2010年05月26日(水)

メディアの不誠実がつくる医療崩壊

テーマ:政治

5月17日の当ブログで、石川議員の手帳に関する誤報を、通りいっぺんの訂正記事で後始末しようとする大新聞の不誠実な姿勢を問うた。


この記事について、元・杏林大学耳鼻咽喉科教授、長谷川誠氏から賛同のメールをいただいた。まずは、その一部を下記に紹介する。


「公平な報道が今日ほど望まれている時代はありません。誤りは真摯に認め、常に正しい報道を心がける姿勢が必要です。多くの巨大メディアはそのことをまったく自覚せず、もっぱら世論を自分たちの都合のいいように誘導することに躍起になっていると思わざるを得ません」


長谷川氏は、教え子が巻き込まれた、いわゆる「割りばし死事件」の裁判を通じ、メディアの報道姿勢に疑念を抱き続けてきた人である。


この10年余り、恣意的な報道が日本の医療を壊し、医師の人権が脅かされる実態を見てきた。


そして、昨年4月、教え子のA医師が全面無罪を勝ち取り、裁判が終結したのを見届けたあと、それまで堅く口を閉ざしていた自らの見解を社会に向けて発信していく活動を始めた。


筆者も、医療崩壊と呼ばれる昨今の社会現象とメディアの報道のあり方が深くかかわっているという認識をかねてから持っていた。


「割りばし事件」は、この国の医療が崩れ始めるきっかけとなった。


「善意の医療行為」の結果がおもわしくなかったことについて、捜査当局が刑事責任を問うという、過去に例のない事態が起きたのである。このあと、警察の医療への介入はエスカレートしてゆく。


捜査の対象になった者に対し、マスメディアは自ら検証することなく、警察や検察の発表を頼りに「悪」と決めつけ、センセーショナルな報道を繰り返す。


それが、医療不信を引き起こし、医師と患者の関係を悪化させ、医療という行為そのものにリスクを感じた医師が次々と現場から立ち去っていく。


こうして、病院に医師が不足し、残った医師は過酷な労働を強いられて、疲労の中での医療というさらなるリスクを背負わされる。


「割りばし事件」とは、何だったのか。あらためて振り返ってみたい。大きく報じられたので覚えておられる方は多いだろうが、マスメディアは必ずしも正確に伝えていない。


平成11年7月10日に、その不幸な出来事は起きた。


4歳の男の子が綿あめをくわえて走っていて前のめりに倒れた。その弾みで割りばしが男児の喉に突き刺さった。


男児は救急車で杏林大学救命救急センターに運ばれた。A医師はまず救命士からそれまでの経過を聞いた。


「転倒し割りばしがのどに刺さったが、こども自ら抜いたようだ」、「搬送中に一回、嘔吐した」という話だった。男児の意識ははっきりしていた。


A医師は男児の口の中を視診し、さらに傷を綿棒で触診した。割りばしは見当たらず、傷も小さくすでに血は止まっていた。周囲の変化もなかった。


このため、傷口を消毒し、抗生剤軟膏を塗ったうえ、抗生剤と抗炎症剤を処方し、2日後に来院するよう母親に告げた。


男児は翌日の午前6時ごろまでは大きな変化はなかったが、その後、容態が急変、杏林大学病院救命救急センターで午前9時過ぎ、亡くなった。


このあと、病院は割りばしの残存を疑ってCT検査をしたが、その有無は判明せず、異状死として警察に届け出た。


検視の結果、異物は発見されなかったが、司法解剖で初めて割りばしの破片が喉の奥から小脳まで深く突き刺さっていたことがわかった。


警視庁はA医師を業務上過失致死などの容疑で書類送検し、検察は在宅起訴した。両親は民事訴訟を起こした。


なぜ割りばしで命を落とさねばならないのか。死亡した男児、その家族の心情を思うと痛ましい。


「私どもの力が及ばず、お子さんを救えなかったことについて重く受け止めており、心からご冥福をお祈りしてきました」


長谷川氏はそういう思いを抱きつつ、「医学的には極めて難しいケースであるにもかかわらず、夜間の救急外来において診断できなかったことの刑事責任を問われたことに大きな違和感を持った」と述懐している。


この事件の刑事裁判は、2006年3月の第一審判決で、医師の過失を認めながらも死亡との因果関係を否定してA医師を無罪とした。2008年11月の第二審判決では、過失もなかったとし、全面的にA医師の主張が認められて無罪となった。


民事では、2008年2月の第一審、2009年4月の第二審ともに、A医師に過失はないとする判決が下された。


この10年にわたる裁判過程で、マスメディア各社は無罪判決を真摯に受け止めず、A医師に過失があったかのような印象を与える報道を繰り返した。


2008年2月13日の「みのもんたの朝ズバッ!」はその最も悪質な例といえる。民事の第一審で原告の請求が棄却された直後の放送である。


この放送内容については、A医師とその家族が名誉と信用を毀損され、精神的被害を被ったたとして「放送倫理・番組向上機構」(BPO)に申し立てを行い、BPOは2009年10月30日、重大な放送倫理違反があると判断、TBSにしかるべき措置をとるよう勧告した。


筆者がこのBPO勧告の長文の資料を読んで感じたのは、反対意見を排し、一方的にターゲットを叩くという「みのもんたの朝ズバッ!」という番組の特徴が如実にあらわれていることである。


少なくとも裁判で争われているような問題の場合、コメンテーターの人選は、中立的であるか、対立する意見を有する複数の専門家や識者を並べるよう配慮して、公平なスタジオトークをするべきだ。


ところが、その日、この問題についてのゲストコメンテーターは、A医師から名誉毀損で提訴された経緯のある医療ジャーナリスト、油井香代子氏だった。


みのもんた氏は油井氏とこのような会話を続けた。


みの「ちょっと乱暴じゃないかと思う判決、原告の請求を棄却。さあいかがですか」


油井「一般的に考えてちょっと不思議だなと思う、そういう判決でしたね」「非常に厳しい救急医療の現場で頑張っているドクターたちのプライドを傷つけるんじゃないかと」


みの「私みたいな、ど素人が考えても『刺さっちゃったんです。怪我してる。ああ、この角度で、そういう状態で、脳に損傷ないのかな』、素人でも考えますよね」


本来ならここで、専門医の冷静な見解を聞かなければ、公平な報道とはいえない。


ところが、A医師が、みの氏の言う「ど素人でも考えつくあたりまえの治療」をしなかったかのような印象を視聴者に与えたまま終わっている。


頭蓋底は厚く硬い骨である。割り箸が貫通するとはふつう考えない。もしそんなことがあれば、脳幹部損傷ではほとんどの場合、即死か、助かっても高度の意識障害や四肢麻痺が起こる。


A医師が診察したさい、この患児は高度の意識障害もなく四肢麻痺もなかった。


専門家の言葉を借りれば、この男児の場合、割りばしが脳幹部ではなく「頚静脈孔」を通って小脳を損傷したという、世界でも前例がないケースだった。


喉に割り箸が刺さって死にいたることもある。それが、この事件で初めて証明されたのである。


A医師の診察、治療は、当時の医学の常識から見て、通常の判断のもとにおこなわれたといえる。だからこそ、裁判所は過失なしと認めたのだ。


BPOの勧告を受け、みのもんた氏は番組内で、これまた通りいっぺんの謝罪をした。


しかし、ほんの一瞬で終わってしまう形ばかりの謝罪が視聴者の記憶に刻まれるとは思えない。A医師の人権と名誉はいぜん、毀損されたままといえるだろう。


あらためてこの事件の事実を正確に知らせる番組をつくることが、テレビメディアの信頼を高めるうえでも大切なことであろう。決して、自らの間違いを正すことを恥と考えてはならない。


A医師は事件後、メディア注視のなか、大学で仕事を続けることにプレッシャーを感じ、市中の病院に転じた。長いアルバイト勤務のあと正規採用になったが、大学で専門医資格を取るという人生設計は大きく狂った。


長谷川氏はA医師のことを心配し続けている。


「常に割りばし事件の担当医師として周囲に見られ続けるという不安感と、10年という長い期間に受け続けた精神的なトラウマから少しでも逃れたいという気持ちで、耳鼻科をやめてほかの診療科に変わりたいと言っておりました」


筆者は「いま、A医師はどうしていらっしゃるのでしょう」と聞いてみた。


「現在どのような診療科でどこで医療を行っているのか私は知りません。ご家族に尋ねれば教えていただけると思いますが、教え子の心情を推し量って、あえてそれを私は聞かないつもりでおります」


愛弟子に対する長谷川氏の思いが胸に迫った。


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