横トリ回想:鹿児島エスペラント | delestage

横トリ回想:鹿児島エスペラント

年賀状、今年は遠慮気味に出したのですが、返信用に取っておいた分がもうなくなりそうです。私もそうですが、周りにも手紙が好きな人が多い。絵柄はもちろん、切手のデザインも楽しめます。同じ犬の切手でも、色々種類があるものですね。


昨年横トリにてアーティストデビューを果たしたSさんとパートナーさんからも、スモール&ビューティフルな賀状が。早く返信しなければ。期間中、エントランス脇に係留していたボートピープルの13号、私も助手さんと後輩とで、つたないながらささやかなカフェをさせていただいたのでした。


手伝いに来てくれていた先輩が、ちょっと観てくるね~と会場へ。


「おすすめは?」

「高嶺格の、鹿児島エスペラントですかね」


鹿児島エスペラント


同じ質問をされたお客様にも、そう答えました。説明はしづらい。(作品の前に立っていたスタッフのお姉さんも、ほとんど説明できていませんでした。) 密閉された、真っ暗な体育館のような空間がありまして、壁沿いに通路がめぐらされており、そこから下で起こっているスペクタクルを見下ろすような形になります。時折動く小さな宇宙飛行士の人形、土を盛り固めて描かれた文字、丈の低い樹木、古墳のような築山… これらが全て本当にあったかどうか、最早確証はありませんが、ともかくこういったオブジェクトに、何語で歌っているのかわからない子守唄のような音楽に合わせて順々に光が当たり、最後に一瞬だけ、弱い光で全体が照らされる。


「シューベルトのね、子守唄なんすよ」

大嘘でした。言葉は、エスペラントと鹿児島弁だったそうですが。しかしこの作品を説明しようとして、多くの人が失敗している。だから私も、今更訂正しなくていいや。


主催者側のアピールと、鑑賞者のリアクションが食い違っている作品というのはよくありますが、この作品はむしろ、逆だったのではないかと思います。Googleで検索にかけると、70弱くらいヒットすると思います。多くが個人のブログです。関係者が共有する重めのバックグランド(詳しくはイルコモンズのふた。の、12月9日を参照していただければと思うのですが)を塗りつぶすように、ボトムアップで反響が広がっていったように見えました。


Googleでヒットした記述は一通り読みました(別に暇なわけじゃないよ)が、多くが


鹿児島エスペラントすごくよかった!

説明しようとするが、挫折

とにかく行ってみて! そうしないとわからない


という構成になっていたように思います。レトリックの洗練度には多少差が出るのかもしれませんが、美術への造詣が深い人も、そうでない人も、なぜか同じようなことを言おうとして、言えていなかった。私はそこに一番感動しました。何だかとってもフェアだな、平等だな、と感じてしまったのです。


アートワールドの住人たちの聖域のようなあのトリエンナーレで、唯一誰にも”語りつくす”ことを許さなかったのが、鹿児島エスペラントだったのではないか、と思います。


メッセージの不在ということではなく、ちょっと知識のある人たちの間で成立しがちな、暗黙の了解みたいなものを受け入れてくれなかったというか。皆、何かを言おうとするのだけど、結局「言えない」、「うまく語れない」、挙句「思い出せない」。


鹿児島県人も、エスペラント同好会も、困惑しています。美しい。皆で悩もうじゃありませんか。


あと一つ、JNさんとの会話の中で印象的だった解釈。「緊迫感や集中力といったサーカス性が抜け落ちたアートサーカスの中で、鹿児島エスペラントは唯一のサーカス空間だったのではないか」