IRとPRの違いとは? お互いが学ぶべきところとは何か? | SOTOBORI STREET EYE!~赤坂外堀通りで働く広報コンサルタントの視点~

IRとPRの違いとは? お互いが学ぶべきところとは何か?

先月、ある大手企業の若手広報担当者から「ウチの場合席は隣なんですけど、IR担当者と広報担当者って、あまり仲良くないんですよね」という話を聞いたのが今回のブログを書くきっかけである。


その担当者によれば、IR担当者は広報には理解し難い専門的なことを言って、馬鹿にするような傾向があるという。一方、他の大手企業のIR担当者によると、PRの勉強会などに参加すると、IRは広報の一分野とあっさり位置づけられてしまい、「IRは視野が狭い」といった視線を浴びているようで、肩身の狭い思したことがあるという。


IR担当者とPR担当者は仲が悪くなる傾向にあるなどと、一概には言えないと思うが、以下に「IRとPRの違い」を5つほど挙げ、最後に「お互いが学ぶべきところとは何か」について考えてみたい。


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1つめの違いは、ターゲットのちがい、つまり情報を受け取る側の「関心の幅と深さ」の違いである。
新聞に政治面や経済面、社会面や運動面があるようにマスメディア(公衆)は、関心が「広く浅い」のに対して、アナリストや投資家は「それで利益が上がるのか。業績への寄与度は?」など、関心が「業績」に集中する傾向がある。


したがって、ターゲットに対して「有効なコンテンツ」も違う。これが2つめの違いである。
PRが「バリューのあるニュース」に傾斜するのに対し、IRは「結果としての数字」が何より大事である(もちろん、業績の背景にある定性情報やその連続性なども大いに重視するのだが)。


3つめは、情報を発信する側の競争環境からくる「情報提供マインド」の違いである。
IRの情報発信は、ほぼ上場企業からのみに限定されるのに対し、PRの情報発信は、非上場企業も政府や官庁、地方行政や大学や病院などからも行なわれており、非常に競争が激しい。つまり、上場会社数が国内では約4,000社と限られているIRは担当者が「情報を出してあげる」という意識になりがちなのに対し、PRの場合は企業数だけでも日本には430万社以上あることから、「情報を出ださせていただく」というマインドを持っていることである。そのため、PR担当者は「わかりやすい言葉で伝える」「短く伝える」「目をひくような印象的な表現にする」といった特に初心者向けとも言うべき情報提供マインドが高くなっている。


4つめは、PRとIRという2つの言葉の「知名度」の違いである。
日本において「PR(あるいはPRする)」という言葉は、多くの場合「広報する」より「宣伝する」という意味で使われている。これは本来のPR=Public Relationsの意味である「公衆との双方向コミュニケーション」とはまったく異なっているのだが、少なくとも日本において「PR」という言葉は、かなり定着していると言えよう。
一方、IRという言葉の知名度はまだまだ低く、IR活動とは、投資家向けの広報活動だと説明されても、その活動内容が浮かぶ人は少ないだろう。


これは、それぞれの言葉や手法が導入された「過去の経緯」の違いによるところも大きい。PRの考え方は海外から日本に1960年頃に導入されたが、マーケティングとしてのPRが強く意識されたため、どちらかといえば自発的であり能動的でもあった。一方、IRは1980年以降、国内企業同士の株式持合いなどを批判する外国人投資家からの「外圧」により、どちらかといえば受動的に導入されたもの(本格的な普及は1990年代後半)である。これが5つ目の違いである。


上記5つの違いをまとめると、IR関係者は、PR関係者に言わせると「業績に一喜一憂し、数字にこだわり、情報提供マインドが弱い傾向がある」ということ。また、言葉として「市民権」を得ているPRに対して、IRは一般市民にとっては「マイナー」な存在であることに加え、IRが海外から導入された時の主体性がPRと比較して低かったということである。


このような背景を見てみると、ツールや手法において、PRはIRに比べ一日の長がある。
たとえば、「わかりやく伝える」「短く伝える」「視覚化する」「上手に伝える」など、私は常々、IR関係者はPR関係者に学ぶところがある、と思っている。
一方、PR関係者もIR活動に学ぶところはある。たとえばPR活動において、マスコミ対象に調査を行っている企業はまだ少ないと思うが、IR活動においては、投資家の声を聞く「認識調査(アナリストヒアリング、パーセプションスタディなどとも呼ばれる)」というのは、一般的であり必須ともなっている。


このようにIR活動とPR活動は、いくつかの大きな違いがあるが、インターネットやグローバル化の進展への対応など、共通して取り組むべき課題も多い。お互いにお互いをよく理解し合い、またその手法やノウハウを交換したり切磋琢磨することで、企業や組織とターゲットのコミュニケーションをより拡げ、深め、早めることができるのではないだろうか。


IRとPRの席が隣り合っている上場企業の方々には是非とも取り組んでいただければ幸いである。


取締役執行役員 江良 嘉則