BP社の広報対応で考えたこと | SOTOBORI STREET EYE!~赤坂外堀通りで働く広報コンサルタントの視点~

BP社の広報対応で考えたこと

米ルイジアナ州メキシコ湾の海底油田で発生した原油流出事故は、発生から2カ月以上たっても原油の流出を止められず、米史上最悪の環境災害となることが確実視されています。


原油の流出量は、日量3万5000バレル~6万バレルと推定されており、その拡散は東京を始めとする首都圏がすっぽり入ってしまうほど広大な範囲におよび、周辺地域に重大な環境被害を与えることが予想されています。


この事故を起こした英・BP社は、いまだその流出を止められないことで批判されていますが、事故後の広報対応のまずさが批判をさらに厳しいものにしています。


BP社の広報対応が批判されている点として、大きく以下3点が挙げられます。


①公開した事故情報に関する嘘や隠ぺい

②たび重なる経営トップの失言

③住民への賠償よりテレビCMに力を入れていると思われてしまったこと


まず①については、事故当初、BP社が発表した原油流出量(1000バレル)が、実際は35~60倍(3万5000バレル~6万バレル)であったことが米政府の調査結果により判明しました。また、BP社は事故当初、海底油田の映像の公開を拒んでいました。米連邦議会の圧力で映像の提供を始めましたが、高解像度の映像を隠していたことが発覚し、それを公開したのは事故後50日たってからでした。


次に、BP社のトニー・ヘイワードCEOは、メディアの取材に積極的に対応しましたが、そこで被害者感情を逆なでするような失言を連発し、アメリカ国民からさらに強い反発を買う結果となりました。


Newsweek誌は「BPトップはPR史上最悪の失言男」という記事で、ヘイワードCEOの失言を以下のように紹介しています。


5月14日、英ガーディアン紙に対し、「メキシコ湾は広大だ。海全体の水の量に比べれば、流出した石油と分散剤の量など微々たるものだ」と弁明した。


5月18日、英国の衛星放送「スカイ・ニュース」に出演し、「この災害の環境への影響はおそらく非常に小さいだろう」と発言。環境被害は甚大で、全容は今も計り知れないと考える多くの科学者にとっては驚愕のコメントだ。


5月30日、楽観的な態度を改め、同情を買う作戦に転じるつもりで米NBCの「トゥデイ・ショー」に出演し、「私は誰よりも終結を望んでいる。自分の生活を取り戻したい」と言ってしまった(後に謝罪)。


5月31日、部分的に溶解した原油が海中を浮遊する様子を多くの科学者が目撃しているが、ヘイワードは生態系を脅かす汚染物質の存在を否定。「汚染物質などない」と反論した。


6月1日、原油の除去作業に当たる作業員がガスを吸い込んで吐き気や頭痛、呼吸困難を訴えたのに対し、流出した原油のせいではないとの持論を展開。ヤフー・ニュースによれば、作業員9人が体調を壊したことに対し、ヘイワードはCNNに「明らかに食中毒も大きな問題である」と話したという。


さらに、6月17日に米公聴会に出席した後、ヨットレース観戦のためイギリス南部のワイト島を訪れていたことが発覚し、厳しい批判を受けています。


①、②の結果、BP社に対するイメージが悪化したことに対して、なんとか挽回しようと、6月に入るや連日、大手新聞に全面広告を出し、テレビCMも連発。オバマ大統領からも巨額の広告費を使う暇があったら、ちゃんと住民の賠償請求に対応するべきと批判されてしまいました。


原油流出を止められない以上、BP社が批判を受けることは仕方のないことだと思いますが、情報を正直に公開し、CEOが自分の都合ではなく、被害を受けている側の立場に立って発言していれば、ここまで批判が大きくなることはなかったのではないかと思います。


また、今回の事例はトップの積極的なコミュニケーションが裏目に出た事例としてもとらえることが可能です。


今回のケースでは、事故翌日にはCEOが現地で会見しています。また、BP社のホームページを見るとヘイワードCEOが多くのメディアの取材を受けて発言していることが分かります。


トップが責任を持って積極的に事故に対応する姿勢を見せたことは評価されるべきですが(トヨタのリコール問題では、豊田社長の会見が遅れたため米国で強い非難を浴びました)、その後の取材対応には明らかに失敗しています。


おそらく多くの取材を受ける中で、ポロっと本音が出てしまったのだと思いますが、連日事故対応に追われるCEOが失言する危険性をBP社の広報担当者は認識しておくべきだったと思います。


畑山