話が通じない話 | 悪態のプログラマ

悪態のプログラマ

とある職業プログラマの悪態を綴る。
入門書が書かないプログラミングのための知識、会社の研修が教えないシステム開発業界の裏話は、新人プログラマや、これからプログラマを目指す人たちへのメッセージでもある。

新人プログラマの書いたソースコードのレビューをしていた時の話。

 「ここんとこ、複雑な書き方になっているけど、大丈夫?」
 「はい」

おかしなもので、何の迷いも無く大丈夫だと言われると、逆に不安になる。特に、彼が実務としてプログラミングを行うのは初めてだったから、なおさらだ。

 「本当に大丈夫なの?」
 「大丈夫です」

ますます不安になってしまう。どうして断言できるのか? その自信はどこからくるのか?

なぜ、「このような動作確認をしているので大丈夫です」と言ってくれないのだろう。むしろ「自信がないのでよく見てください」とか言ってくれればいいのに・・・。

もちろん、「たぶん大丈夫です」などと言われても不安ではある。しかし、それよりも「絶対大丈夫です」と言われたほうがもっと不安だ。前者の方が、「人間はミスをするものだ」ということを分かっていると思えるからだろうか。


新人プログラマには、既存のコードを参考にして書けるような、簡単な仕事をさせることが多い。そうした場合、既存のコードをきちんと理解しないまま「出来ました」といって来る人が結構いる。彼らは「既存のコードと同じようにしたので大丈夫です」と言うのだが、そのコードが何をしているのか、説明できない。そういった時、バグは生まれやすい。

また、「動いているコードをコピーしてきたので大丈夫です」という発言も多い。コピーすること自体の危険性を彼らは知らないのだ。心臓の移植手術をした医者が「動いている心臓を移植したので大丈夫です」と言ったとして、安心できるだろうか? 

彼らは何をもって大丈夫と思っているのか、分かったものではない。だから、私が「大丈夫か?」と聞くのは、彼らの「自信」が知りたいのではない。大丈夫かどうかを自分で判断したいのである。納得できるだけの理由を説明してもらいたいものだ。


・・・いや、そもそも冒頭の質問の意図はそんなことではなかった。「大丈夫?」という部分よりも、「複雑な書き方になっている」という部分の方が重要なのである。

彼が「大丈夫?」という最後の言葉にだけに反応するものだから、話がずれてしまったではないか。私が「本当に大丈夫なの?」と返した時点でコミュニケーションがおかしくなってしまっているのだ。

つまり、元々期待していたのは、例えば、「こういった理由で、やむを得ずこのような複雑な書き方になっています」といった答えである。あるいは、「どう書けばもっとよくなりますか?」と逆に質問してくれてもいい。

私の質問の仕方が悪かったのだろうか? 確かに字面どおりに受け止めれば「Yes」か「No」かの回答になるだろう。しかし、日本人なら、この程度の曖昧な意思伝達は、日常的にやっていると思うのだが。

それとも、彼が私をからかって言葉遊びをしているだけなのだろうか・・・。





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