プログラマ35歳定年説に思う | 悪態のプログラマ

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とある職業プログラマの悪態を綴る。
入門書が書かないプログラミングのための知識、会社の研修が教えないシステム開発業界の裏話は、新人プログラマや、これからプログラマを目指す人たちへのメッセージでもある。

「プログラマ35歳定年説」という言葉がある(30歳説、40歳説もあるが、数字そのものはあまり問題ではない)。加齢によるスキルダウン、体力ダウンを連想させる言葉だが、むしろ、会社組織的な背景が強いようだ。

システム開発業界では、「彼はまだプログラミングしかできない」といった言葉をよく耳にする。つまり、この業界の中では、プログラミングは一般的に「簡単な仕事」とされているのである。本当はそんなに簡単なわけではないのだが、他の仕事はもっと難しいということだろう(※1)。

開発の仕事を、「簡単だとされている」順に並べれば、テスト、プログラミング、設計、要求分析というように、ウォーターフォールと呼ばれる製造工程を逆流するような順番になるだろうか。もちろん、プロジェクト・マネージメントのように、別の次元ではもっと難しい仕事もある。

それぞれの仕事には、違ったスキルが必要なので、本来、こうやって「順に並べる」のは間違いだろう。しかし、現実には、同じ人がこれらの仕事を順に経験していくことが多いようだ。入社直後はテストやプログラミングから始め、徐々に難しい仕事を任されるというわけだ。つまり、プログラマから、SE、マネージャへと「出世」していくのである(※2)。

また、プログラミングは、与えられた設計書に従って行われる。このため、プログラマという職種には、どうしても「指示される側」という印象がある。日本人は、指示系統と年齢の逆転を嫌うので、自然と、プログラミング=若い人の仕事という図式が出来てしまう(※3)。


もちろん、全てのプログラマが「出世」コースを歩むわけではない。このことは、プログラマという職業にとって、皮肉な状況を作り出す。

有能なプログラマは、物事を論理的に考え、無駄を嫌い効率化を好む。また、コミュニケーション能力等にも秀でている(コーディングだけがプログラマの仕事ではない!)。会社としては、そういった人物を有効活用しない手はない。プログラミングばかりやらせているのはもったいないので、積極的に「出世」させる。35歳にもなれば、少なくとも SE と呼ばれる方が相応しくなっているだろう(※4)。

反対の理由で、無能なプログラマは出世しない。つまり、彼らはずっとプログラマのままなのである。35歳になっても定年にはならない(賢明なら早いうちに自ら職種を変えるのだろうが、あいにくそういう人は少ない)。最初からスキルがないので、加齢によるスキルダウンの心配も無用である(※5)。

つまり、プログラマと呼ばれる期間は、プログラマとしてのスキルが高い人ほど短くなり、低い人ほど長くなるという皮肉な状況になる。


そう考えると、プログラマ全体としてのスキルは、どんどん低下していく運命である。このままでいけば、開発効率や品質の低下は必至だ。

実際、プログラミングの「難しい部分」を、プログラマ出身の SE やプロジェクト・リーダーと呼ばれる人々が引き受けなければ、納期に間に合わない、品質を確保できない、というケースは少なくない(当然、彼らの負荷は異常に高くなる)。

業界自体の歴史が浅いため、こうした問題は、重大視されてこなかったのかもしれない。しかし、本来なら、有能なプログラマこそ、純粋にプログラマとして働いてもらうべきだろう。そして、それを実現するためには、人事や組織、キャリアプランのあり方といったことを見直していく必要があるのではないだろうか。





※1
プログラミングは誰でも出来る仕事ではない。ただ、「上位工程」に比べれば、比較的「簡単な仕事」を用意しやすいのは確かである(下記関連記事も参照)。

※2
会社によっては、いきなり SE やマネージャになるような「エリートコース」もあるようだ。なお、現実には、SE、プログラマのように肩書きがはっきりと分かれることは少なく、SE 兼プログラマや、プログラマ兼テスターというように、同じ人間が複数の作業を行うことが多い。小さいプロジェクトでは、1人で全ての工程をやってしまうこともある。

※3
つまり、年上の人向かって命令しにくい、叱りにくい、といったことである。年上の人を敬うという精神が根底にあるのだろう(それ自体は悪いことではないと思うが)。

※4
もちろん、それは彼らをどう呼ぶかということであって、彼らがプログラミングしなくなるというわけではない。高度な技術を要するプログラミングは、彼らでなければできないからだ。

※5
35歳を越えたプログラマが全て無能だと言っているのではない。言うまでもないことだが、念のため。



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