん。どうしても目に焼き付けておきたい思い出の場所」
花桜梨「思い出の場所?」
隼人 「それ、どこですか?」
私が行き先を伝えると、隼人くんは快く引き受けてくれた。
そして、車は別の道へと切り替わる。
私が日本を旅立つ前にどうして立ち寄りたかった場所…
それは、飛空(とあ)と愛を語った思い出の場所であり、
刹那さんと出会った運命の場所でもある、
あの穏やかな海と飛行機の見える公園だった。
公園の駐車場に到着すると、ふたりにすぐ戻ると伝え、
私は車を降りて海の方へと向かったのだった。
青く穏やかに広がる海と、
離着陸する飛行機がコラボするパノラマが広がるにつれて、
安堵の感情と共に、知らずうちに軽いため息が漏れた。
立ち止まって、なにげなく右に目をやった私。
ある光景を捉えた瞬間、視線はそこに釘づけになり、
ドキン!と私の心臓を波打たせた。
そして感極まってじわーっと涙が浮んできたのだ。
それは…
車にもたれて海を眺めているスーツ姿の刹那さんの姿だった。
飛香「なんで…。
なんでこのタイミングに…あなたはここにいるの?(泣)」
私は震えと共に込み上げてくる嬉しさと懐かしさに、
とうとう押し殺していた感情を抑えきれなくなって、
両手で顔を覆いながら泣いてしまった。
そんな気配を感じたのか、
飛行機を見ていた刹那さんが私に気が付く。
彼も突然現れた私の姿に驚き、
一時のあいだじっと見ていたけれど、
心底から愛情を感じ取れるような優しい微笑みを浮かべながら、
私にゆっくり近づいてきた。
そして、泣いている私の前に立ち止まる。
刹那「飛香さん…」
飛香「なんで…。なんで刹那さんがここに?…」
刹那「なんでだろうなぁ…。
急にここに来たくなって、仕事の途中にふらーっとね。
なんだか吸い込まれるようにここにきたよ」
飛香「そう…。あっ!刹那さん、体もう大丈夫なの!?」
刹那「うん。愛海に聞いたんだね」
飛香「え、ええ(戸惑いながら)
そっか、大丈夫ならよかったぁ…」
刹那「飛香さん。また泣き顔だね…」
刹那さんの掌が私の頬を捕え、
とめどなく流れる涙を優しく拭ってくれる。
私は目を閉じたまま、
そのあったかい掌のぬくもりに浸っていたけど、
ふっと現実が脳裏に読みがえり、思わず体を後ろに下がらせた。
その反動で、触れていた刹那さんの手が離れる。
刹那「飛香さん?」
飛香「ま、真由さんとは、仲良くやってる?(苦笑)
彼女、もうそろそろお腹目立ってきて、
赤ちゃんが動くのがわかるんじゃないかな…」
刹那「飛香さん。僕はそんなことは」
飛香「お、女にとって、初めての出産ってなんだか不安で、
旦那様の支えや愛情が本当に心強いものだから」
刹那「飛香さん。僕は」
飛香「そ、そう。きっと真由さんも同じように感じてると思うわ」
刹那「飛香さん!僕はそんなことどうでもいいんだ!」
飛香「えっ!?ど、どうでもいいって…」
刹那「僕は!君さえいれば!飛香さんさえ居れば、それでいい…」
刹那さんは一度離れた私の腕を掴むと、
いきなり自分の胸に引き寄せて、
震える両腕で私を力いっぱい抱きしめた。
飛香「刹那さん…。だめだよ。こんなことって」
刹那「もう何も言わないで。黙って…」
飛香「で、でも」
刹那「僕と飛香さんだけの場所だ…。ここは」
飛香「……」
ごめんね…真由さん
今だけ、ほんの少しだけ、刹那さんに触れさせてね…
刹那さんに抱きしめられて、
私の心の奥底に閉まってた感情が一気に溢れ出す。
彼の広い胸に顔をうずめた瞬間、私は無意識に本心を口にした。
飛香「刹那さん…愛してる」
刹那「ん?…うん(笑)飛香、僕も愛してるよ」
その囁くような会話とさわさわと風に擦れる音と波の音が、
ベールのようにふたりを包み込んでいる。
そんなひと時の小さな幸せに浸っていた私達を、
無情にも現実の声が切り裂いた。
花桜梨の声「ママー!?どこに居るのー!?
時間、間に合わないよー!」
飛香「あっ!ご、ごめんなさい(焦)私、もう行かなきゃ」
花桜梨の声でとっさに離れ、
慌てて行こうとする私の右腕を掴んだ刹那さん。
刹那「飛香さん!これが答えだよ。
何かのいたずらに引き離されても、
誰かが僕らの邪魔をしても、
正当な理由並べて、心を誤魔化して偽っても、
こうやってここに導かれてまた僕らは出会ったんだ。
飛香さん、心は正直なんだよ」
飛香「刹那さん…」
刹那「これが、これが僕らの求める答えなんだよ!」
飛香「ごめん…。もう行かなきゃ…。
あなたを愛してるけど…心から愛してるけど、
どんなに手を伸ばしても、
もう…私の手には届かないでしょ?(泣)
刹那…ごめんなさい…」
私は心を鬼にして掴まれていた腕を振りほどいた。
刹那「飛香!」
そして、まるで私の後ろ髪をひくように叫ぶ声にも振り返らずに、
私はその場を足早に立ち去ったのだ。
刹那…幸せになってね…
(羽田国際空港、出発ロビー)
花桜梨「ママ?大丈夫?なんだか元気ないね」
飛香 「え?あぁ(笑)大丈夫よ。今からホームシックかなぁ」
花桜梨「もう!今からフランスなのに、どうするのよ(笑)」
飛香 「そうね(笑)困ったなぁ…。じゃあ、そろそろ行くわ。
花桜梨、花純(かすみ)のこと頼むわね」
花桜梨「うん。大丈夫!ママも元気で頑張ってきて(ハグする)」
飛香 「隼人くん。店とこの子たちをお願い」
隼人 「はい!店長、心配しないで下さい」
飛香 「ありがとう。うん、いってきます」
ふたり「いってらっしゃい」
私は荷物を持つとふたりに笑顔で手を振って、
搭乗ゲートに向かったのだった。
その頃、愛海さんは空港に到着していて、
私の姿を必死で探していた。
人をかき分けては、きょろきょろと辺りを見渡しながら…
そしてとうとう、娘たちに手を振る私の姿を見つけたのだ。
愛海「飛香さん!飛香さーん!!」
大声で私を呼ぶ愛海さんの声に、
ロビーにいる人たちは一斉に振り返り、
辺りはわざわざし始め、一時騒然となった。
帰りかけていた花桜梨や隼人くんもびっくりして、
あっけにとられたように愛海さんを見ている。
私もその声に気がつき、思わず立ち止まった。
飛香「あれ?もしかして…愛海さん?」
私は彼女に手を挙げて、ありがとうと頭を下げる。
愛海「飛香さん!飛香さんはもう兄を諦めなくてもいいんですよ!
飛香さん!
日本に戻ってきたら兄に会いに行ってあげてくださいねー!!」
私は何度も笑顔で愛海さんに手を振り、
深々と頭を下げると、
搭乗する人たちと共にその場を離れたのだった。
心が一度は求めた答えを、
またそっとハートの奥底に終い込んで…
苗海「飛香さん…。もうちょっとだったのに…(泣)」
空港の場内アナウンスが流れるなか、
愛海さんの必死の叫びは私の元には届かなかったのだ。
私の乗せた飛行機は、定刻通り羽田を離陸した。
(続く)
☆愛里跨のひと言☆
今回は、飛香と刹那のとっても切ないシーンでした。
そして愛海の願いも虚しく、飛香はフランスに…
私も書きながら感極まってポロリでしたぁ(ノ_-。)
そんな切ないふたりの恋の行方は、
それからどうなっていくのか…
私の大好きなB'zと中島美嘉さんの曲から、
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