マッチポンプ記事のあとを追う言葉狩りマスメディア | 永田町異聞

マッチポンプ記事のあとを追う言葉狩りマスメディア

昔のマスコミもひどかったが、今に比べると、少なくとも、武士の情けというか、ある種のおおらかさがあったように思う。


平野達男震災復興担当相が民主党参院議員らの研修会で次のように語ったことなど、誰も問題にしなかっただろう。


「前の津波の経験からここの高さに逃げていれば大丈夫だと言ってみんなで20~30人そこに集まってそこに津波が来て、のみ込まれた方々もいます。逆に、私の高校の同級生みたいに逃げなかったバカなやつがいます。彼は亡くなりましたけれども…そういったことも全部、一つ一つ検証して、次の震災に役立てることがもう一つの大きな課題だと思っています」


発言場面をテレビで見たが、親しい友達に「なんで早く逃げなかったんだ、バカだよお前は」と語りかけたい切なる気持ちが伝わってきた。公人だから個人的感情をすべて封印してしまえというのも、いかがなものか。


この発言を記事にしてやろうと最初に思いついたのは、ネット上で知りうる限り、産経新聞の記者だったに違いない。10月18日6時ごろにこんな記事がMSN産経ニュースに登場した。


◇平野達男震災復興担当相は18日、東日本大震災の津波被害に関し「私の高校の同級生みたいに逃げなかったバカなやつがいる。彼は亡くなったが、しょうがない」と述べた。福島県二本松市で行われた参院民主党の研修会のあいさつで語った。犠牲者やその遺族への配慮を欠いた発言で、進退問題に発展する可能性も出てきた。◇


産経の本社デスクはさっそく、野党や地元住民のコメントをとるよう出先の記者にこう指示したのだろう。「平野復興大臣が『逃げなかったバカがいる』と発言したらしい、談話をとってくれ」


野党にしてみれば、「待ってました」の談話取材である。


自民党の大島理森副総裁 「どういう理由にしろ亡くなった方を『バカ』という表現は、大臣として許されざる言葉だ。人を傷つけるような言葉を平気で言う、この政権に復興はできない」(産経)


事情をよく知らない地元の人々の怒りの声も簡単に取れる。


「おふくろは足腰が悪くて逃げたくても逃げられなかった。バカだから死んだというのか」(産経)


記者の思う方向に誘導され、心を弄ばれて、新聞づくりに利用される被災住民が気の毒だ。


鉢呂発言のときもそうだったが、どこかの社が火をつけると、あとを追っかけて延焼させようとするのがマスメディアの習性だ。午後8時以降、読売や毎日もネットに記事を載せはじめた。新聞が書けば、テレビも流す。


よく調べれば、「完全無視」の大メディアもあったかもしれないが、おおむねマッチポンプ記者のあとを追ってゆく。


これがまた政争のネタになり、まさかとは思うが担当大臣が辞任ということになれば、復興への足取りはまた鈍る。


この国のメディアはいったい何をやっているのか。こんな言葉狩り記事を書くヒマがあったら、官庁情報を鵜呑みにせず、米国の下心が透けて見えるTPPの問題でもえぐり出したらどうか。


新 恭  (ツイッターアカウント:aratakyo)