テレビ出演までした人事院・谷総裁の静かなる怒り | 永田町異聞

テレビ出演までした人事院・谷総裁の静かなる怒り

国民から支持されていない政権は哀れなものだ。霞ヶ関の官僚は「もうすぐ交代だ」「すべては選挙前のパフォーマンスだ」と、決めてかかっている。この政権で何が決まっても、実行される保証はない。公務員制度改革の工程表が決まったからといって、本気で内閣に楯突く必要もなさそうだ。


ところが、霞ヶ関の奥の院に鎮座ましますはずの人事院総裁が、3日朝のテレビ番組に出て、「公務員人事制度の正面からの議論を」とわざわざ訴えるという、珍しい行動を起こした。


3日の「みのもんた朝ズバッ」に出演した谷公士総裁は、なかなか気骨のある方とお見受けする。公務員人事の総元締めが、天下りや「わたり」問題などを追及されるのを覚悟で、ニュースワイドショーに出演するなどというのは、内心、よほど麻生政権に怒っているからに違いない。


谷総裁は「国家公務員の制度を改革することに異論はない」としたうえで、「手続きに問題がある」と指摘する。「正面からの議論が尽くされていない」というのだ。そして、続ける。


「内閣はその時々の政治力学で次々に変わっていきます。それに左右されないよう公務員は中立でなければなりません」


「どうしても申し上げておきたいのは、人事のあり方を決める内閣人事局のトップにどんな方が就かれるかということが最も大切なのです。総理や官房長官は多忙なので、実質的に幹部人事を決める強大な権限が内閣人事局トップに集中し、官僚内閣制ならぬ内閣官僚制になる恐れがあるのです」


谷総裁が立場上、人事院の権限を死守することを最終目的としていることは容易に推測できるが、それを差し引いても上記の発言には一理あるといえる。いくら、制度や組織をつくっても、運用するのは人間である。責任者のモラルや能力によっては、どうにでも当初の趣旨をゆがめられる恐れがある。また、明治以来の官僚支配にはそれが行われてきた歴史がある。


渡辺喜美元行革相が言う「器の議論より中身の議論が大切だ」という意味もそこにあるのだろう。「仏作って魂入れず」ではなにもならない。内閣人事局はいつのまにか「内閣人事・行政管理局」という長ったらしい名称に変わったようだが、本来、省庁のタテ割り行政の弊害をなくするのが目的だ。


幹部公務員を一元管理することによって、省庁横断的な幹部の交流人事を進め、民間や学会からも適材を登用する。それによって、省益重視のキャリアだけが出世できる悪弊を断ち切るネライがある。


日本の官僚組織は、年功による人事がおこなわれ、国家ではなく仲間に貢献した者が出世するのが現状だ。そこで、仲間にとって不都合な情報の秘匿や操作が横行する。これが「組織の共同体化」(作家・堺屋太一)という病状だ。


高度成長時代、規格大量生産の確立に成功し、日本の官僚は優秀だといわれた。その成功体験から抜け切ることができず、時代の変化に対応できていない。この症状も深刻である。


こうした根源的な「国家を死に至らしめる病」を治すためには、形とともに人づくりが大切だ。どういう人材を内閣人事局の幹部ポストに配置するのか。官僚なのか、民間人なのか、政治家なのか。そして、それはどのような基準、あるいは条件をクリアした者に就く資格があるのか。


実はその徹底的議論を抜きに、形だけの整備を急いでいるのが今回の公務員制度改革の工程表作成であり、「拙速だ」「選挙対策だ」といわれるゆえんなのである。


麻生政権の中枢部の頭の中は、内閣支持率を上げて解散タイミングをねらう方法のあれこれでいっぱいである。だから、あれだけ「わたり」容認政令の撤廃に応じる考えはないと言い張っていた麻生首相が、選挙への影響を心配する党内の声に押されて、「わたりと天下りを今年いっぱいで廃止する政令をつくる」と衆院予算委で簡単に豹変する始末だ。


「わたり」容認の政令などすぐにでも撤回すればいいではないか。今年中に新たな政令で廃止するといっても、その時期が明確でないのだから、政令を出さないまま総選挙後に政権が代わったら、あとは知らないよの世界だろう。無責任な選挙用手形といわざるをえない。この答弁に与党席が「よっしゃー」とどよめいたのは、見ている方の顔が赤らむほど低レベルな国会風景であった。


霞ヶ関改革の抵抗勢力である人事院に多くの問題があるのは承知のうえで谷総裁の肩を持つとすれば、この無節操な麻生政権の選挙対策の犠牲になるのだけは御免こうむるという思いが、彼を突き動かしているのではないか。さらにいえば「公務員たたきをすれば国民の喝采を浴びて、支持率が上がるだろう」という麻生側近たちの浅知恵に、どうしても納得がいかないということではないか。


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