小沢氏のどこが党倫理規則違反なのか | 永田町異聞

小沢氏のどこが党倫理規則違反なのか

先日、筆者の知人がいつになく激しい怒りのメールを送ってきた。


「権力を握ったとたんに仲間を売る、菅さんトリオは古くはロベスピエール、最近ではヒットラーやスターリンと同列の非情な悪党です」


表現は少々、極端だが、同じように思っている人が多いのだろう、全国各地で「小沢コール」のデモが繰り広げられている。


魔女狩りに加わるのも人ならば、そんな集団ヒステリーをやめるよう諌めるのも人である。


ツイッターやブログ、動画や記事の投稿サイトで共感しあった老若男女が、呼びかけに応じて、指定の時刻、指定の場所に集結する。たちまち、見知らぬ人どうしの連帯感が生まれる。


チュニジアやエジプトのような大がかりで激しい人の波ではない。それでも驚くほど多くの市民が、警官の規制のもと、整然と行進をする。ネット動画で大阪・御堂筋のデモを見たが、沿道にたまたまいた人がその隊列に加わり、いつしかより大きなうねりになっていた。


拡声器でスローガンを唱えてはいるが、抑制の利いた、いわば「大人のデモ」である。しかし、だからこそ、その訴えはズシリと重く感じる。


小沢一郎氏への検察の弾圧、マスメディアのバッシングによって神格化された「世論」。その幻の絶対者に生贄を捧げるがごとく、本来なら仲間として守らねばならない菅首相や党執行部までもが「小沢処分」という、妄想的な免罪符を「世論」から手に入れるために血眼になっている。


さて、昨日、民主党役員会が小沢氏を裁判確定まで「党員資格停止」とする提案をまとめた。その「提起理由」とやらが、今朝の新聞に掲載されている。


「元秘書が逮捕、起訴された内容について強制起訴されたことは、党倫理規則違反に該当する」


これまでの経過をよく知る人ならば、この文言に違和感をおぼえることだろう。元秘書の逮捕、起訴が正当だったかどうか、検察審査会がどのような審査をして短期間に起訴議決をしたのかベールにつつまれたままであることなど、本質的な問題をいっさい党として検証することなく、外形的事実によってのみ判断していることがこの違和感のもとになっている。


そもそもこの提起理由における「党倫理規則違反」とは、どのようなことについて「違反」だと言うのだろうか。民主党の倫理規則には、「倫理規範に反する行為を行ってはならない」とある。


では、倫理規範とはどのような中身か。以下の通りである。


1 汚職、選挙違反ならびに政治資金規正法令違反、刑事事犯等、政治倫理に反し、または党の品位を汚す行為


2 大会、両院議員総会等の重要決定に違背する等、党議に背く行為


3 選挙または議会において他政党を利する行為等、党の結束を乱す行為


小沢氏はこの三項目のうち、どれに該当するのだろうか。汚職をしただろうか。政治資金規正法違反を犯したかどうかはこれから法廷で判断されるのではなかったか。少なくとも検察は、違反の証拠はないとして不起訴にしているのである。


またこの「党員資格停止提起理由」にはこうも書いてある。


「検察審査会の起訴議決に基づく強制起訴が通常の検察による起訴とは異なることについて一定の考慮は必要だが、法に基づき国会議員本人が起訴された事実は重い」


ゆえに党員資格停止より重い「離党勧告」「除籍」といった処分はしないというわけだ。


「政治とカネにけじめをつける年にしたい」という菅首相の年頭スローガンや党執行部のメンツを守りつつ、予算関連法案を通すためにはどうしたらいいかという設問の答えがこれなのだろう。


「離党勧告」「除籍」を回避したという言い訳で、党内のいわゆる「親小沢」議員との妥協をはかる思惑が透けて見える。


先述したことでもわかるように、小沢氏はもともと「党員資格停止」の処分を受ける理由などない。民主党の議員諸氏は、倫理規則の元来の精神に立ち戻り、その解釈についての議論を戦わせてはどうか。


 

  新 恭  (ツイッターアカウント:aratakyo)