普天間移設、利権構造も検証を
頭のなかで堂々巡りしているうちに袋小路に入ってしまう。普天間基地のことは、人のエゴと、他国との関係がからんでいるから、考えるほどにややこしい。
県外移転の期待を沖縄の人々に抱かせたのは、鳩山由紀夫だけではない。小泉純一郎もそうだった。
2004年10月7日、小泉首相は訪問先のハノイで記者団に語った。「沖縄の負担を全国民が分かち合おうということならば、本土移転、国外移転の両方を考えていい」
ところが、2005年9月の衆院総選挙で大勝し、10月に米軍再編協議の中間報告を取りまとめる段階になって、「これは難しい問題だ」と、逃げをうちはじめた。
実はハノイでの小泉発言はホンネとは全くかけ離れたものだった。選挙を意識した、いわば騙しといえる。
小泉の胸のうちがどうだったかを検証してみよう。
米国防長官ラムズフェルドは2003年ごろから「地元に歓迎されていない在外米軍は撤退させる」と繰り返していた。
新基地もできていない時点で、普天間から海兵隊を撤退させる考えが米軍内に出てきたのである。レーダーもきわめて古く、老朽化がいちじるしい普天間基地に執着はなかった。
長年にわたり沖縄の基地問題と深いかかわりをもってきた元国土庁事務次官、下河辺淳氏は当時の米軍の考えを、かつて、こう分析した。
「対中関係で、(普天間基地が)いらなくなったって見ているわけです。台湾を、蒋介石の軍隊が占拠したっていう意味で緊張してたわけでしょ。蒋介石親子が死んで、兵隊は年取っちゃって、いまや台湾に軍事的なテーマないですよ。」(江上能義早大大学院教授らによるインタビュー)
米軍の普天間撤退論議に動揺したのが小泉首相だ。「在日米軍撤退は北東アジアの抑止力を低下させる」と、逆に基地機能強化を米政府に対して働きかける始末だった。
「小泉さんは慌てて、有事のために米軍が必要なんてことを積極的にしゃべっているわけ。海兵隊は、もう有事なんて言っている時代じゃないって言っていますよ」(下河辺証言)
普天間の代替施設として、辺野古沖に長さ2500メートルの埋め立て空港を建設するという基本計画が決定されたのが2002年。
1996年、橋本政権のもとで普天間基地の返還が決まったとき、米軍が求めていた代替施設は50メートルていどの滑走路でいいということだった。
当初、浮かんだ案が辺野古沖の海上ヘリポートだ。海に浮かぶ撤去可能なフローテイングの工法で、漁業を守ろうとした。
ところが、そこに政官業の欲がからんでくる。どうせつくるのなら、地元に多くの金を落とすため大規模なほうがいいというわけだ。「2500メートルの埋め立て空港」と、ばかに話がでかくなった。
どうやら、小泉首相の慌てぶりの背景には、防衛論とは別に日本側の利権にまつわる事情もあったようだ。
ただ、この埋め立て空港案も、その後の在日米軍再編協議で白紙に戻され、「辺野古沖」ではなく、「辺野古崎」に1800メートルのV字型滑走路を持つ基地が建設されることになった。
「テルカン」こと、社民党の照屋寛徳は当初の計画より規模や機能が拡大したことに怒り、「V字型滑走路基地の事業をめぐって、特定の土建業者、官僚、政治家らがうごめき、工作し、不正に利権をむさぼっている」と国会で再三にわたり防衛省にかみついている。
ところで、2006年に日米が合意した内容は、沖縄の海兵隊員8000人のグアム移転と、普天間の新基地移設という、二つをパッケージしたものだ。
グアム移転も沖縄への配慮というより、対中戦略の色彩が強い。
下河辺証言の2003年ごろと違い、中国の軍拡の勢いは米国にとっても大きな脅威だ。中国が航続距離の長い原潜を増やし、グアム方面にまで活動範囲を広げてくることが予想される。
このグアム移転計画をめぐっても、守屋武昌元防衛事務次官の汚職事件をめぐる騒ぎのなかで、防衛商社日本ミラ イズの宮﨑元伸が利権漁りをしようとしていた疑惑が浮上した経緯がある。
辺野古の新基地建設は、少なくとも4000億円、下手をすれば1兆円以上かかる事業だとみられる。グアム移転の日本側負担額は60億9000万ドルで、アメリカが算出した総予算の59%にあたる。
これだけの巨額事業に、欲深き人々が群がるのは当然といえば当然だ。
岡田外相は日米合意の中身を検証すると繰り返し語っている。ぜひ、政官業の利権構造まで踏み込んで調べてほしい。
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