逃げを打つ選挙情勢調査 | 永田町異聞

逃げを打つ選挙情勢調査

「どこに投票したらいいんですか?」。知り合いや会社のスタッフからそんな声がしばしば寄せられる。


今回ほど、有権者が迷っている衆院選はなかったのではないか。そのせいか、マスコミ各社の選挙情勢分析がはなはだしく頼りない。


たとえば今日の朝日新聞一面「衆院選中盤本社情勢調査」などは、他社と横並びで自民党の圧倒的優勢を伝えながら、「情勢が変わる可能性も」と逃げを打つ。詳しく見てみよう。


「自公300議席うかがう」という見出し。前文では、電話調査に全国の取材網の情報も加えて情勢を探った結果、自民は単独過半数を超え、公明も堅調、民主は80議席を切る可能性があるーなどといかにも自信ありげだ。


ところが、本文に入るや、いきなり次の文章が現れる。


「調査時点で投票態度を明らかにしていない人が、小選挙区で5割弱、比例区で4割おり、情勢が変わる可能性もある」


半数近くが、どこの誰に投票するか決めていないのに、「自公300議席うかがう」と打ち出すのはどういう了見であろうか。


選挙情勢調査としては格好が悪いかもしれないが、正直な記事に書き直すとするならば、前文は次のようにするべきだろう。


「朝日新聞は電話調査を実施し、全国の取材網の情報も加えて情勢を探った。その結果、調査時点で投票態度を明らかにしていない人が、小選挙区で5割弱、比例区で4割もおり、投票日を目前にして選挙結果がほとんど見通せない状況であることがわかった」


これはこれでニュースである。そのうえで、本文を次のように書いたらどうか。


「投票態度を明らかにしている小選挙区5割、比例区6割の有権者の回答から議席獲得数を推計し、記者がそれぞれの陣営を取材した感触をもとに各選挙区の当選者を推測した限りにおいては、自民は小選挙区で05年の219議席を上回り、比例区は60議席前後になりそうだ…」


筆者が言いたいことは、新聞記事も前提をはっきりさせて書き進めたほうが、情報への信頼性が高まるということだ。


ロイターでは「総選挙で誕生する新政権の中心となるべき政党は」という質問に投票するオンライン調査を実施しているが、14日午前11時時点での結果は自民党が1位の58%で、朝日調査では10票ていどしか取れないとされている日本未来の党がなんと2位の28%、そのあと日本維新の会(5%)、民主党(3%)と続く。


これについても、朝日とはメディア特性が違うという前提条件を考えておく必要がある。


大メディアの電話調査は、家事や育児で忙しいかもしれない家庭にいきなり電話をして、何の準備もしていない人に即時回答させるわけだが、ロイターのオンライン調査は、そのサイトを訪問し、投票するという能動的な行動がもたらした結果である。


したがって、政治経済分野に相当な関心を抱いている人の意思が反映されていると考えるべきだろう。有権者はそういう人ばかりではないので、これもロイターのウエブサイトを訪問している人に限ってみれば、という条件付きである。


ただし、未来の党が28%で、維新が5%、民主3%というのは、マスメディアが報じない政治情報をネットで継続的に追っている人なら、その理由はなんとなくわかるのではないだろうか。


簡単にいえば、民主も維新も「変節」「ウソ」「ごまかし」が過ぎて、信用ならない、ということだろう。


民主党は政権交代時の国民への約束を反故にして、自民党化した。維新は天下取りの欲を出して石原慎太郎という好戦的かつ品性下劣な超有名人と手を組み「原発ゼロ」を党公約から外した。そのため味方であったはずの大阪府市エネルギー戦略会議メンバーが反発し、近く「抗議声明」を出す事態に立ち至っている。


大手マスコミは願望もこめて自公政権の復活予測をさかんに喧伝しているようでもあるが、石原に似て他人の悪口に時間を費やす安倍晋三という人物がいかに軽薄であるかは、彼の首相在任時にいやというほど思い知ったのがわれわれ日本国民であろう。


マスメディアの自民圧倒的優勢という情勢分析には、09年選挙で民主党を支持した業界団体が勝ち馬に乗ろうと自民党支持に回帰する現象が顕著なため、取材記者がその動きを過大評価している側面もある。


朝日によると、自民党の政党支持率は21%で、「03年衆院選の30%、05年の33%ほど高くなく、大敗した09年の22%と並ぶ」という。


政党支持率21%で単独過半数というのは、どう考えてもおかしい。だから、選挙情勢の記事も自信を持って書けないのだ。


すべては「小選挙区で5割弱、比例区で4割」にのぼるといわれる人々の投票時の決断にかかっているといえるが、「原子力は安いエネルギー」とウソをつく候補者には絶対に票を入れないでほしいと切に願う。


新 恭  (ツイッターアカウント:aratakyo)