つかみどころのない前置詞「of」の対処法について

今回は書きます。


前回取り上げた「the」の復習からです。


英文の骨格と思える単語には色をつけています。


As many developed countries become the destination

for immigrants---people coming from other lands

in search of better opportunities---


As(理由を表す)

many developed countries(多くの先進国は)

become the destination for immigrants(移民にとって目的地となっている)

---people coming from other lands(他の国や地域から来る人々)

in search of better opportunities---(より良い機会を求めて)


「多くの先進国は、より良い機会を求めて他の国や地域から来る人々、

つまり移民にとって目的地になっているので」と

第1文の前半部分で、理由を書いています。


「理由(原因)」をまず述べてから、次に「結果」を書いています。


the ethnic mix is changing and with this has come the fear

of the loss of national identity as represented in a shared

natinal language and common values.


「ethnic」は、「民族の」という訳になります。

「mix」は、ミックス・ジュースのミックスですね。

「混ざったもの・混合物」という意味です。


「the ethnic mix」

「民族が混ざり合った状態は」ということですね。


どうして「the ethnic mix」に「the」が付いているのでしょうか?


前回の説明で「the」のコアなイメージが理解できたでしょうか?


コアなイメージを理解するのには、語源が役立ちます。


「the」の語源は「that」と同じ語源です。


「that」と同じ語源ですから、

「the」をジーニアス英和大辞典で引いて

「this,these,that, thoseよりも指示性は弱い」と説明されていても

何の不思議もありませんね。


「thatよりも指示性は弱い」かもしれませんが、

何かを指し示していることには、間違いありませんよね。


そうです。ネイティヴが「the」を使うときには、

何を指示しているか相手もわかっていると判断されるときに

「the」を使っています。


「the」のコアなイメージは、「that」のように

「何か1つを指示している」と覚えましょう。


前回「the」の説明するため

政村秀實著イメージ活用英和辞典(小学館)から

「the」の説明を引用しました。


僕自身「なるほど、こういうことだったのか」と思いましたので、

今回も引用しますね。


「あの、例の、いつもの *発信者が(文脈上、

1つに特定されるので相手に分かると考えて)

the~と言うと、受信者は、(特定されているので)

”ふむふむ~ね”、”例の~ね”と反応できる。

発信者が(これから特定しようとして)the~と言うと、

受信者は(どういう特定だろうか)と耳を澄ませて聞くことになる」


この説明で、僕の中の「the」のイメージが一層クリアになりました。


「the」のコアなイメージは、

「何か1つを特定(指示)する」ということになります。


そして、「何か1つを特定(指示)する」のは、

もうすでに話題として出てきたものだけではなくて

これから特定(指示)使用とするときにも使われる、

ということも忘れないようにしましょう。


「the」は「定冠詞」と呼ばれていますね。


「the」のコアのイメージから、

どうして「the」が「定冠詞」と呼ばれるか

わかると思います。


「the」は、どの名詞を指し示しているのか

ピンポイントで「定める」働きがあるから

「定冠詞」なのですね。


「the ethnic mix」(民族の混ざり合っている状態)に

どうして「the」が付いているのでしょうか?


本当に何か「1つを特定(指示)している」のでしょうか?


作者は「1つを特定(指示)してている」と考えていて

「the」を使っています。


移民が先進国に来ているために、先進国では

「the ethnic mix」(民族の混ざり合っている状態)が

生み出されています。


ですから、先進国における「民族の混ざり合っている状態」を

指し示していることがわかります。

そのため「the」が付いていることがわかります。


the ethnic mix is changing

「the ethnic mix」(民族の混ざり合っている状態)が

「changing」です。進行形ですね。

進行形は、「只今活動中」という看板でしたから、

「只今チェンジ(変化)している真っ最中」ということになります。


the ethnic mix(民族の混ざり合っている状態は)

is changing(変化の進行中だ)


では、「with this」から始まる文章です。

with this has come the fear of the loss of national identity

as represented in a shared natinal language and common values.


「with this」

前置詞「with」は「with you(あなたとともに)」の

「with」ですね。

「with this」は、「これとともに」という意味になります。


「this」は、「This is a pen.」の「this」ですね。


ジーニアス英和大辞典は、「this」について

「これ(空間的・心理的に話し手に近いものを指す)」

と説明しています。


問題文の「this」は、

「pen」のような具体的なもので近くにある物を

指しているわけではなく、

「近くにある」今まで述べた内容を指しています。


日本語でも今まで述べた内容を受けて、

「これについては、~です」ということがありますね。


英語の「this」も日本語「これ」も同じような使い方です。


では、問題文の「this」は、何を指しているのでしょうか?


「近くにある」と言うか、直前の

「the ethnic mix is changing」

を指していると思われます。


ですから、「the ethnic mix is changing and with this」は、

「(先進国における)民族の混ざり合っている状態が

変化し続けていて、これとともに」と意味になりますね。


「with this has come the fear」


この英文の主語は何でしょうか?

ヒント:主語になれるのは、名詞です。

そして、前置詞が付いている名詞は、主語になることができません。


ということは、「fear(恐れ・恐怖)」ですね。


では動詞は何でしょうか?

「has come(来た)」ですね。

「Spring has come(春が来た)」と同じです。


問題文では、動詞が先に来て、そのあとに主語が来ています。


「Spring has come」が「has come spring」と書かれている感じですね。


「with this has come the fear」(これとともに恐れが来た)


この英文からこんな英文を思いつきました。


「with cherry blossoms has come spring」


普通の語順(主語+動詞+付加情報)で書くと

Spring has come with cherry blossoms.

になるでしょう。


「主語+動詞+付加情報」の語順が普通ですが、

問題文の場合、どうして語順が変化したのでしょうか?


with this(これとともに・付加情報)

has come(来た・動詞)

the fear of the loss of national identity as represented

in a shared natinal language and common values.(主語の部分)


主語の部分が明らかに長いので、

まず動詞を言ってから、主語を言うほうが、相手に伝わりやすい、と

判断したから、問題文のような語順になったのでしょう。


では、主語の部分を見てみましょう。

the fear of the loss of national identity

as represented in a shared natinal language and common values


「the fear」にはなぜ「the」が付いているのでしょうか?


「the」の用法の中には、「これから特定するよ」という働き、

「前触れのthe」の用法がありましたね。


「the fear」の「the」は、

「発信者が(これから特定しようとして)the~と言うと、

受信者は(どういう特定だろうか)と耳を澄ませて聞くことになる」

ということで、「the」が使われています。


「the fear」どのような恐れかを特定するために

「of」以下の語句が続きます。


「the loss of national identity」


前置詞の「of」が出てきました。

前置詞「of」の基本的な意味は「分離」です。


ジーニアス英和大辞典の説明を引用しましょう。

「古英語 of。「離れて、・・・から離れて」が原義。

そこから根源・所属の意が生じ、

さらに分離・所属から、部分の意を

原因・理由から関連の意を表すようになった」


「of」のコアなイメージがつかめましたか?

なかなか難しいですよね。


「of」をどう処理するか、その方法について

初級クラウン英和辞典の説明が、僕は気に入っています。


「of 前置詞:~の

◎A of Bが日本語では「BのA」となって、

AとBのいろいろな関係(所有・部分・材料など)を表す」


この説明から、「of」をどう処理すれば良いかわかります。


英文で「A of B」という形に遭遇したら、

ステップ1:とりあえず日本語の「の」を当てはめる。

この方法で英文の意味が取れれば、OKです。


でも、日本語の「の」を当てはめてもしっくりこない場合、

ステップ2:AとBとの関係を考えてみる。


初級クラウン英和辞典の説明、

「AとBのいろいろな関係を表す」と言われても、

戸惑うかもしれません。


でも、それは文脈から

「どういう関係かあなた自身が考えても良い」と思えば、

気も楽になると思います。


ですから、英文で「A of B」という形に遭遇したら、

とりあえず日本語の「の」を当てはめて、

AとBにはどんな関係があるか考えてみましょう。


スーパー・アンカー英和辞典から「of」の使用例を挙げます。


とりあえず、日本語の「の」を当てはめてください。

意味が取れれば、OKです。

しっくりこない場合は、「A of B」における

AとBの関係を考えてみてください。

この方法で、「of」は対処できます。


the tail of a cat(猫のしっぽ)「所属・帰属のof」


a house of wood(木造の家)「材料を表すof」


a book of science(科学の本)「主題・範囲を表すof」


different parts of Africa

(アフリカのいろいろな地域)「部分を表すof」


ここまでの例は、とりあえず日本語の「の」を当てはめると

理解できるものでした。


the name of Tom(トムという名)


the neighboring town of Yamato

(大和という隣町)「大和の隣町」という意味ではない。


「A of B」におけるAとBの関係はどのような関係でしょうか?


「the name(その名)」が「Tom」ということで、

「the name(その名)」と「Tom」は等しいですよね。


「the neighboring town(その隣町)」 が「Yamato」ですから、

「the neighboring town(その隣町)」と「Yamato」は等しいですね。


ここで使われている「of」は、同格関係を表す「of」と呼ばれています。


「of」のほかの使用例です。

an English teacher of Japanese

「日本語のイギリス人教師」


ちっと変な日本語ですね。


日本語の「の」を当ててしっくりこないときは、

AとBの関係を考えれば良かったですね。


AとBの関係を考えるときは、自然な関係を考えてください。

無理やりこじつけるような関係を作り出さないでくださいね。


「a teacher of Japanese」は「日本語の先生」ですね。

「a teacher」と「Japanese」の関係には、

「teach Japanese(日本語を教える)」という

「動詞+目的語」という関係が成立するのが理解できるでしょうか?


「動詞と目的語」という関係が成立することが分かれば、

「an English teacher of Japanese」を

「日本語を教えるイギリス人教師」という訳になるもの

よくわかるかと思います。


次はどういう関係でしょうか?

the arrival of the next train

「次の列車の到着」


「the arrival(到着)」と「the next train(次の列車)」には、

「the next train arrives(次の列車が到着する)」という

「主語+動詞」という関係が成立しているのが分かるでしょうか?


では東大英語の問題文に戻りましょう。

the fear of the loss of national identity


「the fear」どのような恐れかを特定するために

「of」以下の語句が続いています。


「the loss of national identity」


「the loss(喪失) of national identity(国家のアイデンティティ」

「国家のアイデンティティの喪失」

いまひとつしっくりこない日本語訳ですね。


「the loss」と「national identity」の関係を考えてみましょう。

「loss(喪失)」を動詞にすると「lose(~を失う)」ですね。

ということは、「動詞+目的語」という関係にあることが分かります。


ですから、「国家のアイデンティティを失うこと」と訳せると思います。


では、「the fear of the loss of national identity」における

「the fear(恐れ)」と

「the loss of national identity」はどういう関係にあるのでしょうか?


「the fear」は「the loss of national identity」であり、

「the loss of national identity」が「the fear」ですから、

「the fear」と「the loss of national identity」は、

イコール(=)で結べると思います。


いわゆる同格関係にありますね。


ですから、「国家のアイデンティティを失うという恐れ」と

訳せるでしょう。


with this(これとともに・付加情報)

has come(来た・動詞)

the fear of the loss of national identity

(国家のアイデンティティを失うという恐れが)


では、「国家のアイデンティティ」

国家を国家として成り立たせているものは何か、

「as」以下で説明しています。


「as」の働きを覚えていますか?


I am as strong as Samson.(僕はサムソンと同じくらい強い)


「as~as」の2番目の「as」は直前の言葉を

説明(制限)する働きをしていましたね。


参考書によく出てくる例文を挙げます。

I like the view of Mt. Fuji as seen from Lake Ashi.


どのような富士山を眺めるのが好きなのか、

富士山を説明(制限)するために「as」が使われています。


seen(seeの過去分詞ですから、見られたという意味ですね)

from Lake Ashi(芦ノ湖から)


Mt. Fuji as seen from Lake Ashi(芦ノ湖から見られた富士山)


I like the view of Mt. Fuji(私は富士山の眺めが好きだ)


「the view of Mt. Fuji」に「of」が出てきています。

「the view」と「Mt. Fuji」にはどんな関係があるのでしょう?


動詞と目的語の関係があると考えられます。

ですから、「 the view of Mt. Fuji」は

「富士山を眺めること」と訳せます。


そして、「as」以下で、どのような富士山かを説明していましたね。、

I like the view of Mt. Fuji (私は富士山を眺めることが好きだ)

as seen from Lake Ashi.(芦ノ湖から見える)


⇒私は、芦ノ湖から見える富士山を眺めることが好きだ。



問題文の「as」も直前の「national identity」を

説明・制限するために使われています。


natinal identity(国家のアイデンティティ)どのような?

as represented(表現される)どのようなもので?

in a shared national language(共有された国家の言葉)

and(それと)

common values(共通の価値観で)


national identity

as represented in a shared natinal language and common values

共有された国家の言葉や共通の価値観で表現される、国家のアイデンティティ


with this has come the fear of the loss of national identity

as represented in a shared natinal language and common values

(民族の混ざり合っている状態が変化し続けていて)

これとともに、共有された国家の言葉や共通の価値観で表現される、

国家のアイデンティティを失うという恐れがやって来た。


これで最初の英文の説明が終わりました。

最初の英文を読んでみましょう。


As many developed countries become the destination for immigrants

---people coming from other lands in search of better opportunities---

the ethnic mix is changing and with this has come the fear

of the loss of national identity as represented in a shared

natinal language and common values.


「in a shared natinal language and common values」のところで、

「a shared national language」となぜ「a」を使っているのでしょうか?


そして、なぜ「common value」と単数ではなく、

「common values」と複数形なのでしょうか?


次回は、不定冠詞「a(n)」と

英語における単数と複数について書きます。


最後まで読んでくれてありがとうございます。

また次回もよろしくお願いします。